これは夢か現実か

 結局僕の記憶のことはわからずじまいになってしまった。でもまぁ、わからない方が良かったのかもしれない。実際僕はこの生活にかなり満足していた。昌也ともだいぶ話せるようになってきたし、こんな下水道ではなく、もっといい環境のところで、皆んなが大人になって社会に出ていくまで一緒に暮らしていけたら、そんな事を考えながら歩いていった。あまりこっちの方の道にはきたことがなかったが、こちら側にはあまり警備はいないようだ。かなり近くまできたと思うのだがまだ子供一人いない。しかし歩いていくうちにこの違和感は確実なものとなっていった。「おかしい、おかしすぎる。いくらなんでも誰も居なさすぎじゃないか?」そう考えていると向こうからタタタンという音がした。僕は嫌な予感がした。まさか、そんなはずはない。僕は走った。ヘドロでぬかるんでいる道を一心不乱に走った。途中でこけてベチャベチャになりながら全力で走った。基地の近くまで来ると、下水に赤が混ざった嫌な色の水が流れてきた。ダメだ、嘘だといってくれ。曲がり角を曲がった僕の目に門番役だったはずの中学生ほどの子供4人の死体が飛び込んできた。ぐちゃぐちゃになって互いに絡み合いながら一つの肉塊になっていた「あ、あぁ、アアァあァアアあー」僕は絶叫した。下水道に僕の声が響いた。僕は走った。皆の元へ向かわずには居られなかった。中心にいくにつれて道端に転がっている死体の数は増えていった。血だらけの赤。死体だらけの光景「クッッッ!」なんだこの感覚は、僕はこれを見たことがあるのか、こんな凄惨な光景を。そんな事をしている間に、昌也のところに着いた。息を呑んでドアを開ける。昌也は生きていた。僕が部屋に入るたった今まで。ドアを開け切るのと同時に昌也の脳天が撃ち抜かれた。昌也を殺した男がこちらを振り向く。「見つけた」僕は思い出した。今までの全てを。自分が何をしてしまったのか、自分とはなんなのか。何故、俺が記憶喪失になったのか、俺は走った。もちろん、このままじゃアイツに殺されるからだ。家族殺しの殺人鬼、それが俺だった。過去の恨みが限界に達し、家族に手をかけてしまった。アイツだけ、俺の弟だけを残して。計画的だった。わざと弟だけを気絶させるよう仕向け、警察が到着した頃に意識を取り戻すようにしたのだ。案の定弟は警察に捕まり、家族殺しの罪を着させられた。つまり弟は復讐に来たのだ、自分の人生を狂わせた兄を殺すために。俺は全力を尽くして走った。下水管を抜けてイオン街を駆け抜け、誰も知らない街を走った。ふっと体の力が抜け、倒れるような感覚を覚えた。

 目が覚めた。ここはどこだ、さっきまで走っていたはずだが、天井を見上げる。見覚えがある、ここは俺の家だ、そして俺は生きている。なんだ、夢か、よく考えればそうだ、あんなよく分からないホームレスも、下水道なんかで暮らしている子供たちも、なんでも知ってる詐欺師の教祖もいる訳がない。なんて非現実的な事を考えていたんだ。本当に心臓に悪い。いや、しかし良かった。実際全てただの夢だったのだから

 「残念夢じゃ無いよ」

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脳は嘘をつかない じゃがりこ @Jyaga-riko

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