第6話 異能バトルに巻き込まれた

『クエストが更新されました』


 魔法の練習を終えて家に帰ろうとした時にナツキの目に入ってきたのは、その一文だった。


 真っ暗な河川敷の中でも、ディスプレイ自体が発光しており読みやすい。

 

「そいや、全部のクエストクリアしたんだったか」


 魔法を10回使った後はクエストではなく普通に魔法の練習を河川敷で行っていたので気にしてはいなかったが。


 ――――――――――――――――――

 クエスト

 ・腹筋を100回しよう!

 報酬:【身体強化Lv2】スキルの入手


 ・30kmランニングしよう!

 報酬:【持久力強化Lv2】スキルの入手


 ・【無属性魔法】を使って火を起こそう!

 報酬:【炎属性魔法Lv1】スキルの入手


 ・【無属性魔法】を使って水を入手しよう!

 報酬:【水属性魔法Lv1】スキルの入手


 ・【無属性魔法】を使って雷を発生させよう!

 報酬:【雷属性魔法Lv1】スキルの入手


 ・【無属性魔法】を使って風を巻き起こそう!

 報酬:【風属性魔法Lv1】スキルの入手


 ・閉鎖空間シールに侵入しよう!

 報酬:【結界操作】スキルの入手


 ・魔法を100回使用しよう!

 報酬:MP+50


 ・20kgの荷物を持って10km走ろう!

 報酬:『インベントリ』機能の拡張


 ・四つの属性魔法を入手しよう!

 報酬:『駆け出し魔法使いなりきりセット』の入手


 ・敵の『異能』を倒そう!

 報酬:『影刀:残穢』の入手


 ・【無属性魔法】を使って敵の『異能』を倒そう!

 報酬:【無属性魔法Lv2】スキルの入手


 ――――――――――――――――――


「多いな!!!」


 帰り道に誰もいないことを良いことにナツキは大声でつっこんだ。


 急に増えすぎだろ! 

 どうしたんだよ『クエスト』さん!!

 俺はいったいどこから手をつければ良いんだ!!!


 と、半ば嬉しい悲鳴をあげながらクエストを上から下まで確認するナツキ。


「とりあえず簡単なやつからクリアしていけば良いかな?」


 じゃあ腹筋から攻略するかぁ……と眺めながら『クエスト』のディスプレイを下まで見た瞬間、最後の2つのクエストに引っかかった。


「……敵の、異能?」


 さらっと物騒な文章が書かれており、ナツキは首を傾げた。


「異能って……『クエスト』みたいなやつか……?」


 もしかして、自分以外にも同じように『クエスト』を持っている人間がいるんだろうか。


 そう疑問に思いながら、ナツキは『クエスト』の文章に向かって【鑑定】スキルを発動しようとして……ふにゃり、と変な感触に全身を絡め取られた。


 例えるなら、水に張られた油の膜を全身で通過するような感覚……と例えようか。ナツキは今まで感じたことのない感触に気持ち悪さを覚えると同時に周囲を見渡した。


「……あれ?」


 そして、小さな違和感に襲われた。


 さっきまで自分は夜の住宅街を歩いていた。

 家に帰る途中だった。小さい頃から何度も歩き慣れた道だ。


 絶対に間違えるはずがない。


 ……なのに、この違和感はなんだ?


 ナツキは不思議に思いながらも周囲を再び見回して……気がついた。


 どの住宅にも、


「……ど、どこだここ!?」


 同じ街、同じ風景。

 だが、何かがに違う!


 刹那、頭の中に電子音のファンファーレが鳴り響いた。


閉鎖空間シールに侵入しよう! を達成しました』

『【結界操作】スキルを入手しました』


 ……へ、閉鎖空間!?

 閉鎖空間って何!!?


 訳の分からない状況が続いてばかりで、ナツキが狼狽うろたえていると、


 ドォッ!!!


 突如とつじょとして、ナツキの背後が爆発したッ!!


「……な、なんだ!?」


 刹那、爆炎と煙の中を突っ切って1人の少女が空を駆けた。

 その後ろを衛星のように半透明の氷が少女を追いかける。


「あははッ! 逃げてばっかりじゃ勝負にならないよ! お姉ちゃん!!」


 そして、もう1人の少女が爆炎の中から飛び出した。

 空を駆けた少女の顔は見えなかったが、もう1人の少女はゆっくりと歩いているからその顔が炎に照らされよく見えた。


 夜の闇を切り払うかのような黄金の髪に、紫水晶アメジストのような透明度の高い紫の瞳。そして、炎の光を吸い込んで反射している絹のような白い肌。だが、それよりも目に入ったのは、彼女のだった。


 まだ、13か14か……とにかく、中学生くらいに見える少女がにこやかに笑いながら、炎の中を歩いて抜けた。


「あはっ♪ 男の人に化けたって、ここには私たちしかいないんだから無駄だよ。お姉ちゃん」


 その金髪の少女はナツキを見ながら、勝ち誇ったようにそう言った。


「……いや、君。誰?」


 だが、ナツキは彼女の顔に見覚えがない。

 というか、これは流れ的に自分がさっきの空を飛んでいた少女と勘違いされてるのでは……?

 

「んんー?」


 その少女は眉を潜めながらナツキを見た。


 そして、徐々じょじょにその紫の目を丸くしていく。


「え、いや……。お兄ちゃん誰? なんでアカリが許可してないのに『シール』の中に入れてるの?」

「シール?」

「し、シールも知らないの? じゃあ、一般人ノルマ? なんでここにいるの!?」


 問い返したら、『マジかこいつ』みたいな顔して、逆に問い返された。


 いや、『シール』って何なんだよ!

 教えてくれよ!!


 ――――――――――――――――――

『シール』


 ・『現実』に上張りするように展開された閉鎖空間であり、発動者が認めた者しか入ることができない。主に異能が戦う時に使用される。


 ――――――――――――――――――


 ……『異能』。

 繰り返されるそれを見て、ナツキは……理解した。


 彼女たちは……自分と同類なのだと。


「まぁ、良いや。あかりの邪魔しないでね、お兄ちゃん」


 あかりと言った少女は「氷獄のコキューティア」と、世界に宣言するかのように詠唱。


 刹那、世界が、少女の手元に小さな氷柱つららが5つ出現。


「魔法!?」


 その光景を見ていたナツキは思わずそう口に出した。

 間違いなく、その光景は先ほどまでナツキが河川敷で見続けていた光景で、


「なんだ、お兄ちゃんも知ってるんじゃん」


 そんなナツキを置いて、アカリは氷柱ツララを放った。


「さぁ、『追って』」

 

 パァン! と、空気が破裂する音と共に、氷柱が弾丸のような速度で空を駆けていた少女を追いかける。


魔女ウィッチだかなんだか知らないけど! そんなふっるい異能でよくここまで生きてこれたね、お姉ちゃん!」


 アカリがそういうと、空を駆ける少女を追っていた氷柱ツララが爆発。

 空中に巨大な氷塊を生み出して、逃げる少女の逃げ場を塞ぐ。


 生み出された氷は重力に引かれて地面に落ちると、誰もいない民家を粉々に砕いた。


(あ、あの氷、数トンはあるぞ……!)


 ナツキが生み出された氷に驚いていると、

 

「あはは! 逃げるだけじゃ勝てないよ!」


 追撃と言わんばかりにアカリが手元に氷を生み出して、詠唱。


「『獄士の氷手スティクス』」


 刹那、巨大な氷が世界を捻じ曲げ空を引き裂いて出現。


 逃げ続けている少女を上から叩き潰すかのように、大きな手のひらの形をしたそれは凄まじい速度で少女に迫ると、


 バンッッッ!!!!


 ――凄まじい音と共に、空を駆ける少女を地面に落とした。


「弱いね、お姉ちゃん。弱すぎるよ。もう諦めたら?」

「……いや、よ。……やっと、日本に来たんだから」


 少女が震える足で立ち上がりながら、そう言う。

 だが、そんな彼女に呆れるようにアカリはため息をついた。


「MPも少ないし、魔法も弱いし。お姉ちゃんって弱いんだからさ〈さかづき〉なんて諦めて、元の国に戻ればいいのに」

「……諦めないわ。そのために、ここまで来たんだから。『燃え盛れK』」


 落ちた少女が叫ぶと同時に、世界に炎が咲いた。

 氷を溶かすようにして、崩れ去った民家に燃え移り、夜の闇を祓う。


 その瞬間に、ナツキは見た。

 そこにいる少女の顔を。


 雪のような銀の髪、そして燃えるような赤い瞳。

 そして何よりも、手で触れたら壊れてしまいそうなほどにはかない彼女は、


「ホノカ!?」


 今朝、痴漢から助けた少女だった。

 だが、彼女はナツキに気がつかずに歯を食いしばって手を伸ばし――その先では蛇のようにうねった炎がアカリに向かって伸びていく。


「あはは! 最後がこれって。弱すぎるよ、お姉ちゃん」


 だが、それを意に返さないアカリの手元で再び世界がねじ曲がる。

 そして、そこには一本の剣のような氷弾が生み出されていた。


 殺す気だ。

 この少女は、ホノカを殺すつもりなんだ……ッ!


 突如として巻き込まれてしまった状況を、ゆっくりと理解しはじめたナツキは氷の弾丸を見てそう思った。


「どうする? お姉ちゃん。〈さかづき〉の断片ページを渡すなら、無傷で返してあげるよ♪」

「……渡すわけが、無いでしょ」

「あっそ。じゃあ、死んで」


 あかりは興味を失ったおもちゃを壊すかのように、無造作にそれを放つ。

 それはまっすぐ、落ちた少女の頭へと飛んでいって――。


「……『強化』ッ! 『縮地』ッ!!」


 ミシッ! と、全身の筋肉が音を立ててナツキの身体が弾丸以上の速度で飛び出したッ!!


 なぜ飛び出したのか。どうして、助けようとしているのか。

 そんなもの、決まっている。


 ――俺が、俺だからだッ!


 ナツキは地面を蹴って、吠えた。


「『鎌鼬カマイタチ』ッ!」


 それは【剣術Lv2】が持つ斬撃。


 反射的に動いた彼のによって飛ばされた不可視の斬撃が、氷の剣を打ち砕く。


「な、ナツキ!?」

「朝ぶりだな、ホノカ」


 そして、ナツキはアカリとホノカの間に身体をねじ込んだ。


「ど、どうしてここに……」

「分からないけど、死にそうだったから」


 その時、ホノカは彼がナツキだと気がついたようで……慌てて、落ちた時にぐしゃっとしてしまった髪の毛なんかを整え始めた。


 ……え、それ今やるの?


 死にかけている時に身だしなみを整えるなんて……と、ナツキは思ったが、女の子は身だしなみが命だと聞いたことがあったので、彼はそれに触れずにスルー。


「……あかり言ったよね。邪魔しないでって」


 不機嫌と怒りを混ぜた顔を浮かべて、アカリが傲慢ごうまんにもそう言い放つ。


「邪魔するなら、お兄ちゃんも殺すよ」


 彼女の手元で世界がねじ曲がると、再び氷の弾丸が出現する。


「……それは辞めといた方が良い」


 ナツキには、分かっている。

 【剣術Lv2】スキルによって……あかりのが、直感的に分かってしまっている。


 最も斬りやすいのは腕、ついで首。

 機動力を削ぐための脚。そして、心臓への突き。


 どれも、今のナツキが赤子の手を転がすように出来る芸当だ。

 そして、それをしてしまうと、


「君が、死ぬことになる」


 アカリは簡単に死んでしまうだろう。


 それが分かる。

 嫌でも理解してしまう。


 だから彼は、静かに伝える。


「俺は君を

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