第3-11話 先触れ
「
「駄目だ。俺は【
「なら放っておきなさい。あくまでも、
そんなやり取りをしながら、2人は前に進む。
だから、そこにナツキは刀を振るった。魔法攻撃が届かず、剣術も無効化されるというのであれば、もはやこれしかない。
「……『
ナツキによって振るわれた切っ先が音の速さを超えると、斬撃が世界を切り裂いて空を駆ける。ノゾミは自らの第六感を信じるようにそれを回避。
「ホノカッ! ユズハッ! アカリの処置をっ!」
「ナツキ!?」
「俺が2人を食い止めるッ!」
ナツキはそう叫ぶと同時に、歩いているアラタの後ろから『
動きが止まったところに『
「
ノゾミとは違って何かを悟ったように避けるアラタは、恐らくこの技の術理を知っているのだろう。もしかしたら、
「こんなもので止められるとでも……」
そんなことを言いながら前に踏み込んだアラタの腕が、ずるりと斬られて落ちた。
「……?」
『雲散霧消』ではない。ナツキはまだ、己の身体を風へと切り替えたわけではない。それは【剣術Lv3】スキルが内包する技。
「……『残月』」
それは斬った斬撃をその場に留めることにより、斬撃の地雷をばらまく技。もちろん、ナツキにはどこをどのように斬ったのかなんて見えているし、どれくらいの時間残しておくかも彼が操れる。
そして、この
故に、飛ぶ斬撃を残せる。
それに気がついたのは、ついこの間のことだ。
「先になんて、行かせませんよ」
そう言いながらナツキはアラタの周りを囲っていく。一歩でも前に踏みでれば、そこを断ち切ってしまうように。鳥かごのように周囲を囲む。
「あら、
「忘れるわけないじゃないですか」
後ろから飛んできた声に対応するようにナツキは振り向きながら刀を向ける。遅れて、ノゾミの手のひらと刀が接触。だが、それは刃の部分ではない。手のひらと、刀の腹だ。彼女はナツキの刀を下から押し上げるようにして上に弾くと、空いた胴体に左手で掌底。
「『貫き星』」
ドンッ!!
と、腹部に尋常ならざる衝撃。先ほどの『流れ星』でダメージを負った部分に重ねるような連撃に、ナツキは思わず血を吐きながら地面に転がる。だがすぐに起き上がると、手刀で『
「それ手でも撃てるのね」
なんて言いながら、ノゾミはバックステップ。
(『
ならばこそ、彼女にとってはこの攻撃が天敵となる。
「は、
「……分かった!」
よく分からないがナツキは頷くと同時にユズハたちに向かって駆け寄る。
その刹那、ホノカの影を中心にどろりと闇が渦巻くと、その中心にはルシフェラがいて、
「逃げるぞ、ナツキ」
そう言うと同時に、ナツキの身体はぽっかりと開いた穴に飲み込まれるようにどこまでもどこまでも、闇の中に落ちていった。
――――――――――――
「……逃げられたわね」
「逃げられたな」
「はぁ……。アラタは生徒会メンバーに連絡して。
「そこまでする必要は?」
「ここまで
「そう言うお嬢様も建物を壊しているように見えましたが?」
アラタは笑いながら、ナツキが吹き飛ばされた建物を見ながら
「うるさいわね、ここまで被害が広がったら多少変わらないわよ。それに、これを直すのはどうせ全部“
「街を治めるってのは大変だねぇ」
「本家から任されているもの。あと、
「人使いが荒いお嬢様だ」
「返事は?」
「わん」
全ての文句を封殺されたアラタが、ナツキの下にあったルルの遺体に目を向けたのだが……そこには何もない。最初からそんな死体なんて無かったんじゃないかと思ってしまうほどに、何一つとして痕跡がそこに存在しなかった。
「……どうやら、逃げられたみたいだな」
「だったらそっちも追うわよ。あれだけの傷を追って生き延びたのであれば、確実に
「あいあいさー」
気の乗らない返事をしながらアラタはルルの痕跡を辿ろうと、彼女の身体があった場所に近づいた瞬間に、ノゾミのスマホが震えた。刹那、弾かれた速度でそれを手に取ると、彼女は背筋を伸ばして対応。
「すみません、遅れました」
『いや、良い。状況を説明しろ』
「
ノゾミの背筋が正されるのも無理はない。
何しろ電話の相手は日本の
本来は自分如きが話せるような立場ではない。
彼の目的は
本当に協力的な悪魔は人間に有効的なのかを確かめ、
『続けろ』
「
『……
「はい。被害はかなりのものです」
『分かった』
電話の主は事務的に応える。
『
「了解しました」
『俺ももうすぐそちらに到着する。駅で合流しよう』
「……ちょうど駅にいますので、このまま待機します」
『ああ。それが良い。ちょうど今、人払いの結界の中に入った所だ』
電話の主がそう言った瞬間、雷に撃ち抜かれたかのような衝撃とともに、ノゾミの体が硬直した。
「…………?」
慌ててアラタを見ると、彼もハッとした表情でノゾミを見ていた。
その直感が、異能である彼らの身体を貫いた。
『おい。お前ら、この街で何をやろうとしている』
「……今のを、ご存知ですか?」
この異変を感じ取ったのは自分だけじゃないという安心と、ここまで多くの異能の直感を刺激する出来事とは一体何なのだろうという不安がノゾミの心の中を駆け巡る。
『知ってるも何も……』
電話の向こうにいる少年は静かに答えた。
『……今のは大規模魔術の先触れだぞ』
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