第17話 芋虫

「こんなの無理ゲーじゃねぇか!!!」



 岩壁を生み出しワームからの攻撃を避けつつ突破口を見つけようと思考を展開するも、ワーム2体の猛攻により考えが定まらない。

 魔力にはまだ余裕があるが、使い切る前にワームに食い殺されてしまっては元も子もないだろう。必死に壁を生み出しワームの侵攻をズラしながら突破口を探していく。


 体の一部がミスリルでできているワームであれば、全力で挑めば仕留める可能性もあるだろう…しかし全身がミスリルのワームは恐らく無理だ。何か解決策を見つけなければいけない。

 動きを観察しつつ何か法則性か、弱点か。とにかく何か、を見つけなければ俺はこのまま死ぬこととなる。


 その時、ロックワームとミスリルワーム同士が一瞬体がかするのが見えた。2匹ともそんなことは意にも介さず標準を俺に向けて襲いかかってくるが、それは初めての突破口だった。

 ミスリルワームは速度が早く、体も小さい。ロックワームは速度は遅いが体は大きい。上手く誘導すればミスリルワームをロックワームに衝突させて殺す、もしくは共倒れを狙えるんじゃないだろうか。


 まずはロックワームに狙いをつけて行動パターンをよむ。ロックワームは俺という存在を認識している訳では無いようで、どこに目が着いてるのかは分からないが俺という形を認識しているようだ。土煙によって姿を隠した途端、ロックワームは標的を見失っていた。

 反対にミスリルワームは俺の体温を認識しているようで視界を塞いでもすぐに俺をみつける。鉄と石英にて火花を起こすと一瞬反応がみられた。


 魔力量もそろそろジリ貧になる、恐らく次がラストになるだろう。覚悟を決めて俺は魔法を展開する。




△ △ △




 ロックワームは、とある山で生まれ、長い年月をかけ肉体を徐々にミスリルへと変化させていった。ロックワームは外皮の硬度により序列が決まる世界で、知能が高い訳では無いが本能的にこのロックワームは他の個体を引き連れ、自分の王国を築いていた。

 しかしそんな日は突如として終わりを迎える。


 全身がミスリルである、王者が現れたのだ。王者は年端もいかないヒヨっ子のはずだが、何故か自分がようやく手にした鎧を身に纏っている。

 本来であれば対抗しなければならないが、この王者に従わなければならないという何か力を感じたのだった。故に王者に付き従う。


 そんな折、本来我々の餌でしかない人間を殺せと王者より命令が下った。我はそれに従い、地より現れ餌を食らう。しかし、その餌はなかなかにしぶとく、妙ちきりんな技を扱っていた。さらには姿を消す幻術の類まで使う始末。

 その動きに我の怒りも限界まできていた。


 またもや餌が土煙をあげ、姿をくらます。辺りを見ると無防備に後ろをむく餌がそこにいるでは無いか。

 ようやく餌らしく狩られる時がきた。我は全力を持って食い殺さんと襲いかかる。瞬間、我の腹に強烈な痛みを感じた。




△ △ △




 まさかここまで上手くいくとは。作戦は単純。土煙をあげてロックワームから姿を消し、別方向に土人形を生み出す。同時に俺は全身に土を被り体温を低くし、ロックワームに重なるように石をぶつけ火花を連続で起こした。熱に反応したミスリルワームが突撃した結果、ロックワームの腹を突き破り、さらにロックワームのミスリル部分に一部ぶつかったようでミスリルワームの口部分も半分が裂けていた。


 魔力も底をつき、何とか対処することが出来た。俺は急いで入口へ向かう。


 強烈な痛みが俺の右足を襲う。


 見るとミスリルワームが俺の足に齧り付いていた。いや、噛みちぎっていたのだ。

 突如片足を失い、俺はバランスを崩し前方に転がる。痛みにより頭が上手く回らない。とにかく逃げないと、でもどうやって。


 ミスリルワームは口から体が裂けているがじわりじわりと俺ににじり寄ってくる。

 失った右足部からは大量に血が流れ、急速に体温は下がっていく。その為かミスリルワームは俺の事を見失いつつあった。


 ミスリルワームに見つからなかったとしても俺は出血で死に、それ以外ではワームに食われて死ぬ。どっちにしろお終いと言わざるを得なかった。

 脳に諦めの2文字がでかでかと浮かび上がる。これ以上俺はどうしたらいいのか。魔力もなく、最早体を少し捻る程度しか行動できない。


 スクイー達は逃げきれただろうか…。最後に思ったのは自分の妹ほどの歳の女の子への心配だった。




 が、俺の前にあるものがゆっくり転がってくる。

 野球ボールほどの大きさのそれは無自然な程に緑色で、この洞窟には相応しくないほど人工的な、しかし人智を超えた何かを感じるものだった。


 魔核。先のワームより零れ落ちたそれが俺の目の前に転がってきていたのだ。


 俺は最早無意識同然でそれに齧り付く。そして俺の意識は暗闇へと落ちていった。


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