第5話 魔法に目覚める異能
その日の授業が終わるやいなや、ナツキは街の外れにある河川敷に向かった。今日はバイトが休み。なので、クエストをクリアしまくろうと考えたのだ。ランニングコースとしても有名なそこで、10km走って【持久力強化Lv1】を入手。
ついでに石を100回投げて【投擲Lv1】スキルを入手した。
「……よし。残りクエストは後1つだ」
そう言いながら、ナツキは自らのステータスを眺める。
【投擲】スキルは使用すると、石を投げるときのコントロール力と速度が上がった。プロの野球選手顔負けの速さで不定形な石を投げられる。野球ボールなどを投げたらもっと凄いことになるだろう。
だが、それよりも【持久力強化Lv1】の方が効果的だった。
普段は長距離なんてやらないナツキが息も絶え絶えになりながら10km走りきった瞬間に頭の中にファンファーレが鳴り響くと、一気に呼吸が普段通りになった。
あまりのスキル効果に思わず走ったのが夢だったのかと勘違いしたほどだ。
【身体強化Lv1】と組み合わせたら、無限に走れる気がする。
「そんなことは置いといて」
ナツキは夕暮れに染まる河川敷の中で独り言をつぶやきながら、『クエスト』の表示されているディスプレイを見る。そこには、残り1つとなったクエストが表示されていた。
――――――――――――――――――
クエスト
・魔法を10回発動しよう!
報酬:『魔法使いスターターキット』の入手
――――――――――――――――――
「魔法……ね」
魔法と言うと、物語やゲームによく出てくるあれだろう。
一応、ナツキも【無属性魔法Lv1】というスキルを持っている。
だが、無属性というのがよく分からない。
【鑑定】スキルによれば、魔力操作を基本とする最も簡単な魔法となっていたが、そもそもナツキは魔力なんて扱ったことがない一般人である。どうやって使えばいいのか教えてほしい。
【鑑定】スキルで調べてみたが、そこには頭の中で想像すれば具現化するとしか書かれていなかったのだ。
「頭の中の物が具現化するってことか……? 俺でも理解できないんだから世界の誰も理解できないだろ……」
なんてことを言いながら、とりあえずナツキは頭の中で半透明な箱を思い浮かべると……「出来ろ!」と、誰に言っているのか分からない命令を下した。
次の瞬間、ぐにゃり……と世界がねじ曲がると、ナツキの手元にまるでガラスで出来たかのような半透明の箱が出現していた。
「……あれ? できた……?」
ナツキは手元に生み出された半透明の箱を触ってみる。
ぐにゃりとしてゴムのように柔らかい感触が返ってきた。
「……で、できてる」
明らかにこの世の物理法則を逸脱した現象。
ナツキは直感で理解した。
これこそが、魔法だと。
「……硬さとか変えられるのか?」
ナツキは手元にある箱をぐにゃぐにゃと触りながら、頭の中で全く同じ箱を想像。
だが今度はガッチガチで、とても固いというイメージを付加した。
「よし!」
それが合図になったのか、半透明の箱の隣に全く同じ形の箱が生み出される。ナツキがそれに手を伸ばして触れてみると、今度は金属のような硬度が返ってきた。
「次は形を変えてみるか」
箱ではなく、球を頭の中に想像すると……再び、世界がぐにゃりと曲がって、半透明の球体が手元に出現した。
「すげぇ! 思い通りだ!!」
もしかして、頭の中で考えたことは何でも出来るんだろうか?
楽しくなってきたナツキは全く別の星形で挑戦しようとしたのだが、今度は何も起きなかった。
「……あれ?」
形が複雑だったのだろうか。
ナツキは頭の中で先程まで生み出せていた箱を想像して、魔法を発動してみるが……何も起きない。
「え、なんで!?」
ナツキは慌ててステータスを開いて、気がついた。
なんとMPが0になっていたのだ。
「MPが0になると魔法が使えなくなるのか……」
だが、MPが0になったからと言って気持ち悪さとかは特に感じない。
魔法が使えなくなっただけだ。
「どうやったら回復するんだ?」
と、ステータス画面をにらめっこしていると、0と表示されていたMPの欄が1へと変化する。
「なるほど。時間経過か。よく気がつける俺は偉い!」
MPが1になったので、魔法を発動しようとしたがこれまた何も起きない。
「うん? なんで??」
ここでナツキは1つの仮説を立てた。
MPが0になると魔法が使えないだけではなく、魔法のMP消費が現在のMPをオーバーしていると魔法が使えないのではないだろうか。
試しにナツキはMPが2になった時に、魔法を使ったが何も起きなかった。
そして、3まで回復した瞬間に魔法を使うと――ぐにゃり、と世界がネジ曲がって、箱が生み出される。
そして自分のMPが0になっているのを確認した。
「なるほど、箱を生み出す魔法はMPを3消費するのか」
だが、こうなってくると気になるのは生み出す物の大きさや形によってMPの消費量が変化するのかということだ。
ナツキはしばらく魔法を繰り返し使ってみて、大体の仕様を理解した。
1つ、生み出す物が大きくなればなるほど、MPの消費は多くなる。
2つ、生み出す物の姿が複雑になればなるほど、MPの消費は多くなる。
3つ、反対に生み出す物が小さく形が単純であればMPの消費は少なくなる。
そんな検証を繰り返していると、頭の中で電子音のファンファーレが響いた。
『魔法を10回使用しよう!』のクエストをクリアしたのだ。
ディスプレイを開くと、そこには『!』アイコンが表示されていた。
――――――――――――――――――
『魔法を10回発動しよう!』を達成しました。
報酬:『魔法使いスターターキット』の入手。
この場でアイテムを入手しますか?
Yes / No
――――――――――――――――――
ナツキは周囲をちらりと見渡す。
すでに日は地平線の向こうへと沈んでおり、暗くなり始めている河川敷にはナツキ以外の誰もいなかった。
「よし、イエスだ……ッ!」
誰にも見えない状態なら、具現化したところで何も言われないだろう。
そう思ってナツキがイエスに触れた瞬間――。
――どさどさどさっ!!
ディスプレイから、3つのアイテムが吐き出されるようにして出現した。
「おわっ!? 結構でてくるな!」
ナツキは地面に落ちた『スターターキット』のアイテムたちを拾いあげる。
「服に杖……これは、本か。……お? 『魔導書』?」
本には『猿でも使える! 超簡単“魔法”の入門魔導書』と書いてあった。
「猿でも分かるってことは見ただけで魔法が使えるようになるってことかな?」
漫画以外の本を基本的に読まないナツキは『魔導書』を一旦横に避けて、服を手にとった。
服は古典的な『魔法使い』というか、大きな帽子とごちゃごちゃとしたローブだ。今どき、こんなのどこに売ってんだよとツッコミたくなるほどにコスプレぽいその服は、ナツキの身体にぴったりのサイズだった。
「流石にこんな服、着れないぞ……」
ハロウィンでも無いのにこんな服を来ていたら不審者間違いなしだ。
ナツキは一旦服を地面に置いて、
杖は木の枝を加工したもので……それ以外に何が枝と違うのかがどうか分からない。
(小学生の時に木の枝を拾って持ち歩いてたけど……それでよくね?)
なんて思いながらナツキは【鑑定】スキルを杖に向かって発動すると、
――――――――――――――――――
ロンドーラ印の
『まだ魔法が上手く使えないのに練習じゃ無駄に魔力を消費してばかりで全然練習できない!』
そんなあなたに朗報です。魔法道具シェア業界No.1のロンドーラがまたまたやってくれました。杖を使って魔法をつかえば魔力の消費を抑えてくれるのです! 初心者の皆さんはぜひこの杖を使って魔法をたくさん練習してくださいね!
(効果:MP消費-1。下限:MP1)
――――――――――――――――――
「…………」
分かりづらい文章だな!
最初っから効果だけでいいだろ!!
てか何だよ魔法道具シェアNo.1って!!!
と、ナツキは【鑑定】スキルに連続してツッコんだ。
下限というのは、MP1の魔法を使う時に、この杖を持っていてもMPは1のまま……という感じだろうか。流石にMP0で魔法を使えるようにはならないのだろう。
「思ったよりも良いアイテムじゃん。てことは、この『魔導書』も?」
ナツキは最後の本を手にとって、ぺらりとページをめくった。
その本は見開きで構成されており、左側のページに魔法陣。
右側のページにその魔法陣の説明と使える魔法が記されていた。
その魔法陣にナツキが目を通した瞬間、
「……っ!?」
ずん、と頭に重く衝撃が走った。
「え、これって魔法の使い方だよな……?」
今まで見たことも聞いたこともない魔法が、魔法陣を見ただけで理解できた。頭の中に映像が直接叩き込まれる感覚と言って良いのだろうか。それとも、自転車に急に乗れるようになった感覚と言えば良いのだろうか。
とにかく、魔法陣を見ただけで
そして一度乗り方が分かれば絶対に忘れない自転車のように……魔法というものが身体に刻まれたのが、分かった。
だから、ナツキはテストも兼ねて魔法を使った。
「『マジックランス』」
ナツキが杖を手にしてそう詠唱すると、世界を捻じ曲げて半透明の槍が生まれる。
「……
キュドッ!!
腹の底に響くような重たい衝撃の音で、ナツキは思わず目を閉じた。
そして、恐る恐る目を開けてみると――土手に直径1m大の穴が空いていた。
「……な、なんだこれ!?」
パラパラと土が降ってくる中、ナツキは土手に空いた穴を見て、
「工事現場のバイトで使える……か?」
こんなに威力があるなら引っ張りだこじゃないだろうか。
(……ってか、周りに誰もいなくてよかった)
誰かいたら絶対に警察に通報されていただろう。
後でちゃんと穴を埋めてから帰ろう。
ナツキは息を深く吐いて、いったん感情を落ち着かせた。
「にしても、凄いな。見ただけで魔法の使い方が分かるなんて」
ナツキは『魔導書』を手にとって、ぺらりとページを開いた。
次のページに書いてある魔法も、見た瞬間に理解し……身体に刻み込まれた。
ナツキは生まれてはじめて勉強が楽しいと思いながら、ページをめくり続けた。
『魔導書』の効果を知った彼は、【鑑定】を使うことなく本を読みふける。
だから、ナツキは気が付かない。
いや……『知らない』と言う方が正しいだろう。
――――――――――――――――――
猿でも使える! 超簡単“魔法”の入門魔導書
出版:ロンドーラ出版
『魔法ってなに?』『魔法が難しすぎる!』そんなあなたにおすすめの一冊がこれ! これが最初にあれば大丈夫! そんな
本書は魔法陣とその説明で構成され、魔法陣に魔力を流すだけで誰でも簡単に魔法が使えます。これで魔法の仕組みをしっかり学んじゃいましょう!
でも気をつけて! 魔法陣を見るだけでは何の勉強にも
――――――――――――――――――
己が『異能』を、まだ知らないのだ。
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