第3話 禁術

 この廃屋においてあった本や、その他の本や手紙などなどから少しばかりプランを変えなければいけないことがわかった。


 1つ。勇者召喚は禁術の1つであり、隷属魔法が仕込まれているため、召喚された勇者は召喚者の奴隷となること。


 2つ。隷属魔法を解くためには「本人が死ぬ」か「召喚者が死ぬ」か「召喚者が魔法を解く」の3つしかないこと。


 3つ。この世界には冒険者とかいう誰でもなれる何でも屋が存在するらしく、冒険者というだけでひとつの証明書となるらしいこと。


 …つまり、俺は今あいつらの認識から外れているが隷属状態であり、この世界での身分も何も持っていない。

 あいつらに復讐なんてするつもりは無いが、生殺与奪の権利は握られており、庇護してもらおうにも後ろ盾どころか戸籍すらないわけだ。



 そこでであったのがこの禁術の書かれた本。これを読む限り、隷属魔法を解き、ある程度の力を得て冒険者になることができる最善策が載っていた。…正直やけっぱちではあるが。

 俺が確認できる範囲なんてのはここらが限界で、実際のところ、もう冷静に判断できるピークは過ぎていた。


 現代っ子である俺の疲労は限界に達しており、見知らぬ土地、それが異世界であればもうキャパはとっくの昔にオーバーしていた。それを騙し騙しやってきていたが、この隷属魔法について読めばもう偽ることはできない。

 おそらく俺は今正常な判断が出来ていないだろう。でも、もうこれしか方法はないんだ。


 禁術本のページをめくる。そこには魔力を高める禁忌の方法として以下の内容が記されていた。


⚫魔物の肉体に生成されている魔核を経口摂取することで魔力を高めることが出来る。しかし、魔核は人体に悪影響を及ばし、大半は死に至る。


⚫魔核による魔力増幅の原理は魔物の根幹である魔核を摂取、吸収することで肉体を再構築し、魔核分の魔力量を増やした状態に変異することである。故に大半は肉体が形を維持出来ず死ぬ。


 この禁術本の図式では体がスライムのように崩れて溶け落ちていた。このまま飼い殺しにされて死ぬよりはマシだ。というより、俺は未だにどこか夢を見ているんじゃないかという希望を捨てきれないでいた。

 ここで死ねば夢から醒めて、教室の机から顔を上げ、先生に怒られて…。そんな日常に戻れるんじゃないか、と。


 そこからは簡単だった。森を進む中で魔物らしき存在はいくらでも見つけられた。俺はそのうち殺せそうな存在であるスライムに対象を定めた。




△ △ △




 スライムはゲームに出てくるようにドロドロとしており、粘液が意志を持って動いているそんな生物だった。体を引きずりながら移動しているためか、土や石だらけで、その奥に緑色の粘液が見える。さらに体の中心に魔核が透けて見えていた。

 俺が考えたスライムの殺し方は簡単だ。スライムを対象に…。



「スライムの体を侵食するように、土を生み出す。」



 スライムの周りに大量の土、といっても俺の体程度ではあるが、纒わり付く。スライムは抵抗しようと体を変形させるが、その変形に合うように土もまた移動していく。そしてそれらの土は徐々に徐々に圧縮されていった。

 ゆっくりと、ゆっくりとスライムを押し潰していく。スライムは見たところ意志を持った粘液のようだったため、その土全てを吸収し魔核以外を消し去ろうと考えたのだ。


 スライムが移動する度に土だらけになり、よく見れば体積が微量であるが小さくなっていることからこの作戦を思いついたのだが。


 それから20分くらいだろうか。みると野球ボールくらいの土の玉が出来上がっていた。

 慎重に土を剥がしていく。すると中から傷1つない球体が姿を現した。


 球体は紫色で、完璧な球を連想させるまさに人智を超えた何かに感じ取れた。これが魔核であった。

 俺は魔核を手に取り、廃屋に戻る。




△ △ △




 廃屋に戻った俺は早速準備をする。魔核を口に放り込み、土魔法により体の周りを土で固めていく。凄く単純ではあるが、自分の型を作ってその中で魔核を食べれば崩れずにいられるんじゃないか、そんなあまりにも無計画なそれを、俺は確信を持って実行していた。

 死んでもいい、とりあえずやる。正気の沙汰でない俺は全身を土で固め、まるでエジプトのミイラが如く型を作ると、その中で魔核を噛み砕いた。


 瞬間、肉体に激痛が走る。痛い、といった次元ではなく、自分が自分で無くなる、正気を保つことが出来なかった。

 痛みに暴れようにも、体は既に土により固定されている。

 逃げ場の無い痛みが俺を延々と襲い続けた。




△ △ △




 とある森のとある廃屋の手前には、土でできた棺桶がそこにあった。

 今まで見たことの無いそれに興味津々のウルフは、その棺桶を掘り始める。もしかしたら、食べたことの無いお宝か何かか?少し興奮しながら掘り進めていくと、匂いが変わるのを感じた。


(これは…人間!!)


 久しく人肉を食べていなかったウルフは、なんともラッキーなご馳走を見つけたことにより喜びながら棺桶を掘り進める。


(やった!掘り当て)


 とうとうご馳走にたどり着けた!と喜ぶのもつかの間。棺桶から飛び出してきた手がウルフの頭蓋を握りつぶした。

 土煙から現れたのはウルフが待ち望んだ人、ではあったが、それは厳密には違った。


 土の棺桶から蘇ったのはわずか数時間前までは地球の高校生であり、今は禁術に手を染めた禁忌の魔法使いであった。


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