新しい「僕」

 3人でネオン街を抜けた。街灯もない川沿いに出た。老人は橋の下へと向かった。まさかとは思ったが、下水道へ入るようだ、なぜ僕はこんなところへついてきているんだろう。下水道など初めて入る。空気がこもっていて頭がクラクラする。少し進むと中学生くらいの子供が立っていた。「あ、じーちゃん!そいつ、新入りかい?」「そーだ。こいつも捨てられちまったらしい。久しぶりだな、元気だったか」「俺は元気だよ、でもボスがやっぱり…」「…やはりまだ治っていないんだな、まぁとりあえず連れてってくれ」彼らはなんの話をしているんだろう、ボス?ここは何かのグループのアジトなのだろうか。道を進むと数人の子供と出会った、進むに連れて人数が増えていく。どうやらここはこの少年のような捨てられた子供たちの溜まり場らしい。最初にあった子供についていくと、何か部屋のようなところへ通された。下水道の中にこんなものがあるとは、中へ入ると数人の少年と横になって寝ている青年が1人いた。どうやらあの青年がボスらしい。目を覚ますとこちらに気づき慌てて体を起こそうとした。しかし、力が入らず体を起こすことさえ難しいようだ。「だいぶ酷いようだな」「お陰様で」「歳はわからん、今見えたろ、新入りだ。親は蒸発したんだと、あ、後もう一つ連れてきた。こっちのでかいのはきおくなしさ」ボスと呼ばれる人物と目があった、軽く会釈をすると笑顔で返された。「こいつも元は孤児でな、運良くこの歳まで生き残ってたんでここの頭をまかしてんだ」「初めまして、昌也です「は、初めまして」本当に孤児だったんだろうか、とてもしっかりしている。「この方をどうしてここに連れてきたんですか?」昌也が老人へ問いかけた。「いや、なんてことない。こいつは今までの記憶がないらしくてな、高架下彷徨ってたから連れてきたんだよ。そこら辺連れ回してるだけだ」「なんだ、それだけですか。てっきり、」「勘がいいな、俺も最初はそれだけのつもりだったんだが、お前の容態を見たら気が変わった」「そんな、あんまりですよ!僕がどれだけ頑張ってここまで、」「なに、別にお前から全てを奪おうって訳じゃない。ここもだいぶ大きくなってきたからな、お前が寝込んだままだとまわってかないんだよ」「それにしても、どこの誰ともわかんないこんなやつに」おいおいちょっと待ってくれ、なんで勝手に話が進んでるんだ、「ちょっと待ってください、僕はそんな事引き受けるつもりで着いてきたわけじゃないですよ」今まで静かにしていた分急に大きな声を出したので皆驚いて静まり返ってしまった。「お、おうそうだな、すまなかった。ちゃんと説明をしよう」老人が慌てて弁解に入った「昌也にはここの管理を任せているんだがな、何せ見た通りだ、業務なら出来るが体が必要になるとどうにもな。そこでお前だ、きおくなし、どうせこれからどうしようなんて決めてもいないんだろう。ずっとでも、記憶が戻るまででもいいから、昌也の手伝いをしてやってくれないか」急にそんなことを言われても困る、でも確かにこれからすることがないのも確かだ、もういっそのこと流れのままに生きてしまおうか、「彼がいいのなら」僕はそう答えた。昌也は難しそうな顔をしている。ただ自分の体のことは1番わかっているようで、了承するしかないことも感じ取っている様子だ。「じゃあ決まりだな、きおくなし、今日から昌也と一緒にここの運営をやってくれ、お前もここの住人だ」「はい。あ、とは言っても具体的に僕はなにをすればいいんですか?もしかしたら僕なんかじゃ」「いいや、それは大丈夫だ。上で繋がってる店から飯をもらう時や何かをする時の顔になって欲しいだけなんだ。いくら繋がっているとはいえここは子供の集まりだ、そういう役が無いとうまくいかなくてな」「わかりました。それくらいならやってみます」ふと昌也の方を向くと、まだ浮かない顔をしているようだった。「昌也さん」「はい?」「これからよろしくお願いします」「あ、あぁ。こちらこそ」上手くやっていけるのだろうか。かなり不安だ。「よし、決まりだな。それじゃあ俺は帰る。短い間だったがお前と会えて楽しかったよ、きおくなし。一旦のお別れだ」「有難うございました」老人はさっさといなくなってしまった。彼との出会いは僕の人生を未知のものへと導くものだった。

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