第9話 事後
目が覚める。全身がめちゃくちゃ痛む。劣化ミスリルを最大量生成してサクリファイスオーガに落としたのはよかったが、それに伴う衝撃波について俺は何も考えていなかった。
何とかホランドだけでもとアイツの周りを岩で囲み、シェルター上にし自分もと思ったその時には、俺は吹き飛ばされる周りの木々にぶつかるぶつかる。
腕の骨が折れたな、と認識できたあたりで記憶がなかった。
そして今、俺は身動きの取れない状態で、知らない場所にいた。感覚的にはベッドか?
「目が覚めましたね。」
俺を受付嬢が見下ろす。
「えぇと……俺は?……ホランドは?」
「貴方とホランドさんは深淵の森の中で見つかりました。……あの大きなミスリルは貴方ですね?」
思わず無言になる。
「無言は肯定とします。…あの後、Sランク冒険者の方が偶然いらっしゃいまして、サクリファイスオーガは無事討伐されました。ホランドさんですが、球状の岩の中で気を失っている状態で発見されました…。これも…貴方ですね。そしてアキさん。貴方は全身の骨が折れている状態で発見されました。」
そうか…。あれですらアイツは倒しきれなかったのか。自分の弱さに悔しさを感じつつ、少なくともホランドは救えたことに安堵を覚える。
「本当なら怒らなければいけないのですが……ホランドを救っていただき、ありがとうございました。」
受付嬢の瞳から涙がポツリと落ちる。
「全快には2人とも時間がかかりますので、暫くは安静にしていてください。」
そう言い残すと受付嬢は去っていった。
「俺とお前、暫くは足踏みだな。」
横から声がする。振り向くことは出来ないが、その声の主が誰かくらいはわかった。ホランドだ。
「同じ部屋だったのか。」
「あぁ。俺ら2人ともポーションがぶ飲みだとしても1ヶ月はここだとよ。」
「1ヶ月か…そんだけあったらどんだけ依頼が受けられるか。」
「まぁー…そこは納得しとこうぜ?」
ホランドが笑う。
「とにかくアキ……助かった。ありがとう。お前のおかげで俺はまだ生きられる。」
「なに、貸一つってとこさ。」
見えてるかどうかは分からないが、ウィンクする。それが伝わったのか、ホランドは笑いながら話す。
「随分と大きな貸を作っちまったな。」
「そうだな…。退院祝いはお前の奢りでどうだ?」
「……食いすぎんなよ?」
お互い見えているものは同じ病室の天井だが、それから暫くは笑いあった。お互いの無事を称えて。
△ △ △
「…それで?あのミスリルを作った冒険者はどこにいんの?」
「彼等はまだ重体でして、面会の方は御遠慮頂けると…。」
「とはいっても?俺もSランクだから報告書とか書かなきゃいけないわけジャン?じゃないとお賃金発生しないジャン?タダ働きは嫌ジャーーン?」
「ですが…。」
「なに、数分事情聞くだけだから!ね?お願い!!」
「…わかりました。少々お待ちください。」
△ △ △
「それではこちらは…。」
「初めまして!Sランク冒険者で君達の狩り損ねたサクリファイスオーガを倒してあげた、「閃光」ことライオネルでーす!よろしく!」
病室に颯爽と現れたのは長い金髪の男性だった。銀色の鎧は無駄がなく洗練されており、所々に金色の装飾が施されている。腰には2本のレイピアを携え、俺とホランドにかなり馴れ馴れしく接してくる。
……これがSランク冒険者なのか。
態度とは裏腹に、隙がなく、本人が持つ魔力も違和感があるほどに静かだった。
「ラっ…ライオネルさん!?!?あの!?!?…あの!!!さ…サインを!!!!」
「うーん?俺のファンの子なの!いいジャーーン?センスあるジャーーン?サインしてあげる!」
ライオネルは受付嬢から筆をひったくると、ホランドの包帯にサインしていく。
「すげぇーーー!!!俺一生包帯外しません!」
「いや外せよ。てか早く治すんだろ。」
「いいねぇ!……それじゃあ、サクリファイスオーガとのお話聞かせてくれる?」
ライオネルの纏う雰囲気が変わったのを、俺とホランドは感じた。そこには先程の軽薄な姿はなく、Sランクに相応しい貫禄と殺気が現れていた。
△ △ △
「……なるほど。深淵の森の調査で出くわした…ねぇ。何とも運が悪かったジャン?」
全てを聞き終えたライオネルはそう締めくくる。実際、冒険者という仕事は死と隣り合わせなのだ。魔物との戦闘は避けられないし、それにより命を落とす冒険者も年間で見れば少なくない。
今回のように、本来ではいないはずの高位の魔物が現れることも、無いわけでは無いのだ。
「僕としてはね?サクリファイスオーガなんていうヤツより、君について聞きたいんだよね。アキくん?」
ライオネルの双眸が俺を捉える。
「あのミスリルの塊、君だよね?作ったの。ギルドに提出されている君のスキル、土魔法じゃあ、あんなのは生み出せない。だとすれば当然スキルが進化してるはずだ。……でもミスリルを生み出すスキル何てのは、ちょっと僕でも知らないんだよね。」
「それに君の経歴も、ちょっと違和感あるんだよね。たった1年でDランクまで上り詰めるのって、インパクトはないけど結構凄いことだからね?」
「そして極めつけは…。」
「君、本当に人間?」
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