第13話 本性

「貴方!!今のゴーレムを動かしていたのは貴方ね!!気に入ったわ!!私に仕えなさい!!」



 俺を指さし高らかに宣言する。



「そして命令するわ!!!アタクシの為にミスリルローズを見つけてくるのよ!!!」



 目の前にいるお嬢様が何を言ってるのか理解できなかったが、それよりゴーレム操作中の俺の邪魔をしたことにムカついていた。

 お嬢様の後ろでは心配そうな親方がこちらを見ていた。いくら親方とはいえ、お貴族様には逆らえないのだろう。しかも相手は有名なオヤバーカ伯爵家だ。親方も逆らった平民が姿を消した噂くらいは聞いたことがあるのだろう。


 俺は無言でお嬢様を無視し、その場を去ろうとする。



「ちょっと待ちなさい!誰が勝手に行っていいと言ったのかしら!?!?」



 お嬢様が俺の腕を掴む。このお嬢様に怒ってもしょうがない。ゴーレム操作中なんて話しても知らないだろうし、きっと理解すらしてくれないだろう。

 親方は貴族には逆らえないし、しょうがないんだ。誰も悪くない。

 でも、俺はこういうワガママお貴族って凄い嫌いなんだよなぁ。この世界に来てから会った貴族らしいのはわずかしか居ないけど、アイツらとは違う嫌悪感を抱く。



「すいませんが、一先ず場所を変えていただけますか?ここは工事現場ですので。」


「っそうね!こんな汚らしい場所、アタクシには相応しくないわ!着いてきなさい!」



 お嬢様が先頭を歩く。



「…貴方!名前はなんて言うのかしら!どこの人?ゴーレムはどうやって扱っていたのかしら!?」



 ………。



「……そうね。突然言われても困るわよね!アタクシはスクイー・オヤバーカ!由緒正しき伯爵家の一人娘よ!それじゃあ貴方の名前を教えてくれる!?」



 ………。



「…緊張しなくていいのよ!ほら…さっきはその急に声をかけちゃってごめんなさい!……アタクシ、貴族だから舐められちゃいけなくて…その。」



 ………。



「あの…何か言ってくださる?」



 後ろを振り向く。そこにはアキと同じ背丈ののっぺらとした泥人形がついてきていた。




△ △ △




 あのお嬢様が1度も振り返ってくれなくて助かった。

 俺はお嬢様と召使いが先頭を歩き始めたのを見計らい自分そっくりの人形を生み出し背後を歩かせた。

 お嬢様は1度も振り返ることなく、気配と足音だけで俺が着いてきてると思っていたみたいだ。生憎人形で音とかは聞き取れないが、やけに話しかけていた。

 あぁいう輩は1度関わり合うと権力なり何なりで振り回してくるからそうそうに縁を断ち切るべきだろう。


 周囲に警戒しつつ俺はギルドへと逃げ込んだ。



「そりゃ災難だったな…しかしあのお嬢様、やっぱりか…。」


「やっぱり?」


「あぁ。街で冒険者を見つけてはその場でお前と同じように声をかけてるらしい。ギルドに苦情が入ってたよ。……ギルドを通さない直接依頼はタブーだってのは言ったってしょうがないが、何とかならんかね……。」



 肩をすくめるバルさん。するとギルドの扉が勢いよく開かれた。



「ここに居ましたわね!!!冒険者!!!!」



 息を荒らげるお嬢様が、明確に俺を指さして叫んでいた。



「なんなんですの貴方!?!?人が話している時は突然居なくならないのは人としてのマナーでなくて!?!?!?」



 俺に早口で捲し立てるが、周りの冒険者から白い目で見られていることに気が付いていないようだ。



「バルさん、応接室借りてもいいですか?」


「おう、まぁ、頑張れ。」



 お嬢様を応接室に連れていく。



「確かにアタクシは無理やりだったかもしれないけどあればあんまりですわ!!そもそも……」


「結論から話していただきたい。」


「結論!?」


「…敬語はすまんが……貴方は俺の仕事中に無理やり邪魔をしてきて、自分の部下になれと命令してきたな。」


「邪魔なんか……まぁそうね、アタクシの下で働きなさい。名誉なことよ?」


「他の冒険者にも同じことをしているんだろう?それは昨日のギルドでの依頼云々に関係してるのか?」


「……えぇ。アタクシは今冒険者を集めなければいけないの。その為には優秀な冒険者が必要なの。時間もない。」


「……ミスリルローズを1週間以内に見つけることは不可能だ。アンタだってそれくらい分かってるんじゃないのか?」


「違うの!ちゃんとした情報があるから依頼したいのよ!」


「情報?」


「それは……依頼を受ける人にしか話せませんわ!」



 チラリと後ろに控えていたシトゥンさんを見る。



「事情もなにもわからず、無理やり人を連れていこうとする人間の依頼を受けるやつがいると思うか?」


「……。」


「貴族なんだから私兵とか、父親に頼めばいいじゃないか。」


「それじゃダメなの!」



 お嬢様が身を乗り出してこちらを見る。先程まであった傲慢な雰囲気は既になく、年相応の、まだ若い女の子がそこにいた。



「あと1週間で、…その…お父様のお誕生日なの……それで……プレゼントしたくて……お母様が好きだったミスリルローズを……アタクシが壊したから……。」



 ポツリポツリとお嬢様は語る。最後に見つかったミスリルローズを買ったのはオヤバーカ家だったらしく、当主アルホが奥さんにプレゼントしたそうだ。時が経ち、お嬢様、スクイーを産み幸せな家庭だったそうな。

 しかし、それも永くは続かなかった。奥さんは病に伏せ、3年前に亡くなったらしい。スクイーもアルホも嘆き悲しんだ。

 そんな折、アルホが新しい奥さんを見つけてきた。スクイーはそんな父親に怒ったらしく、その中で大事なミスリルローズを壊してしまったらしい。

 その日から2人は会話すらせず、今に至るそうだ。ずっと後悔していたスクイーは、1週間後の父親の誕生日にミスリルローズをプレゼントし、仲直りがしたいらしい。



「だから……その……。」



 自分より年下の女の子が悲痛な顔でお願いする姿を、俺は見てられなかった。



「ミスリルローズの当ては本当にあるんだな?」


「…!!うん!ある!ねぇシトゥン!!」


「宜しいのですか?お嬢様。」


「構わないわ!!あのね!シトゥンが情報を見つけてきたの!」


「……わかりました。これは冒険者としてでなく、俺個人として、あなたの困っていることを手伝いましょう。」


「!!ありがとう!!」



 笑うスクイーはただの子供だった。

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