第16話 異質な異能

『時間を巻き戻すッ!?』


 翌朝、電話でホノカに『ループ』の説明をしたところ、ものすごい勢いで食いついてきた。


『ちょっ! それ、本当なの!!?』

「ほ、本当だって。俺の【鑑定】スキルで見たんだから。珍しいのか?」


 魔法に閉鎖空間に『クエスト』と来て、さらには召喚士サモンとここ数日で色んなことが起きすぎた結果、ナツキの感覚は完全に麻痺しきっていた。


 なので、別に時間を操作する異能や魔法だってあるんだろうと踏んだのだが。


『魔法を使った時間操作は禁忌中の禁忌よ。珍しいなんてものじゃないわ』


 あまりにも電話越しの声が本気すぎるので、ナツキも困惑。

 そんな大層なものを手に入れたなんて夢にも思わなかった。


「き、禁忌中の禁忌?」

『そう。どの国も秘密結社も表立って異能を使って時間を操作することは禁止してるの。時間矛盾パラドクスを起こさないためにね』

「パ……なんだそれ」

『例えばナツキが生まれる前の時間に行って、両親を別れさせたらどうなると思う?』


 ナツキは少し考えてから、


「……俺が生まれないことになる?」

『そう。しかも、過去の世界では何がきっかけでそうなるのかが分からない。だから、時間を操作することを禁止してるの』

「な、なるほど」


 分かったような、分からないような気分だったが、とにかく時間を操作が禁止されていることが分かったので良しとする。


『それで、の方はどう?』


 ホノカに聞かれて、ナツキはドヤ顔で返した。


「それなりってところだ」


 今朝は簡単にできる背筋100回をして、【身体強化Lv3】を入手。


 入手してみて、世界が変わった。


 まず、車が片手で持ち上がる。

 普通に道路を走っているあの乗用車をいとも容易たやすく持ち上げることができる。


 そして、全く疲れない。


 あと動体視力もやばいことになった。


 今朝のニュースで流れていた野球選手のボールを止まっているかのように見ることが出来たので試しにと思って、ネットに転がっている動体視力をチェックするサイトで試してみたのだが、どのサイトも簡単すぎて話にならなかった。


 試しにと思って、動画投稿サイトに転がっている銃器の動画を見てみたら弾丸1発1発を止まって見えるようになっており、とんでもないことになったなぁ……と他人事みたいに考えたのが記憶に新しい。


「ホノカの方はどうなんだ?」

『私はもう少しってところね。でも、明日までにはちゃんとするわ』


 ホノカがそこまで言うなら信用できるだろう。


『もし何かあったら連絡して』

「分かった」

『あと、ナツキ』

「ん?」

『もし、明日……私にいざってことがあったら、助けなくて良いから』

「……おいおい、急にどうした?」


 ホノカがシリアスなテンションで語りだすものだから、ナツキは困惑していると、


『真面目な話よ、ナツキ。異能の戦いにおいて、一番無駄なのは情。仲間を助けようとしたところを狙われることは……少なくないの』

「どういうことだよ」

『例えば……仲間を人質に取られた時、ナツキだったらどうする?』

「助けに行く」

『そういう時はだいたい、人質に時限型の魔法陣が組み込まれてるの。助け出した後、お仲間ともども魔法陣で、ドン! よ』

「…………」


 異能は殺したら面倒になるんじゃないのか。

 なんでどいつもこいつもそんな殺人に積極的なんだ。


『しかもそういう魔法陣は人質に組み込まれているから、殺された相手への呪い返しが上手く機能しないの。だって、魔法陣の魔力は人質自身のものなんだから』

「……殺伐としすぎだ。異能は」

『しょうがないのよ。みんなが自分の思ったことを通すだけの力を持ってるんだし、誰しもが敵なの。だからね、ナツキ。どんな状況になっても絶対に私を助けないで』


 ホノカの言葉には、言葉以上の重みがあった。

 恐らくだが、彼女はきっと似たようなことを経験したのだろう。


 そして、未だに言葉にできない思いを抱えている。

 だからこそ、その片鱗が言葉に現れており……とても、重いのだ。


「なぁ、ホノカ」


 だが、ナツキは。


「俺は……助けなくて良い。だけど俺は、君を助ける」


 最初から、そう決めている。

 彼女が1人で戦っていると知ったその日から、彼女だけは裏切らないようにと……そう決めたのだ。


『だ、だから! そういうことをしたらナツキの命が』

「分かってる。でも、俺はホノカを助けるって決めたから」

『〜〜っ! も、もう! 好きにすれば!』


 ホノカはそう言うと、通話が切った。


「よし、今日は忙しくなるぞ」


 ナツキはそういうと、まず【無属性魔法】で作り出したレンズを庭先に置く。そして、その下に黒い紙をセット。飛ばないように、魔法で作り出した重りを置いて今度はキッチンに戻って冷蔵庫を開ける。


 そこから昨日買っておいた500mlの炭酸飲料と1Lの水を取り出して、机の上においた。


「よし、やるぞ……!」


 500mlの炭酸飲料一気飲みは普通にしんどい。

 ちなみに昨日の夜に2回失敗したので、今は弱炭酸の飲みやすいやつを買ってきた。


「……ふぅ」


 息を吐いてやるしかないと覚悟を決め、ペットボトルのキャップを外して一気に口へと持っていった。


(うおっ!!?)


 昨日までの炭酸飲料と違って、弱炭酸は飲みやすいのなんの。

 最初からこうしておけば良かったと若干の後悔を抱えながら、ナツキは500mlのペットボトルに入っていた炭酸飲料を飲み干した。


「……なんでポーションを手に入れるのに炭酸飲料をイッキする必要があるんだ?」


 なんて『クエスト』に文句を言っている間に、『インベントリ』に『治癒ポーション』が送り込まれる。


「水は後回しにしとこ……」


 500mlの一気飲みは普通にしんどかった。

 追加で1Lも飲もうものなら、マーライオンは避けられない。


 なので、ナツキはランニングすることにした。


 100kmという超が着くほどの長距離だがスキルによって強化された自分なら、数時間と経たずにクリアできるだろう。


 そんなことを思って、外に出た。

 走っている間に、【火属性魔法Lv1】を入手したというアナウンスが流れると同時に、


 ――――――――――――――――――

 以下のスキルが統合可能です。

 ・【火属性魔法Lv1】

 ・【水属性魔法Lv1】

 ・【風属性魔法Lv1】

 ・【雷属性魔法Lv1】


 統合先スキル

 ・【四属性魔法Lv1】


 統合を行いますか?

 Yes/No


 ――――――――――――――――――


 なんてディスプレイが出現した。


「これって統合したらなんか変わんの……?」


 ナツキは不思議に思って【鑑定】スキルやら何やらを使って調べてみるが、どうやら統合しても何も変わらないようだ。せっかくだからやっておこうということで、『Yes』を選択。ついでに、『駆け出し魔法使いセット』なるものを入手した。


(『インベントリ』のおかげで、アイテムが散らばらなくて良い)


 『インベントリ』の内部はどうやら時間が止まっているらしく、熱々の唐揚げを放り込んで1時間経って取り出したら、熱々のままだった。なので保管期限などにも気を配らなくても良いのが便利で良い。


 しかも、中に入っているものは『インベントリ』に意識を向けると、ぱっと頭の中にリスト化されて思い出せるのである。


 なので、アイテムの持ち運びが一気に楽になった。


「……クエスト様々だな」


 なんて言いながらナツキは1時間半かけて家の周りをぐるりと50kmランニングすると、1Lの水を一気飲み。これで、『MP回復ポーション』も入手した。


「ついでだし、魔法の練習もしとくか」


 ナツキはそう言って、『シール』の中に入る。


 次の瞬間、道路を走っていた車の音や近所の人の話し声。

 鳥の声や、どこからか聞こえてくる工事現場の音などが全て消え去った。


 現実世界に上塗りされた世界では、ナツキが許可しない限り何人たりとも入れない。

 

「よし、やるか」


 攻撃魔法の威力が凄まじいというのは、昨日の試しでも分かっている。


「……とりあえず、『駆け出し魔法使いセット』でも見てみるか」


 さっき入手したそれは、ローブと杖、そして魔導書という『魔法使いスターターキット』と全く同じ構成だった。駆け出しというくらいだから、何か新しいアイテムでもあるのかと思ったが、性能がよくなっただけである。


「だけっていうか、『MP消費-2』は大きいよな」


 なんて言いながら、ナツキは魔導書を開く。

 これも前の魔導書と同じように、片方に大きな魔法陣。もう片方のページには魔法の威力の説明が記載されていた。


 出版はおなじみのロンドーラだった。

 どこにあるんだよ、この会社。


「ふんふん。【火属性魔法】の使い方ね」


 しかし、本は日本語で書かれているので分かりやすいのなんの。


「『風の刃リーパー』は明らかに威力高めだったし、もっと手軽に威嚇っぽく使えるやつが良いなぁ。人殺したくないしなぁ……」


 ナツキはページをめくりながら、考える。

 どうやら魔導書はナツキが入手した4つの属性ごとに章が別れており、そこに色々な属性魔法が記されていた。


「でも【火属性魔法】はホノカと被るし、【水属性魔法】はあの子の下位互換って感じがするし。うーん、せっかくだったらカッコいい魔法が使いたいんだよなぁ……」


 あまりぱっとするような魔法がないので、ナツキが決めあぐねていると……ちょうど【雷属性魔法】の欄に目が止まった。


「……ん」


 思わず、手が止まる。


 ぱらり、とページをめくる。

 魔法陣を見た瞬間に、使い方が頭の中に流れ込んでくる。


「……ありだな」


 そして、そんな言葉が口から漏れた。


 ホノカとかぶらず、アカリともかぶらない。

 そして、【雷属性】というなんとも厨二心を刺激してくるワード。


「これしかないだろ……ッ!」


 ナツキの中で、練習するべき魔法が定まった。

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