第2-15話 一蓮托生

 翌朝、アカリが中学校に登校するのを見送って、ナツキはバイト先に連絡をした。体調不良でしばらくの間休ませて欲しい、と。


 1週間でもバイトの稼ぎが無くなってしまうのは苦しいが、『愛欲パトスの呪い』で離れられないのだから仕方のないことだと割り切った。


 ちなみに、店長からは「お大事に〜」とだけ返ってきて、思わずナツキは拍子抜けしてしまった。


 さて、そんなナツキだったが来たるべきシエル戦に向けて、放課後にヒナタとユズハと揃って河川敷に向かった。


「お、お二人には模擬戦をしてもらいます……!」


 『シール』を張った状態で首のない巨人を呼び出したユズハは長い前髪を揺らした。


「う、動きづらいとは思いますけど、どうにかして頑張って下さい……!」

「よし、頑張ろう。ヒナタ」

「ええ。すぐに慣れてみせるわ」


 ヒナタがそう言った瞬間、ばっ――! と、巨人がナツキたちの後ろに一瞬で移動。


「……ッ!?」


 速くなってる……っ!? 思わずナツキはそう言いかけて、巨人の振り上げた拳を【身体強化Lv3】で受け止めた。バズっ!! と、音を立てて巨人の拳がナツキの手のひらに吸い込まれる。


「きーちゃん! そのまま叩き込んで!!」


 ズドドドドッ!!


 ナツキに右腕を掴まれた状態のまま連撃を鬼のように叩き込んできて、ナツキはそれら全ての攻撃を左手で流す。それはアラタの剣術の模倣。【剣術Lv3】の目を持ってすれば、彼の剣術を見ただけで覚えるなど造作も無い。


 そこでナツキはアラタの使っていた剣術を自己流に応用して、手刀で再現したのだ。


八瀬はちのせくん! そのままつかまえてて!」


 ヒナタがそういうと、ナツキに拳を振るっていた巨人の身体が浮かんでいく。


 刹那、頭の中に響くファンファーレ。【ダメージ軽減Lv1】を入手したという声を聞きながら、ナツキが空を見上げるとヒナタの『念力PK』に掴まれた巨人の身体が見えない力によって無理矢理に丸められていくではないか。


「はい。私たちの勝ち」

「あ、甘いですよ、夢宮さん!」


 そう言った瞬間、ヒナタの足元から出現した犬が彼女の足をくわえて……持ち上げた。


「きゃっ!」


 可愛い悲鳴を上げながら体勢を崩すヒナタに巻き込まれるようにしてナツキは地面に倒れそうになる。だが、ただでは済まさないのが彼。そのまま勢い任せにユズハの犬を蹴り飛ばした。しかし、その瞬間に上空にいた巨人の拘束が解けて落下。


 そして、そのまま地面に倒れ込んでいるナツキたちにローキックを撃ち込んだ。


「……ッ!」


 それを【心眼】スキルで見ていたナツキはヒナタを抱えて跳躍。わずかに遅れて靴の底を巨人の足が擦過さっかする。その時、頭の奥底で響くファンファーレ。【流離さすらい】スキルを入手した。


「『紫電火花スパーク』ッ!」


 バジッ!!


 雷が爆ぜる音がして、ナツキの手元から生み出された雷が空中を裂きながら、巨人に直撃。大きく地面を爆ぜさせると、巨人を一瞬して戦闘不能にする。ナツキの腕の中にいるヒナタは、すぐに状況を掴むと足元にいた犬の従魔フォロワーをしっかり『念力PK』を使って空中に持ち上げた。


「……これでどうだ?」


 そして着地。

 そんなナツキを見ていたユズハは嬉しそうに答えた。


「や、やっぱり、八瀬はちのせさんは強すぎます!」

「でも、いくつか問題が見つかったよ」


 ナツキはそう言うと、ヒナタを地面に降ろした。


「こっちから近接戦に持ち込めないのが辛いな」

「は、八瀬はちのせさんは近接が得意ですもんね」

「得意ってのもあるし……。何より向こうに『身体強化系の異能』と勘違いさせて、魔法を使っていうっていう方法が取れなくなるのがな」


 今までの使っていた黄金パターンが使えないというのは痛い。痛すぎる。だからと言って、今から新しい方法を考えだしたとしても、それを自分の力にするのに一体どれだけの期間がかかるだろうか。


 ナツキは困ったように頬をかくと、


「え? だったら逆にすれば良いじゃない」


 その悩みをヒナタは一笑に付した。


「逆?」

「ええ。だから、八瀬はちのせくんは最初から魔法しか使わないようにするの。それで、あの魔女ウィッチに近接が苦手っていう風に思い込ませる」

「うん」

「私も意図して中距離攻撃をしかけるわ。そうすると向こうはこっちが近距離苦手なんだと……思ってくれるんじゃないかしら」

「……なるほど」


 その可能性はある。


「それで勘違いさせて、近づいてきたシエルを向かい撃てば良いのか」

「い、良い案だと思います!」


 ユズハもそういって、ヒナタの案に頷いた。


「こ、今回の決闘の、相手は1人だけ……。だ、だとしたら、敵の魔女ウィッチはあらゆる攻撃を自分で対処しないといけない……そう思ってるはずです! だから、近接に穴があると思わせれば……そこに飛び込んできてくれるかも……!」


 異能としての先輩であるユズハがそう言ってくれるなら心強い。


「なら俺も魔法の練習をしないとな」

「な、何か知りたいことがあったら言って下さい! な、なんでも答えます!!」

「ありがとう、ユズハ。でも、その前に『魔導書こいつ』を読んでみるよ」


 そういってナツキは『インベントリ』から『魔導書』を取り出して笑った。


鏑木かぶらぎさん。八瀬はちのせくんが読むまで少し休憩しましょ」

「ゆ、ユズハで良いです!」

「あらそう? じゃあ私もヒナタで良いわよ」


 なんてやり取りを聞きながら、ナツキは『魔導書』の中でも『雷属性』のページを開いた。相変わらず魔法陣を見れば、どんな魔法なのか一発で理解できるので『魔導書』が便利だと思う反面、


(威力足りるか……?)


 という疑念もある。


 というのも異世界帰りのアラタは、ナツキの持っている大技中の大技『紫電一閃』を使ってようやく倒せた。今回の敵はそれに勝るとも劣らない古い魔女エンシェント・ウィッチだが、ヒナタと離れられないので『紫電一閃』は使えない。


 となると火力が必要な場合の対処法を、別で考えなければ行けないのだが、


「……遠距離、ねぇ」


 まずは、こちらを片付けるのが急務である。


 とは言っても【雷属性魔法】で出来る幅は広い。

 遠距離を攻撃する魔法くらいあるだろうと思って探していると……見つけた。


「雷の槍を飛ばす、か」


 ナツキはそう言いながら、その魔法を使ってみる。


「『雷の槍グングニル』」


 彼の手元で世界がねじ曲がると、雷光を放つ一本の槍が手元に生み出された。ナツキはそれを振りかぶって……。


「……ふッ!」


 【投擲Lv2】を活かして……投げた。


 ブンッ!!!


 ナツキの投擲によって真っ直ぐレーザーのように突き進んだ雷の槍は、100m以上離れているであろう対岸の土手に着弾すると――爆発ッ!!


 まるでアイスをスプーンでくり抜いたかのように、球状に土手を削り取ると槍は霧散した。


「……つっよ」


 それを見て、思わずそう漏らした。

 いくら魔法とは言え、土手に穴を開けるほどだとは思わなかったのだ。


 しかも魔導書によると、『雷の槍グングニル』は投擲の距離が持ち主の筋力に依存する分、距離による威力減衰が他の魔法と比べてほぼ無い独立型スタンドアローンの魔法。


 まさか遠距離魔法のカテゴリからこんなに脳筋な魔法を見つけるとは思っていなかったが、結果はオーライ。ナツキはこの魔法を練習しようと思い立って、とりあえず『雷の槍グングニル』を作っては投げ、作っては投げを繰り返した。


 その練習を熱心な顔で見つめるユズハと、顔を青ざめて見つめるヒナタには気が付かなかった。

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