第2-26話 生徒会と異能
シエルとの決闘が終わり、ルシフェラたちがこっちの世界に来てから早いもので2週間が経った。その間、ナツキが何をしていたかと言うと、バイトをして、アカリに連れ出され、バイトをして、ユズハの買い物に付き合い、バイトをして、ヒナタと一緒に遊び、バイトをしてホノカの魔導具購入に付き合ったりと、一言で言えば過去一番の充実具合だった。
当然、その間にルシフェラたちも交えて祝勝会も行い……チーム全員がルシフェラとエルザがチームに入ったことを受け入れた。
とは言ってもそのリアクションは様々で、悪魔について詳しく知っているであろうユズハとヒナタはひどくルシフェラに対して恐れを抱いていたし、一方でナツキと同じ『新しい異能』であるアカリは、自分より年下の女の子が入ってきたことで先輩風をどことなく吹かしていた。
さて、肝心の
というのも、シエルとの戦いが終わった後でナツキたちが手にしていた
なので、その2週間で集めることができた
悪魔たちが持っている12枚を除いても残り16枚はあるはずなのだが……どうにも手がかりがなく、集まらない。
「それにしても」
朝早くナツキが起きるよりも先にナツキの家にやって来てエルザの作る朝食を食べているという習慣のついたホノカは、食後の紅茶を飲みながら切り出した。
「悪魔たちが持ってきているっていう12枚の
「
「ええ」
ホノカはかちゃ、となるべく音が出ないようにゆっくりとティーカップをおいた。ちなみにそのティーカップは先週の土曜日にホノカと買い物に行ったついでに買ったものである。
「私たちが持っていない
「そうだな」
至極当たり前の計算にナツキがうなずく。
「そっちの反応はあるのよ。先週くらいから近づいてきてるから……そのうち戦うんじゃない?」
「やだなぁ……」
今は安全のため、
あれは本当に休まる気がしなかった。
「やっぱり俺たちが子供だからってのもあるのかな……。簡単に襲われるの」
やはり、心の準備ができないうちに襲われるというのは休まらないものである。だからこそ、ナツキはそう愚痴ったのだが。
「いや、あんまり関係ないわよ?」
「そうなの?」
「だって異能は基本的に周りより自分が強いと思ってるから」
「あー……」
ナツキはエルザに入れてもらったコーヒーを飲みながらそう唸った。
そう言われてみればそんな気がしてくる。
「だから、子供がどうとかって関係ないのよ。気にしないでいいわ」
「……ん」
ホノカは何でもないかのように言うと、残っていた紅茶を全て飲み干した。
「そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうわよ」
「そうだな」
ナツキはカバンを持って、テレビを食い入るように見ているルシフェラと食器の後片付けに取り掛かり始めたエルザに「行ってきます」と言って家を出た。
家を出るのに「いってきます」と、言うようになってから2週間。
こんなこと恥ずかしくて言えないが、ナツキはそれが嬉しかった。
ずっと1人の家に住んでいた。ずっと1人ぼっちだと思っていた。
でも、ホノカに出会ってから……それが、少しずつ変わっているのだ。
例えそれが〈
相変わらずパンパンの満員電車に乗り込んで、いつもの駅で降りて、いつものように学校に向かう。それはいつも通りの日常。変わることのない風景。
「……やっぱり、信じられないなぁ」
「どうしたの?」
急勾配の坂を登りながらナツキがぽつりと呟くと、ホノカは不思議そうに尋ねてきた。
「やっぱり、何回考えても……この学校に15%も異能がいるなんて、信じられないんだよ」
「それは未覚醒だからよ。覚醒していない異能なんて
「でも、普通は2%なんだろ? ちょっと多すぎじゃないか」
「そうかしら? たまたまこの街は異能が生まれやすい土壌なんじゃないの? 別に世界的に見たら珍しい話じゃないわ」
「そうなの?」
「ええ。だって北欧、中東、アフリカに東アジア。別に世界を見れば異能がない国の方が珍しいし、そういう国なら異能が
異能としての先輩であるホノカにそう言われてしまうと、ナツキとしては何も言えない。どうにも釈然としないものを抱えながら「そういうものかぁ……」で済ませるしかないのである。
「そんなことより……今度、勉強を教えて」
「勉強? 良いけど……なんで?」
頭は良くないが、大学に行きたいという一心で真面目に勉強してきたナツキは学年トップと行かないまでも、上位2割から3割くらいのところにいる。万人が万人そう評価するわけではないが、人によっては『勉強ができる』と評価されるくらいの位置だ。
「日本史とか……分かんないから」
「いつにする?」
「今日の放課後は、大丈夫?」
「バイト休みだから大丈夫だよ」
そういえばホノカは北欧出身だ。
というわけで放課後にホノカと勉強する約束を取り付けたナツキは教室に入って席についた。そして、朝のHRが終わっていつも通り1限の授業が始まろうとした時に……珍しく、スピーカーが鳴った。
『1年生の
どこかで聞いたことのある声だなぁ……と思っていると、そのアナウンスが自分を呼んでいることに気がついてナツキは驚愕。
しかし、今から授業が始まるのだ。生徒会室に来いと言われても行けるわけがない。ナツキが困惑した表情を浮かべていると、1限目の数学の教師が声をかけた。
「
「え!? 良いんですか!!?」
教師がそう言うのは流石に信じられずに素っ頓狂な声を出したが、
「良いぞ。今日の授業は公欠にしとくからなぁ」
なんて言われてしまうと行かないという選択肢が無いようなものである。渋々ナツキは教室を抜け出して、生徒会室に向かった。
生徒会室なんて1度も行ったことが無かったので、マジで迷いかけてしまい……【鑑定】スキルに頼りながらたどり着いた。数回ノックすると、「どうぞ」と教室の中から声をかけられたので、扉を開けると……中には5人の男女がいた。
「遅いわよ、
そう声をかけてきたのは、生徒会室の一番奥に腰掛けている少女。黒く長い髪が腰まで降りて、黒真珠のように美しい瞳がナツキを捉える。そんな大和撫子を絵に描いたような少女の名前を、ナツキは知っていた。
生徒会長、
「……なんで俺は呼び出されたんですか?」
一方で、さっぱり事情が飲み込めていないナツキは首を傾げながらノゾミに尋ねた。
「じゃあ、まずはそれを教えるわ」
彼女は席に座ったまま口を開く。
周りにいるのは生徒会メンバーだろうか……男2人。女が2人。みんなナツキのことを見ている。無表情な者、笑顔なもの、じぃっとしている者、警戒している者。多種多様な視線がナツキを貫く。
だが、気になるのはそこではない。
どうして彼女たちは
「
「……はい?」
ナツキは、ノゾミがなんと言ったのか分からなかった。
何を言いたいのかも、分からなかった。
ただ、遅まきながらにナツキの背筋に冷たい物が走る。
それは、彼の第六感が危機を知らせる合図。
「異能であるということは……仕方のないことよ。望んだ生まれではないのだから。犯罪者の子供が犯罪者でないように、異能の子供だからと言って異能に生まれてしまうのは……
「……異能? 犯罪者??」
「とぼけるのは辞めてちょうだい、
「…………」
……なんだ、これは。
「さて、もう一度言うわ。
なんで、知っているんだ……っ!
「そう驚かないで。私たちは
ノゾミは平然とした顔で、コン、と机を叩いた。
刹那、ナツキを襲うのは水に張った油の膜を通過するような、分厚い空気の層を押しのけるような……決して交わることのない物を通り抜ける感覚。
「
Grail Game Gose ON!!!
――――――――――――――――――
これにて2章終了です。
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