第4話 成功

 結果からいうと、大成功だった。自分を俯瞰的に見ることは出来ないからどういう状況だったかは分からないけど、目が覚めると頭の中が晴れた様な感覚だったことだけはわかった。

 そして体の奥底から漲る魔力。明らかに禁術の前より増していた。体の感覚はある。末端の、指の先が土の型により少し圧されているのをクリアに感じる。


 土の型からでるため、土魔法により周りの土を柔くし、手を前に出す。すると何やら感触があったため握ってみる。

 手のひらに伝わる生暖かい、液体やこれは…鶏肉?の感覚。

 顔から土の型が取れるとそこには頭部を失った狼が体をビクつかせながら横たわっていた。


 まさかと思い自分の手をまじまじとみると……。いや、これは言語化するのはやめておこう。指の間に挟まった眼球を投げ捨てると、廃屋にある鏡で自分を確認する。


 前の顔と変わらない…。ホッとため息がでる。一か八かで大成功が引けたようだった。正直なところ、これで俺の隷属魔法が解けたかどうか、確信は持てないが、頭の中にあった奴らへの感情の規制が取れたような感覚があった。


 それでは次は冒険者に……。と考え始めると、ふと横の狼に目がいく。

 狼は俺の知る狼とは違い体格は人以上あり、何より毛並みが青色だった。

 頭部を失った胴体のうち、脊椎辺りからキラリと光る何かが見える。その存在については、既に知っていた。魔核だ。


 ゴクリと唾を飲み込む。……もう1回くらいいけるよな?思えば一瞬だったし、大丈夫だろ。強いにこしたことないし。


 喉元過ぎればなんとやら。死を回避した事による楽観からか、俺は再度禁術を行った。




△ △ △




 結論、もう二度とやらん。滅茶苦茶痛い目にあった。……まぁその分魔力は相当強くなっているのを感じているが。


 次のプランとして冒険者になり帰る方法を探す、だがその前に禁術本をもう少し読んでおこう。

 この本には興味深い内容がかなり記されていた。これにより強い力を得ておけば、後々冒険者になった時に得をするだろう。そう思った俺は禁術本を手に取り、土魔法にて作った椅子に座りながらじっくり読み進めていく。


 読み進めていくうちにスキルについてかなりのことが分かってきた。

 このスキルという能力は、まさに現実を改変するような正直理外の力だということだ。この禁術本の作者はスキルは本来神の力であると考えているようで、故に本人のイメージ次第でどんなことでも可能であると記されている。

 スキル情報のダウンロードはしなかったのだろうか…?と考えもしたが、よくよく考えてみるとこの世界の人間、厳密にはあの老人共しか会っていないが、はスキルが当たり前に存在する認識なのだから、疑問に抱くわけもないのだろう。


 確かにスキルの情報がダウンロードされているとはいえ、右も左も知らない俺が既に自由自在に魔法を行使出来ていると考えるとイメージ次第ではなんでも出来るのだろう。

 俺は土魔法を使用し狼の土人形を生み出す。禁術のおかげか体内の魔力は格段と増加しており、体感では微量の魔力で魔法を使用できた。



 なぜスライムやあの狼でここまで魔力が増幅したか。それは魔物という存在自体が原因であった。

 魔物とは意志を持った魔力そのものであり、その魔力の性質により肉体を持った存在が魔物であった。

 故に魔物という存在は人間の遥か数倍の魔力をもつ。そしてその魔物の魔核を肉体と同化させるだけでも大幅な増幅となったのだ。



 俺は禁術を学生服のポケットに仕舞い込み、人里を改めて探しに行く。……何事もないといいけどなぁ……。




△ △ △




 思いのほか直ぐに村らしきものを見つけることが出来た。

 木造の家々が立ち並ぶいかにも村と行ったところか。昔爺ちゃんの家に遊びに行った時の村を思い出していた。



「なんだアンタ?旅人か?」



「えぇ、旅をしてまして、ここらの地理とか聞きたいんですけどいいですか?」



「おういいぞ!ここらへんで旅人さんなんか久しぶりだからな、ウチに来なよ!確か地図か何かあった気がする。」



 気の良さそうな帽子を被ったおじさんが俺を家に招き入れる。第1村人がここまでいい人だと幸先よさそうだ。

 家の中は質素で年季も感じられるが大事に使われているのがわかる。



「まぁそこらに座ってくれ。えーと…。」



 おじさんは裏から地図を持ってきてここら辺の地理について話してくれる。

 ここはアラゾニア王国、俺を追放したアイツらの国、からかなり離れたオペラシー王国近辺の村らしい。オペラシー王国は純人だけではなく、獣人やエルフ、ドワーフなんかも受け入れる差別の少ない国らしい。…獣人なんかいるのか。



「あんちゃん、えーと、名前を聞いてなかったな。」


「あぁ、私の名前はアキといいます。」


「そうか、アキさんか。俺はザイン。アキさんは冒険者とか何かかい?」


「…いえ、これからなろうかと。」


「そうかそうか、なら尚更オペラシーに行った方がいい。これでも俺は元冒険者でね。そこそこいい所までいったんだけど、これが原因でね…。」



 おじさんはズボンの裾をめくる。するとそこには木で出来た義足があった。



「ウルフにガブりよ。…アキさんも気をつけな?」


「はい、ありがとうございます。」



 その後ザインさんとたわいも無い話をした後、その場を後にした。オペラシー王国は意外と近いらしく、2日も歩けば着くそうだ。そこまでの道も整えられているらしく、難なく着くと話していた。

 ザインさんから貰った水筒片手に俺は冒険者になるべく王国へと向かった。


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