第16話 洞窟
魔核により灯されたランタン片手に、洞窟内を探索していく。中はだいぶ広く、奥行きもここからでは見えないほど遠かった。
「この洞窟のどこかにミスリルローズがあるのですね…。」
実際ヨニカの話を全部信じている訳では無いが、それでも少ない手がかりはきっちり潰していかなければならない。恐らくこの探検が最初で最後になることは、スクイーも理解しているのだろう。
じめっとした洞窟内に俺達の声が響く。すでに入口からの光は途絶え、今はこのランタンのみが俺たちを照らす光源となっていた。
「……本当にあるのかしら。……彼の見間違いということは…。」
「スクイーが弱気になってどうする。とにかく奥まで探しに行こう。幸い魔物の気配もないし、これなら安全にたどり着けるさ。」
「…そうですわね。」
気を引き締めて進んでいく。やはり暗い場所が本能的に怖いのだろう。洞窟に入ってからずっと顔が強ばっていた。…仕方ない。
「スクイーは動物とかで何が好きなんだ?」
「急になんですの?……ドラゴンですわね。」
「魔物じゃないか…そうか。」
地魔法を展開し、手早く手のひら程のドラゴンのゴーレムを作り出す。
「わぁ…!凄いですわ!」
「鉄で作ってあるから壊れないからさ、お守り代わりに持ってなよ。」
「ありがとう!!」
笑顔のスクイーがドラゴンを大切そうに握っていた。制作冥利に尽きるというものだ。
後ろでシトゥンさんが申し訳なさそうにこちらを見ていた。
△ △ △
しばらくすると開けた場所が現れる。体育館程の空間のその奥には、台座のようにそびえ立つ岩とその上に一輪の花の形をした岩が咲いていた。
花は洞窟の少し割れた天井から漏れ出す光を反射させ、遠くからでも眩い光を放っている。流石の素人でも理解出来た。
「ミスリルローズ……。」
隣でスクイーが呟く。
「本当にあったか……。よし取りにってスクイー!?」
スクイーが走り出す。幸いこの広場内は天井から漏れる光のおかげで見渡すことが出来、周囲に魔物がいないことはすぐに分かった。
俺がスクイーの元までたどり着く前に彼女がこちらに向かって声をあげる。
「見てアキ!!シトゥン!!これよ!!!お母様とお父様の!!ミスリルローズ!!」
慎重にミスリルローズを持ち上げるスクイー。宝物を見つけた少女に相応しい満面の笑みだった。
この顔が見れただけでも十分な依頼だ、なんて考えていると地面が揺れる。
突然のことに警戒する俺とシトゥンさんだが、興奮しているためかスクイーは気付いていない。
「お嬢様!様子が変です!今すぐこちらに……!!」
シトゥンさんが叫ぶのと同時に地面が盛り上がり、元凶が姿を現す。
現れたのは広場の天井にまで届くほどの大きさの魔物であった。巨大なミミズの姿で、外皮の所々がミスリルのように銀色に鈍く輝いていた。
先にある口には大量の牙がこちらを捕食せんと涎を垂らしており、完全に俺たちとスクイーは分断される形となってしまった。
「あれはロックワーム…、しかし外皮がミスリルになっている…!?」
「アキ様ご存知で?」
「有名な魔物ですよ。…外皮が岩でできている魔物で、主に死骸を食らうんですが恐らくミスリルローズと同じく魔力を吸って変異したんでしょう…。まずはスクイーを助けないと。」
「何か作戦はおありで?」
「……俺がワームの注意を引きます、シトゥンさんはスクイーを救出して入口まで逃げてください。2人が行ったら俺も逃げてこの洞窟ごと塞ぎます。」
「かしこまりました、ぜひご無事で!」
そう告げるとシトゥンさんは走り出す。
それと同時に俺は魔法を展開しつつワームの注意を引くため、石礫を生み出しワームへとぶつける。
「こっちこいや芋虫野郎!!」
俺の挑発を理解したのかしていないのか。ワームは俺目掛けて突進してきた。躱したところで地面と衝突した衝撃で俺のバランスが崩れる。ワームの体に沿うように石壁を生み出し、起動を壁へとズラす。
勢いよく壁に激突したワームにより、広場全体が揺れる。シトゥンさんは救出できたようで怯えるスクイーを抱き抱えてこちらに走っている。
壁に寄りかかるワームを壁岩を使い拘束する。ワームが振りどこうと岩を破壊するが、破壊されると同時に岩を生成し身動きを取れなくする。
「早く行って!!!」
シトゥンさん達は入口から洞窟の道へと走っていった。それを確認した俺は拘束を解き、同じく入口へ向かう。
すると目の前に新たな影が現れた。
「おいおい嘘だろ…。」
影の正体は後ろのワームよりこぶりだが大きい、全身を銀色に輝かせたワームだった。
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