第4話 異能の真価

 剣道の教師は、外部からめちゃくちゃ上手な人を呼んできている……という話をナツキは噂で耳にしたことがあった。なんでも、校長の知り合いで、剣道部を強くするために呼んだついでに授業も担当するようになったんだとか。


「そう、そのまま前に来い」


 試合の始め方を教える教師の目つきは……まるで、熟練の剣士を思わせるほどに鋭く、尖っている。


 初めて行う剣道の試合にナツキは緊張しながらも、うずくような期待の心を抑えつけることができなかった。何しろ、前にいるのは現役の体育教師。


 一方のナツキは今まで一度も運動部に入ったことがない上に剣道なんて初めて行う。


 だが、それでも……負ける気がしない。


 俺ならできる。

 そう、俺ならなんでも出来るんだ。


「今回は審判がいないから、俺が試合開始と言ったら始める。つっても、練習だから俺は打たない。八瀬はちのせが打つんだ」

「……はい!」


 願っても無い好機だ。

 まさかこんな簡単に打ち込ませてもらえるとは。


「始め!」


 教師がよく通る声でそういった瞬間、ナツキは前に踏み出した。


 ミシ、と剣道場の床がきしむ。

 【身体強化Lv1】によって、底上げされた速度による一撃だ。


「……ッ!」


 ナツキは教師に向かって真正面から竹刀を振り下ろす。


 その時、ナツキは素早く教師がバックステップしようとするのを見た。

【身体強化】は筋力を強化するだけではなく、動体視力も強化するらしい。


 だが、ナツキは彼が動くよりも先に心の中で叫んだ。


(『新月斬り』ッ!)


 それは【剣術】スキルが内包する


 ナツキの身体は振り降ろした竹刀を再び高く掲げると、


「……シッ!」


 音を置き去りにして、振り降ろした。

 その速度に教師は目を丸くすると、竹刀を真横に構えてナツキの攻撃を防ごうとする。


 だが――。


 ――パァン!!!


 彼の構えていた竹刀が、ナツキの振り降ろしによって


(……うぇッ!?)


 これには何よりも技を使った本人ナツキがびっくり。


(竹刀って折れるんだッ!?)


 と、驚愕びっくりしながらも【剣術】スキルによって、身体は半自動的に動く。

 がら空きになった教師の胴体に合わせるように竹刀を真横に構えると、


「胴ッ!」


 それは反射的に身体が動いた結果だった。


 教師もまさかナツキが胴へと派生させるとは思ってもおらず、目を丸くしたまま……それを受け入れた。


 パン! と、乾いた音を立てて、防具にナツキの竹刀が直撃する。

 

 刹那、周囲が静まり返った。


「……八瀬はちのせ、お前がそんなに動けるとは思ってなかったよ」


 教師はそういって、にこやかに笑うと試合の終わらせ方をナツキに教えてくれた。その間に、頭の中にはファンファーレが鳴り響き、【剣術Lv2】をゲットしたとアナウンス。


 ――――――――――――――――――

 剣術


 Lv1:『新月斬り』

 Lv2:『鎌鼬カマイタチ』『弧月斬り』『縮地』

 Lv3:???


 ――――――――――――――――――

鎌鼬カマイタチ

 ・剣を素早く振るうことにより、不可視の斬撃を飛ばす。

 刃の長さが、即ち間合いとなるとは限らない。


『弧月斬り』

 ・一切の反逆を許さない抜刀術。神速の抜刀は月のような残滓を残す。

 それは死にゆく敗者へ向けたせめてもの慈悲である。


『縮地』

 ・神速を実現する歩法。初速から最高速に到達し人の目に止まらぬと言う。

 かつて縮地使いにまみえた剣士は、その素早さからあやかしと例えた。


 ――――――――――――――――――


 斬撃を……飛ばす?


 【鑑定】スキルによって表示された一文が意味不明すぎて首をかしげるナツキ。


 果たして、斬撃を飛ばすのは【剣術】スキルなのか……?


八瀬はちのせ、お前……剣道経験は本当に無いんだよな?」


 そんな一文に心の中で首を傾げていると、折れた竹刀を持った教師が半笑いで聞いてきた。


「は、はい。初めてです」

「お前、剣道部に入らないか?」

「え?」


 竹刀を折ったことを怒られる……そう思っていたナツキの予想を裏切る一言に、ナツキは戸惑とまどった。


「お前なら日本トップを狙えるぞ? どうだ!?」

「か、考えておきます……」


 めちゃくちゃ熱心に勧誘かんゆうしてくる教師を煙に巻くように、そう言ってお茶をにごす。


(スキルを使って日本トップを狙うのは……なんか、ズルだよな)


 一生懸命やってる同じ生徒たちに申し訳がない。


 調子には乗るが根が真面目なナツキはすぐに反省。

 すぐに反省できるのは間違いなく彼の長所である。


 【剣術】スキルの強さや効果を知りたくて発動してみたが、予想以上の威力だった。

 まさか、竹刀を竹刀でへし折るなんて一体誰が予想できるのだろうか。


(……危ないスキルだなぁ)


 これは暴漢に襲われた時くらいにしか使い所はないだろうな。


 ナツキはそう思いながら、改めて【剣術】スキルが持っている他の技を見直す。

 【鑑定】スキルで見れば、他の技がどのような威力なのかを3Dの人形で教えてくれる。


 『鎌鼬カマイタチ』に視線を合わせると、剣の間合いの外にいる人形が剣を振り……それで、離れた場所にいた人形の首が飛んでいた。


 『弧月斬り』は抜刀術なのだが、深くしゃがんだ状態から全身のバネを使って振り抜く神速の抜刀術で……ナツキの目にはいつ刀を抜いたのかすら分からなかった。ちなみに、斬られた側の人形は胴体から真っ二つである。


こわぁ……。これ、ガチで人を殺せるじゃんか……)


 ナツキも人間なので、殺したいくらい恨んだ相手の1人や2人くらいはいるが……だからといって、実際に殺そうなんて考えたことがない。なので、この技たちは封印することにした。


(あ、そういえばまだ『縮地』を見てなかったな)


 剣道教師が今度は他の生徒で試合の説明をしている間に、ナツキは『縮地』に視線をあわせた。


 すると、静止していた人形が地面を蹴って……一瞬で、遠く離れ場所に移動している映像がディスプレイに映し出された。


(……し、瞬間移動っ!?)


 だが、【鑑定】の文章に書いてあることが正しければ、ただの歩法らしい。


 『縮地これ』くらいは日常生活で使えるだろうか?

 ……今度遅刻しそうになったら試してみようっと。


「さて、授業を再開しよう。さっき俺たちが見せたように、みんなもペアを作って試合をしてくれ。八瀬はちのせは、俺とだ」

「え? 先生とですか?」

「竹刀で竹刀をへし折るやつと他のやつが組んだら授業にならないだろ」

「そ、そっすね……」


 ごもっともな意見にナツキは頷いて、再び教師と試合を行った。


 今度はスキルを封印した。


 ――――――――――――――――――

 八瀬はちのせ 那月なつき

 Lv:2

 HP :15 MP :10

 STR:08 VIT:07

 AGI:03  INT:02

 LUC:56 HUM:98


【アクティブスキル】

『鑑定』

『身体強化Lv1』

『無属性魔法Lv1』


【パッシブスキル】

『剣術Lv2』

『精神力強化Lv1』


 ――――――――――――――――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る