追放から始まる異世界探訪〜禁術使いは人間を辞めたくない〜

@mame9751

追放編

第1話 始まり

「よくぞおいで下さいました!!勇者様!!!」


 今日は新作のゲームの発売日だったから急いで帰ろうと意気込んでいた俺は、知らぬ間にどこかの王城の、玉座の前に立っていた。

 後ろを振り返るとクラスメイトがざっと10人くらいいる。俺らを取り囲むように銀色の鎧姿の人達がこちらを睨みながら構えていた。



「勇者……?ここは一体……?」



「これは!!!!まさに異世界転移!!!まさか実現したとは!!!」



 クラスでもちょっと浮き気味の奴がかなり興奮している。異世界転移?何言ってんだアイツ?



「私はアラゾニア王国第2王女、ディサーレ・アラゾニアと申します。勇者様、どうか我々をお助け下さい!」



 そう言って目を潤ませている女性は、なんというか教育上良くないレベルの美女だった。

 ハリウッド女優顔負けというか、絶世という言葉がこれ程似合う人はいないというほどに綺麗だしなにより……エロい。少なくとも彼女が現れた時点で俺達男子全員彼女の虜になっただろう。……俺も含めて。

 後ろからかなり冷ややかな視線を感じるが、今は無視させてもらおう。


 そこからディサーレ王女はまるで演劇の一部かのように語り始めた。


 封印されし邪悪な魔王が現代に蘇り、魔物を操り人々を苦しめている。かの魔王を倒すべく、遥か昔の伝承の通り魔王を倒す力を秘めた勇者を異界より召喚したそうだ。

 なんでも勇者召喚された者は全てが特殊な【スキル】を持っているらしい。


 【スキル】というのは俺らの世界のゲームとかと同じで特殊能力のことらしい。なんともバカバカしいが。



「皆様のスキルを鑑定させていただきます!」



 姫様がそう言うと後ろから眼鏡をかけた老人が姿を現した。老人が何かぶつぶつ唱えると、メガネが光る。



「貴方は……なんと!!【勇者】のスキルを!!……貴方はもしや!!【聖女】のスキル!!」



 同じく召喚されてたクラスメイトのうち、カースト上位の陽キャ達3人はそれぞれ【勇者】、【聖女】、【賢者】を持っていたらしい。



「貴方は……【剣聖】ですか!!」



 ヤンキー3人組は【剣聖】、【弓聖】、【拳聖】だそうだ。



「貴方は……なんですかこれは?【クリエイター】?」



 オタク3人組は【クリエイター】、【イラストレーター】、【小説家】だった。



「そして貴方は……【土魔法】ですな。」



 そして俺はというと……土魔法だった。

 この老人の俺を見る目が一瞬で侮蔑に変わる。どうやら俺だけハズレスキルなようだ。

 俺以外の奴らは自分のスキルがいかにも有能そうな事に興奮していたり、特にオタク連中は「これはユニークスキルで無双きたぞこれ!!」と早口で話している。



「土魔法の貴方はこちらへ来ていただけますかな?」



 有無を言わせない老人の命令により俺はクラスメイトから離される。他のクラスメイト達に随分と笑顔で話す王女様の顔が印象に残った。




△ △ △




「えー、お前のスキル、【土魔法】だが、それは庶民ですら持っている普通のスキルだ。故にお前はこの城から出ていってもらう。」



「……は?何を言ってるんですか?」



「言葉のままだ。他の勇者様方はとても強力なスキル、もしくは新しいユニークスキルばかりだが、お前は至って普通。何万と存在するスキル保有者だ。そんな者を城にて養う必要は無い。さっさと去れ。」



 一瞬で頭に血が上る。



「はぁ!?ふざけんなよ!!!おめェらが勝手に呼んで弱かったら捨てるだ!?!?どんだけ無責任なんだよテメェっグハっ!!!」



 後ろに立っていた兵士が俺を殴りつける。



「やれやれ。立場をわかっていないようだな。お前は勇者でも何でもない、ただの普通のスキル保持者だ。」



 老人はつらつらと何かを話しているが、兵士に続けて殴られ続ける俺の耳には最早何も届かなかった。

 そして俺は意識を失った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る