第6話 日常
そこから俺は色々と依頼を受けていた。庭の雑草抜きや建設の手伝い、下水の掃除などなど。どれも土魔法を使うことで難なく成功することが出来た。
魔物討伐についても無理のない範囲で行っていき、たまに臨時パーティを組んで探索を行ったりもした。
依頼達成報酬もそれなりにあり、街の宿に泊まるには充分な金額は手に入り、生活基盤は整っていた。
街に知り合いもチラホラでき、正直地球にいた頃より充実していた。
人とは慣れる生き物だが、俺も随分とこの世界に慣れてしまったようで、俺が召喚されてから既に1年が経とうとしていた。
△ △ △
時折クラスメイトについての噂を耳にしていた。アラゾニア王国は勇者と呼ばれる強力な兵士を用いて近隣国家に戦争をしかけたらしいが、近隣国家が同盟を結びそれに対応し、結果アラゾニア王国は大敗。今は同盟国家がどうアラゾニア王国地を切り分けるかで静かに争っているらしい。
他人事ではないが、正直今から他の奴らを心配するほどの余裕は俺にはなかった。
冒険者としてDランクになった俺は今日も依頼を受けていく。
「おうアキ!今日は何受けんだ?」
「ようホランド。そうだな…。確かゾラの婆ちゃんとこの家の屋根が壊れるって話だからそれを直しにでも行こうかな。」
「またかよ!?いい加減建て替えりゃいいのにって、それは野暮か。」
「ホランドはどうするんだ?」
「お前冒険者といえばやっぱ魔物討伐だろ!」
そう言って剣を振りかぶるジェスチャーをするこの男はホランド。【剣士】のスキルをもつDランク冒険者だ。俺より先輩だが仲良くしている。
臨時パーティを組んだ時からの縁だ。
「…なぁ、アキ、そろそろ俺のパーティに入んないか?他の奴らも賛成してるし、そろそろソロってのもあれじゃないか?」
「……いや、悪いけど俺は1人が気楽なんだよね。」
「そっかー。にしてもお前すごいよな。Cランクパーティからお声がかかるなんて将来有望だな!!」
ホランドが俺の肩をバシバシ叩く。
「ちょっとホランドそろそろ行くわよ!……ごめんねアキくんこのバカが!」
「全然いいよ、ほら行けよ。」
「おう!それじゃあな!」
ホランドはパーティメンバーのカティに引っ張られていく。
俺は地球の娯楽等により魔法に対するイメージがこの世界の人間より詳しいらしく、俺の扱う土魔法はかなり評判がいい。
あまり戦闘面で活かすことは減ってきているが、運搬業や清掃とかでは割と手に職を付けつつある。
土人形を複数展開し同時操作するのだが、これがなかなか大変で。あくまで土人形は俺が操作しいるから、まさに右左で違う作業を同時に行っているようなものだ。
最初は一体がやっとではあったのだが、熟れてくると数を増やし、今や4体までなら同時に動かすことが出来る。服の内側に一体忍ばせておき、いざと言う時に対応出来るようにしている。
他には1つ大きな変化があった。それはスキルの進化である。スキルの練度が高まると、扱える位が大きくなる、というのは噂には聞いたことがあったが、常日頃から土魔法を使用していたためか進化し、今は【地魔法】へと至った。1年とは中々に長いもので、地球の、1人の学生だった自分が今や異世界にてそれなりの収入を得ているのだから世の中分からないものだ。
「さて婆ちゃんのとこに行くか。」
△ △ △
「よく来たねぇアキちゃん。飴食べるかい?」
「後で貰うよ。それでどこが壊れてんの?」
ゾラ婆ちゃんはこのオペラシー王国はマルトル街で薬師を営んでいる。息子さんがいるらしいが今は修行の旅に出てるそうで1人で生活していた。俺が駆け出しの頃にポーションやら一般知識やらでかなりお世話になった。そしてこの街で俺が異世界転移者である事を知る唯一の人物でもある。
昔は薬師ギルドにてかなり偉かったらしいが、引退してからは街の隅で細々と生活している。時々お偉いさんとかが来ては助言を求めているそうな。
「あー、これくらいならすぐ終わるよ。他に直して欲しいところある?」
「それなら倉庫の床もお願いしようかねぇ」
「了解!」
俺の持つ【地魔法】は、大地に由来する全てを操る魔法……とイメージしている。土魔法の時点で土という範囲を大きく超えていたから、想像次第で扱える物も変わるかなー、と軽く考えていたら土や石、砂に金属まで生み出し操り、改変することが出来た。正直無茶苦茶である。
かといって俺が最強か、と尋ねられたらそれは否だ。バルさんには未だに勝てるとは思えないし、上位の魔物にも対抗できないことは実践済みである。
手数が多いのと直接強いことは同義では無いってことだ。
「あらー、こんなにピカピカにしちゃって、どうもね!ほら飴!後はギルドでお金貰ってね!」
「ありがとう婆ちゃん。じゃあね!」
ゾラ婆ちゃんの家を後にした。
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