第12話 我儘
俺とホランドがギルドに戻ると何やらかなり騒がしかった。いつも騒がしいギルドではあるが、ちょっと嫌な罵りが奥から聞こえてくる。
「ちょっと!!?ここの責任者を出して頂戴!!!アタクシを誰だと思ってるの!?!?」
群がる冒険者達の間を縫って声の元凶を見にいく。
そこには腰まで伸ばした、綺麗に巻かれた金髪のドレスを着たいかにもなお嬢様が顔を赤くし怒鳴りちらしていた。
「おぉアキ、戻ってきてたか。…こんな時に来るとは災難だな。」
「あのこれは一体?」
「ありゃアノイトス帝国のお貴族様らしいぞ。どうも無茶苦茶な依頼を出してきて、受付がピシッと断ったんだがダダ捏ねててな……。」
「なら摘み出せば?ギルドならそれくらいの権力ありますよね?」
「ところがな?あのお嬢様、どうやらオヤバーカ伯爵の娘らしいんだよ。」
「あー、なるほど……。」
オヤバーカ侯爵はここオペラシーでも有名で、子供を溺愛するあまりに街一つ潰した、とか戦争に発展仕掛けた、など様々な逸話があった。それでも貴族でいられるのはオヤバーカ現当主のアルホ・オヤバーカがそれ以外の面でかなり優秀な為であった。
憤慨するお嬢様は周りを睨みつける。
「貴方達でアタクシの依頼を受ける方は!?!?下賎な庶民なら金さえ払えば何だってやるのでしょう!?!?」
傍に控えている召使いらしき老人から袋をひったくると、中に入っていた金貨を地面にばら撒く。
「ほら拾いなさい!!!」
興奮しているためか、明らかに我を忘れている。召使いも忠言したそうだが、恐らく罰を恐れて何も出来ないでいた。
すると後ろから大柄な男が姿を現す。バルさんだ。
「お嬢ちゃん。その辺で終わりにしてくれないかね?」
「何よ!!……ヒッ!」
「アンタの出した依頼は明らかに限度がある。だから受付は断った。それだけだ。これに文句があるのなら親父さんにでも泣きついて改めてくればいい。こうして……」
地面に落ちた金貨を拾い上げると、召使いにゆっくり渡す。
「金をばらまいて怒るのはちょっと可愛げがないぞ?」
「ーーーー!!!!シトゥン!!行くわよ!!そんな端金要らないわよ!!!」
金貨そのままにお嬢様は帰って行った。最後に申し訳なさそうにお辞儀をする召使い、シトゥンさんが印象に残っていた。
△ △ △
「ところで何の依頼だったんですか?」
「おお、アキか。病み上がりじゃねぇか。そんな気にしなくてもいいが…。あのお嬢様はミスリルローズをご所望らしいぞ。」
ミスリルローズ。
ロックローズと呼ばれる岩でできた珍しい薔薇が世界中のどこかに咲いている。そのロックローズが偶然高密度の魔力を受けることで変異したのがミスリルローズであった。
ロックローズ自体がかなり貴重なモノであり、それが原型をとどめたままミスリルへと変異することはかなり少なく、市場に出回ることもほとんどない。
そのため、発見されると信じられないほどの値段で取引されているが、最後に発見されたのは20年以上も前の話である。
「そのミスリルローズを、1週間以内に納品しろとさ。期間指定がなきゃいいけど、1週間は無茶さ。ギルドはほとんど不可能な依頼は基本断っているんだがな。」
ギルドはほとんどの依頼を受け付けているが、それにも限度がある。
例えば龍帝の討伐。これはSランク冒険者が束になり、その大半が犠牲となってようやく可能性が見えてくるレベルである。
今回のミスリルローズにしても、世界中で探し回っているが依然としてほとんど発見されていないソレを1週間以内に見つけることはほぼ不可能といっていい。
日本で言えば、探偵にツチノコを見つけて欲しいと頼むような、ほぼ不可能な依頼はそもそも受け付けはいないのだ。
これは数年前に起きた、貴族がギルドへの嫌がらせのため達成不可能な依頼を大量に発注したことが由来なのだが。
「それにしてもなぜミスリルローズを1週間で?」
「さぁな、ワガママお貴族の考えることなんて、庶民のワタクシ達には想像つかねぇよ。」
鼻で笑うバルさん。
「時たまにいるんだよ。冒険者は自分たちの都合のいいように、何でも叶えてくれる職だと勘違いしてる金持ちがさ。俺らの危険性とかそういうの、こっちだって覚悟の上ではあるがなんも考えちゃいない。ああいうのは1回自分で働くのが1番だね。」
△ △ △
「おうアキ!もう体は大丈夫なのか!?」
「親方さん、平気ですよ。それじゃあいつも通りやりますね!」
「おうよ!お前さんがいれば作業効率爆増だ!」
豪快に笑う親方に背中をバンバン叩かれながら、魔法を展開していく。
イメージするのは自分の倍はある巨人。上半身が肥大化しており、筋骨隆々で、手のひらは木材を軽々と握れてしまうほど大きく。
「【ゴーレム】」
目の前に2体のゴーレムが現れる。ゴーレムを操り木材を運搬し始めると、後ろから親方の溜息が聞こえてきた。
「やっぱ魔法って便利だな…。うちの倅もこんなこと出来るようになるのかね。」
「息子さんは【水魔法】でしたっけ。」
「あぁ。最近ようやくコップ一杯の水を作れるようになってな。」
「それはおめでとうございます。」
「お前さんの話をしてたら興味津々だったよ。」
親方と談笑しつつ、ゴーレムに意識をむける。ゴーレムの操作は自動化出来ず、これらはあくまで俺の意識による操作だった。
イメージはコントローラーで、右手で木材を支え、左手で持ち上げる、みたいな感じだ。今生み出したゴーレムは腕力を高めにしてあるため運搬なんかは楽に操作できる。
ゴーレム操作はこうした物の運搬や、比較的安全な場所でしかできない。本体である俺が完全に無防備になるからだ。だから今も親方と話しているようで、親方に守ってもらっているのだ。
地球でいえば、VRゴーグルをつけてゲームをプレイしている感じに似ている。ゴーグル内で2つのゲームをプレイしつつ、隣にいる人と話している感じだ。
親方にこれから集中すると告げ、目を閉じゴーレム操作に集中する。何かあれば肩を2回叩いて欲しいと伝える。
「ちょっ……あ…な……!」
意外と簡単に見えてかなり繊細に操作しないと気が抜けてゴーレムとのリンクが途切れてしまう。そうすると作業中の人に危険が及ぶためそこはしっかりやらないといけない。
「ち……と…!どきな……い!!貴方よ貴方!!」
後ろから体を急に揺さぶられる。まずい!!
集中が急に切れ、片方のゴーレムとのリンクが切れる。ゴーレムは操作していた俺の魔力供給と意識が切れたため、魔法の効果が無くなり元の土へと戻る。それによりゴーレムが担いでいた木材が音を立てて落ち始めた。
幸いなことにその場に人はおらず、怪我人は誰1人でることはなかった。
「よかった……。」
「ちょっと!アタクシの呼び掛けを無視するとはいい度胸ね!!」
後ろを振り向くと先日ギルドで見かけたお嬢様が腕を組みこちらを睨んでいた。
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