第3話 連なるクエスト

 痴漢を警察に引き渡した俺だが、そこから事情聴取やら何やらでめちゃくちゃ時間を取られてしまった。しかも男なのに痴漢されたの? みたいな目を駅員が向けてくるものだから、さらに説明に時間がかかってしまった。


「ホノカはちゃんと学校についたのかな」


 転校したばかりと言っていたので学校への道がちゃんと分かったかどうかが不安だ。

 駅から降りれば同じ制服を着た生徒たちが皆同じ方向に進むから大丈夫だと思うのだけど。


 ナツキはそんなことを考えながら誰もいない道を1人でとぼとぼと学校に向かう。

 痴漢を助けて可愛い女の子と一緒に登校するはずだったのに、痴漢のせいで1人で登校だ。悲しい。


「どうせだし、新しく手に入れたスキルでも見てみるか」


 学校につくまでは暇なんだし……と、ナツキはそんなことを考えながら【鑑定】スキルを使った。


 ――――――――――――――――――

【精神力強化Lv1】

 ・レベルに応じて精神力を強化するパッシブスキル。

 また、精神に作用する状態異常にかかりづらくなる。


 Lv1:精神力が常人より強化され、多少のことで慌てなくなる

 Lv2:???


【無属性魔法Lv1】

 ・MPを消費して魔法を使うことができる。

 魔法の形や威力はレベルと持ち主の想像力に依存する。


 Lv1:最大MP消費10までの魔法が使える。

 Lv2:???


 ――――――――――――――――――


 どちらもLv2以降の文字は灰色に塗られており、『???』で表示されるなどどのような効果が含まれているか分からなかった。


「MPを消費? あれ、でも……」


 ナツキのMPは0である。

 ステータスを見たから間違いない。


「レベルが上がればMPも増えるとか……か?」


 ゲーム的に言えば、その考えは正しいだろうが……現実はどうだろう?

 そんなことを考えていると、ピコン! と音がなって、『クエストが更新されました』と視界の右上の方に小さく表示された。


(……スマホの通知みたいだな)


 どうせスキルを見るついでだ。

『クエスト』の方も確認しておこう。


「『クエスト』」


 そういって彼が一声かけた瞬間に、ばっと眼の前いっぱいにクエストが表示される。


 ――――――――――――――――――

 クエスト


 ・剣を100回素振りしよう!

 報酬:【剣術Lv1】スキルの入手


 ・石を100個投げよう!

 報酬:【投擲Lv1】スキルの入手


 ・魔法を10回発動しよう!

 報酬:『魔法使いスターターキット』の入手


 ・10kmランニングをしよう!

 報酬:【持久力強化Lv1】スキルの入手

(0.7/10)


 ・クエストを5つ達成しよう!

 報酬:レベル+1

(4/5)


 ――――――――――――――――――


「おお!?」


 クエストめちゃくちゃ増えとるやん!


「どれからやろ!? 『魔法使いスターターキット』ってのは……これ、アイテムか? 表示がちょっと違うな。それに、レベル+1って……。レベルが上がるのか。こんな簡単に上がって良いのか? 剣を素振りって……剣ってどこで買うんだ……??」


 だクリアしていないクエストは、更新されても残るみたいだ。

 思わぬ収穫にナツキの口角があがる。


「ま、『クエスト』の続きは放課後だな」


 そう言って、ナツキは校門をくぐった。


 まず職員室に言って警察の人からもらった証明書を渡し、遅刻ではなくしてもらってから教室に入った。


 入ったら、教室の中に1人しか生徒がいなかった。


「……あれ?」


 おかしい。普通に授業中のはずなんだけど……?


 ナツキは不思議に思いながら教室の中に、おずおずと入っていくと教室にたった1人でいた少女が振り返って、素っ頓狂な声をあげた。


「はっ、はっ、はっ、八瀬はちのせさん!?」


 クラブのDJが流すスクラッチみたいにナツキの名前を呼んだ少女は鏑木かぶらぎ柚葉ユズハ。ナツキより頭1つ小さい少女で、彼女の目を隠すほどに長い前髪がトレードマーク。


 だが、その髪の奥には透き通るような宝石のように蒼い瞳があることをナツキは知っている。


 彼女は入学当初、目の色がきっかけで虐められており、ナツキが持ち前の正義感で助けたところめちゃくちゃなつかれたのだ。ちなみに席も隣。なので、とてもナツキは彼女ととても仲が良い。


「ユズハだけ? みんなは?」

「ほっ、他の人はみんな体育に行きました!」

「体育……? あっ」


 ナツキは教室の端にかかっている時間割を見ると、そこには選択授業の『剣道』の文字が。


「この時間は剣道じゃん!」

「お、男の子たちはそうだと思います」

「ユズハは行かないの?」

「わ、わた、私は体調不良で……」


 わたわたと慌てるユズハに、ナツキは『お大事に!』と声をかけると、体操服を手に取って更衣室に向かった。


 着替えて剣道場に入るとクラスメイトたちが勢揃せいぞろい。


「すいません! 遅れました!」

「ん? ああ、八瀬はちのせか。早くしろ」


 剣道担当の教師には少しどやされつつも、ナツキは剣道の防具を身にまとい竹刀を手に取る。その間に、体育教師が授業を進める。


「まずは素振りからな。すぐに試合ができるわけじゃねえぞ」


 そう言う剣道担当の教師は若い男の先生だ。


「基本が何より大切だからよ、しっかり振れよ」


 素振りをしながらそう言う教師の太刀筋は素早く無駄がない。素人のナツキにすらそれが分かるのだから、腕のほどはよっぽどなのだろう。


「よし、素振り始め!」


 教師の合図と同時に、一斉に竹刀を振る。

 ナツキもそれに遅れず振り始めた瞬間、ぱっと視界にディスプレイが表示された。


 ――――――――――――――――――

 ・剣を100回振ろう!

 報酬:【剣術Lv1】の入手


(09/100)


 ――――――――――――――――――


(おっ!)


 棚からぼたもち、とはこの事を言うのだろう。

 剣といえば金属の物だけだと思っていたが、竹刀も剣に該当するのか。


 しかも、授業で好きなだけ振って良いとくれば……振るしかないよな!


 ナツキはそう言って、一心不乱に100回振った。


「よし、やめ」


 教師がそう言って素振りをやめさせるまでに、ナツキはしっかりと100回素振りを達成していた。頭の中に二重のファンファーレが鳴り響く。


 だが、授業の邪魔なのでディスプレイを最小化しておくと、


『剣を100回振ろう! を達成しました』

『クエストを5回達成しよう! を達成しました』

『【剣術Lv1】を入手しました。レベルが2に上がりました』


 なんて女の人の声が頭の奥に聞こえてきた。


(……なるほど。ディスプレイが見えないと、声で聞こえるんだ)


 『クエスト』の新しい発見である。

 これなら、いちいちあのディスプレイに視界を埋められることなく『クエスト』の達成状況を見ることができる。


 ……だけど、【剣術】スキルなんてどこで使うんだろうか?

 というか何が出来るんだろうか。


 ナツキは教師の話を聞き流しながら、【剣術】スキルに【鑑定】を使った。


 ――――――――――――――――――

【剣術】スキル

 ・剣を扱う動作が上手くなる。剣の威力も向上する。

 また、レベルに応じた剣術の技を使うことができる。


 Lv1:『新月斬り』

 Lv2:???


 ――――――――――――――――――


(……わ、技ァ!?)


 ここに来て、急に厨二心をくすぐられてしまったナツキは、【剣術】スキルの説明欄にある『新月斬り』に視線をあわせて【鑑定】を使う。


 ――――――――――――――――――

『新月斬り』

 ・直上にあげた刃を素早く振り降ろし、相手の胴体を斬り裂く。

 斬られた相手は月の無い夜に月を見るという。


 ――――――――――――――――――


 ……お、おおっ!?


 今回は文字の説明だけではなく、剣を持った3Dの人形がディスプレイに現れてどのような技なのかを教えてくれた。


 真っ直ぐ上に持ち上げた剣を素早く振り下ろす技のようである。


(なるほどね。こうやって動くのか)


 しかも、【鑑定】スキルの最後の一文が良い味出してる。

 これこれ。こういうのが良いんだよ。


 なんてナツキが【鑑定】スキルの文言に見とれていると、教師がナツキに話しかけた。


八瀬はちのせ。お前、剣道やってたのか?」

「い、いや。やったことないです」


 急に話しかけられて、困惑しながらもナツキはそう答える。

 親がいなくなってからというもの、ナツキは習い事というものをしたことがない。


「綺麗な素振りだったから経験者かと思ったぞ。歩法も教えたところだし、どうだ? 一試合やってみないか?」

「え、俺がですか?」


 俺の隠れた才能が出てきちゃった?


 なんて調子に乗ろうとするナツキを置いて、体育教師が続けた。


「試合って言ってもみんなに流れを教えるんだ。そんな真剣勝負じゃないぞ?」


 そういって乱雑に笑う教師の真正面に重なるようにして、ディスプレイが現れた。


 ――――――――――――――――――

 緊急クエスト!


 ・10分以内に体育教師から1本取れ!

 報酬:【剣術Lv2】の入手


 ――――――――――――――――――


 それを流し見したナツキは、不敵に笑った。――なるほど、今日の自分はつくづく運が良い。


 だからこそ、教師に宣言した。


「やります」


 と。

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