第2-16話 アイテムと異能
それからというもの、ナツキたちは『シール』の中に閉じこもってヒナタとナツキの呼吸をあわせる訓練を積んだ。まずは移動するところから。そして、移動しながらナツキの魔法を重ねる練習を。それらが終わったら、あらゆる状況を想定した模擬戦を重ねていく。
日中学校に行けない分、ナツキたちは超能力と魔法を組み合わせた遠距離戦の練習の時間をたっぷりと用意することができた。
『便利屋』に預けた『影刀:残穢』が返ってくる日の練習中、急にナツキは頭の中にファンファーレが鳴り響いたので、不思議に思ってディスプレイを開くと、『魔法を1000回使用しよう!』の『クエスト』をクリアしていた。
「ちょっとヒナタ。地面に降りたい」
「分かったわ」
『
練習中に魔法を1000回も使用したのか……と感慨深く思いながら、ナツキは『インベントリ』に収納された『魔法使い独り立ちセット』を取り出す。
出てきたアイテムは3つ。
だが、今回は杖でも魔導書でもローブでもない。
「……なんだこれ」
そこから出てきたのは指輪とネックレスと腕輪だったのだ。
「
「俺の異能でさっきに手に入れたんだけど……なんだろ、これ」
ナツキはそう言いながら、【鑑定】スキルを使って入手したアイテムを調べた。
――――――――――――――
『神骸の腕輪』
・神の身体を削り出して作られたとされる腕輪。恒常的に魔力の消費を抑えることができる。
(効果:MP消費-50%)
『竜骨のネックレス』
・受けた魔法攻撃を半減する。ただし、装着している限り魔法の発動時間が遅くなる。
(効果:魔法ダメージ-50%。詠唱時間+15秒)
『鬼謀の指輪』
・魔法をスロットに書き込むことで、指輪に触れれば詠唱することなく魔法を発動することができる。スロットは6つ。魔法のレベルと威力に応じて、スロットに登録する容量は変化する。
(効果:魔法の即時発動。最大6つ。最低1つ)
――――――――――――――
……な、なんかすげぇのが来た。
ナツキはそれぞれのアイテムによって表示されている説明欄を読んで驚愕。今までのアイテムたちとは格が違うというかなんというか。
「ど、どうしたの?
「いや……。ちょっと自分の異能を舐めてた……」
『クエスト』がぶっ壊れだとは常々思っていたが、まさかここまでとは……。
ナツキは大きく深呼吸をすると、気を取り直す。
ぶっ飛んだ性能のアイテムばかりとはいえ、どれもこれもナツキが使えるようなものじゃない。まず『竜骨のネックレス』。これは魔法攻撃を半減するという一見するとトンデモ性能のネックレスだが、装着していると詠唱時間が15秒も追加されてしまう。
はっきり言おう。
これは、ゴミだ。
何しろナツキが詠唱する魔法は【四属性魔法Lv1】と【無属性魔法Lv1】。これらは魔法のレベルが低いため詠唱に時間がかからないのが強み。なので、無駄に詠唱時間を加算してしまうこのネックレスは無用の長物なのだ。ナツキには。
「なぁ、ヒナタ」
「どうしたの?」
「このネックレスあげるよ」
「い、いいの!?」
そう。ナツキにとっては無用の長物でも、ヒナタには違う。
彼女は魔法を使わない
しかも、シルバーのおしゃれなネックレスだ。ちょっとデザイン的に男物のような気もしないでもないが、アクセサリーに詳しくないナツキはヒナタに『竜骨のネックレス』を譲り渡した。
「これを付けてたら、魔法の攻撃を防いでくれるんだってさ」
「えっ……」
ナツキがそういうと、ヒナタの顔が固まった。
「ほ、本当に……そんな大事なものを貰っても……いいの?」
「うん。ヒナタが持ってるのが、一番良いから」
ホノカもナツキと同じ魔法使いなので彼女には駄目。アカリも魔法を使うから駄目。ユズハはよく分からないが、召喚術が魔法に該当するならデメリットがあるため駄目。
というわけで、ナツキの仲間の中で消去法的にヒナタが良いと思って彼女に渡したのだ。
するとヒナタはナツキから貰ったネックレスを愛おしそうに手で握ると、なんとも言えないによによとした表情を浮かべながら嬉しそうに首にかけた。
「どうかしら? 似合ってる?」
「うん。似合ってる。可愛いよ」
「本当?」
「本当だよ」
前にアカリとウィンドウショッピングをした時に、『どんな時でも女の子への第一声は「可愛い」だよ、お兄ちゃん』と教わった通りにヒナタを褒めると彼女は明らかに嬉しそうな顔を浮かべた。
「私、アクセサリーを着けるの初めてだわ」
「そっか。家が厳しいから」
「えぇ。お父様も、お母様もこういうのは許してくれないもの」
「だったらもっと女の子らしいデザインの方が良かったかな」
思わず失敗したかなぁ……と、思ってしまったナツキだったが、
「ううん! これが良いわ!!」
ヒナタは全力でそれを否定してきた。
その速度が早いのなんのって。
「これが、良いの。
そしてまた大事そうに胸の中でネックレスを抱える。
『クエスト』でもらったからそんなに大切なものじゃないんだけどな、と思う反面、
(……こんなに喜んでもらえたら渡したかいがあったなぁ)
そう、思ってもしまうのだった。
その後もしばらく模擬戦を続けたが、16時になったので現実世界に戻るとホノカが既にナツキの家の中で待っていた。
「おかえり。調子はどう?」
「かなり形になってきたよ」
「頼むわよ。ナツキがこの戦いの鍵なんだから……」
なんて言っていたホノカの視線がヒナタの胸元のネックレスに向かって……止まった。
「……あれ? ヒナタ。それって、『竜骨のネックレス』じゃない。どうしたの?」
流石は名門グレゴリー家のお嬢様。
ヒナタのネックレスが何かなんて見ただけで分かるらしい。
「これはさっき
「す、凄いなんてものじゃないわ! それはヴェネチアの魔法使いたちが50年かけてつくる
と、そこまで言ってホノカがナツキを見た。
「な、なんでナツキがそんな貴重なものを持ってるの!?」
焦ったような、困ったような顔をしながらそう言うホノカに、ちょっとドヤりながらネックレスを見せつけるヒナタ。
「さっきクエストで出たんだよ。ホノカの分もあるぞ」
ナツキはそう言いながら、『インベントリ』から『鬼謀の指輪』を取り出した。
「はい、これ」
「……っ! 『スロットリング』じゃない! ほ、本当に良いの!?」
ぱっ、と顔を輝かせるホノカ。
「うん。俺は使わないから」
どうやらこれもホノカは知っているようだ。
ホノカの魔術は詠唱時間がかかるものがある。
それを記憶させて、即時使うことができればホノカの
だから、ナツキはそれを見たときから、ホノカにプレゼントするつもりだったのだ。
「あ、ありがとね。ナツキ」
そういってホノカはナツキに左手の甲を上にしてぐっと指を広げた状態で……差し出した。
(……指輪をつければ良いのかな?)
普通、指輪を受け取るんだったら手のひらを上にするだろう。手の甲を上にしたということは、指輪を付けて欲しいのだろうか? でも、指にはめやすいように指の間を空けてるから多分、そうなんだろう。
(……どこの指につければ良いんだ?)
しかし、ナツキは女の子に指輪を付けた経験も無ければ、アクセサリーをプレゼントしたのも先ほどのヒナタが人生初。女の子から指輪をつけろと暗に言われても、どの指にはめれば良いのか分からない。
だがしかし!
困った時は【鑑定】スキルに聞けば良いのだ!!!
(……【鑑定】)
変な指に付けて恥をかかないようにナツキが【鑑定】スキルを発動した瞬間、『↓』の表示がホノカの左手の薬指に出た。
(……ありがとう。【鑑定】スキル)
ちらりとナツキは指輪を見てホノカの左手の薬指を見ると、確かにサイズがぴったりになりそうな気もしてくるではないか。それに、失踪する前の母親から『大事な女の子へ指輪をプレゼントするときは左手の薬指にする』とか何とか言われたような気がする。
やっぱり困った時は【鑑定】スキルに頼るべきだなぁ……と、そんなことを考えながらナツキはホノカの左手の薬指に指輪をはめた。
「……ッ!?!?!?」
「ちょ、ちょっと
だが、それにびっくりしたのは女性陣。
ヒナタはともかくとして、指輪をはめられた方のホノカは全身の毛が逆だった猫みたいにびびびっ! と身体を震わせると、自分の指にはめ込まれた指輪を見た。
「
「え、何の?」
なんだ。もしかして俺は何かやらかしたのか?
【鑑定】スキルに頼ったのに……!?
「い、良いの! べ、別に私は気にしないから! さ、行くわよ! 『便利屋』の所へ!」
だが、ナツキが問い返すよりも先に顔を真赤にしたホノカに押し出されるようにしてナツキとヒナタは家から出るはめになり……ナツキが真相を知るきっかけは
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