第2話 藁にも
痛みで目が覚める。辺りは木々に囲まれており、昔爺ちゃんと森で遊んだ日を思い出した。あの頃は何のしがらみも、人間関係も悩まずにいられたいい時間だった……と回想している訳にもいかず。
俺は勇者召喚とかいうので異世界に飛ばされ、勇者が持つはずの強いスキルがないためにボコボコにされて放り出された。
改めて考えるとふざけた話だ。顔や手足は腫れているのか感覚はなく、ジワッした嫌な痛みだけが残っていた。
周囲を見渡すが何も見えず、本当に常識も何もかもが通用しないところに誘拐され、放り出されだのだった。
冷静になるにつれて自分に待つ結末があまりにも悲惨なものしか残されていないことに恐怖する。
「とにかく人里にでないと……!」
幸いなことにさっきのジジイとの会話で言葉は通じることはわかった。とにかく人と会って俺の事情を説明し、なんとか生きて行かないと。そして家に帰るんだ。
そう決意した俺は木々の晴れた場所を探すべく歩み始めた。
△ △ △
歩いている最中にスキルについて考える。スキルとは何なんだろう。
そもそもゲームとかであるようなスキルであれば、本人の技術や職に関係した何かが出るはずなのに、俺は【土魔法】だった。そもそも土魔法で何が出来るんだ?
そう疑問に思った瞬間に脳内に声が再生された。
【スキルへの疑問を感知。保持スキルについての情報を対象へダウンロードします。】
俺の意識はブラックアウトした。
△ △ △
今度の目覚めは最初よりはスッキリとしたものだった。スキルについての情報が全てダウンロードされたのだ。……ダウンロードといわれると俺が今いる場所がまさにゲームの中のように思えるが、それはあながち間違ってはいないらしい。
この世界は神々が作ったゲームだそうだ。そのゲーム内に実際の生命をいれて遊んでいるらしく、恐らく今も神が上から見ているのだろう。
特に目的のないシミュレーションゲームの中にいる俺が、俺達がもつスキルというのは、キャラクター達にランダムで付与される能力のことらしい。
スキルを使用することで何も無いところから発火したり、水を生み出したり。女性が象を持ち上げたりと超常の力を生み出すそうだ。
俺が持つこの【土魔法】は魔力を用いて土を生み出し操るスキルだそうだ。
スキルを認識したおかげか、俺の体にある魔力を感じ取ることが出来た。
「…土魔法」
魔力をのせ、ぽつりと呟く。イメージするのは、土の塊が手前に浮く姿。すると体から何かが抜け落ちる感覚と、目の前に現れる土の塊。
気を抜くと土の塊は地面に落下し、体には倦怠感だけが残った。
「…これはこれは…どうしようかな…。」
超能力を突然手にしてしまった時、俺はどうすればいいのだろうか。
△ △ △
森から抜け出す間、俺はずっと土魔法を使っていた。ダウンロードした知識と比べると、どうやら俺は魔力が多い方みたいだ。もしかしたら召喚されたクラスメイト全員そうかもしれないが、そこは置いておこう。
土の塊を空中へ生み出したり、自分の周りを旋回させたり。土人形を作り隣を歩かせたり、俺より大きな人形を作り俺を乗せて走らせたり。動物を作ったりと色々やって見たが、スキルとは中々に便利なものだと実感した。
これがハズレ扱いなのか…とすこし戦慄しつつ森を抜けると、木製の家がそこに現れた。
木製の家はかなり廃れており、蜘蛛の巣だらけで屋根も穴が空いていた。しかし人がかつて居ただろう痕跡は僅かに見られたため中に入る。
かなり昔からあるのだろう。床はそこら中が腐り落ちており、苔も至るところにあった。
家の中を見ていくと一冊の本が置いてあった。かなりの年代物だろう。黄ばんでおり、ページの端々は風化している。
なんでも情報をと願いながらページを捲る。見たことの無い文字の羅列であったが、何故か違和感なく読むことが出来た。
「禁術…。」
そこにはこれからの俺の人生を決定づけるソレが書き連ねてあった。
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