第14話 白い赤ちゃん



 大きく伸びをしながら欠伸をして、海藤凛かいとうりんが息を吸い込んだ。


「さっ、ラスト、いよいよ私の番ね」


「よ、待ってました」


 小園蓮花こぞのれんかが手を口元に持ってきて、小さく拍手をする。


「いや、二人とも元気ね」


 香西真利亜こうざいまりあが眠そうにあきれる。


「ありがとう、それでは。

 ……タイトルは『白い赤ちゃん』っていうんだけど、看護学校で起きたの話なの。

 看護学校には実務練習用の赤ちゃんの人形があるのね。授乳とか、赤ちゃんの患者さんが出たときに対処法などを学ぶために、その学校では五体のリアルな赤ちゃんの人形はあったの」


「人形系はこわいよね」


 土屋麗良つちやれいらがいった。


「その中にね、とびきり顔が白い赤ちゃんの人形があったの。

 他の四体とは顔も違い、年代も古い年季の入った人形だったのね。その特異性から、何時しか看護学生の間で敬遠されていたんだ。

 で、倉庫にしまいぱなしになって出番が来なかったんだけど、ある年、看護学生の数が増えて、いつもは四体で間に合っていた赤ちゃんが、五体必要になったのね。

 先生は存在を知っていたから、その白い赤ちゃんの人形を出して実習することになったんだけど、使っている班から突然、悲鳴が上がったの」


「……」


「男の先生が、『どうした?』って聞いたら生徒の一人が、『赤ちゃんの目が見開いた』っていうの。

 その人形、眠ったような作りになっているの。だから、絶対に開くはずがないのにそう言うのね。

 先生はただでさえ大勢に教えているので、めんどくさくなって、『気のせいでしょう』で済ませたの。

 で、授業を再開したんだけど、またしても、その班から悲鳴が上がるの。

 そのとき、赤ちゃんの蘇生法の訓練をしていたんだけど、その班の一人が、『赤ちゃんの胸に手を当てると心臓が動いていた』って言うの。

 先生はうんざりしたんだけど、ふとあることに気づいたんだ。

 騒いでいるのが、その班の中で一人だけだってことに。後の四人は否定はしないんだけど、そこまで深刻に主張していないの。

 で、先生は、『それなら、赤ちゃんを隣の班と交換しなさい』って言ったんだ。そしたら、その騒いでいた生徒が突然、泣き出し、

『先生は私たちがウソをついていると思っている』って言うの。

 先生は呆れながら、『嘘だとは思っていないけど、このままだと授業ができなくて困るから』となだめたんだ。

 そしたら、その女生徒が言ったのね。

『先生は、そうやって赤ちゃんをどこかへやれば、終わりだと思っているのね』って意味深な言葉を発したの。

 その場にいたみんなが「?」ってなっていると、女生徒はつづけた。

『私たちの赤ちゃんもそうやって、どこかへやったんだものね』って」


「ヒヤァ~」


 蓮花が声を上げる。


「ええっ……そっち?」


 麗良が驚いた。


「その言葉に先生はうろたえて、『何を言っているんだ、君は』

 当然、実習室がざわつき始めた。

 先生は益々うろたえて、『違うんだ、君は何を言っている?そんな関係ではないだろう。どうかしているぞ』

 そしたら、突然、教室に響き渡る赤ちゃんの泣き声がしたの。鳴き声は白い赤ちゃんから発せられているものだから、みんなびっくりして、パニックになったの。

 先生が慌てて、白い赤ちゃんを手に取って、『この赤ちゃんは泣き声がセットされているだ』

 背中を向けて、スイッチの蓋を探した。でも、そんな蓋はなく、鳴き声機能なんてついてなかったんだ。

 で、白い赤ちゃんの人形から、今度は笑い声がして、動き出したんだ。

 そしたら、女生徒が笑いながら言ったの。『元気な赤ちゃんだね』って」


「こわ」


 織田きいらがつぶやいた。


「でも、もっと怖いオチがあるんだ」


 凛が意味深な目を向ける。


「……なに?」


 真利亜がクッションを抱きしめて訊いた。


「そのとき、一人の生徒が、その女生徒を指さして言ったんだ。

『先生、この人、誰ですか?うちの生徒じゃありませんよね』って。そしたら、その女生徒は「ああああ」って発狂して、飛び出していったんだって」


「……」


「その時、先生が白い赤ちゃんを手放して人形が床に落ちたんだけど、一瞬ですごく時間が立ったように、赤茶けた色に変色していたんだって……」


「わ~、ゾ~として鳥肌立った」


 きいらが珍しくまじめに怖がった。





 夜明けにつづく

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