第11話 あれは何だったのか?っていう話
時計の針は午前二時を回っていた。
眠っている
「かわいい、寝顔」
ひかるの寝顔を見て、
「寝かしておこう」
「まだまだいけるよね?」
「当たり前よ、今日は倒れるまで起きてるわよ」
織田きいらが気合を込めるように拳を握りしめた。
この頃になると、お眠組とギラギラ組とに完全に分かれていた。
中田ほのか、
「次はだれが面白い話を聞かせてくれる?」
百合もギラギラ組の一人だ。
「怖くないの?」
果歩が聞くと、百合は首を振って、
「実は好きなんだ、こういう話。むしろ、目が冴えてきた」
「私いい?」
「……これは私が三歳ごろの話で、あれは何だったんだろう?って、今でもよくわからない自分の体験談なの」
「自分の体験談?いいねえ、面白そう」
「みんな、カラス男って聞いたことある?」
「カラス男?何それ?」
「私が命名したから、知らなくて当然なんだけどね」
「何だよ、そりゃ知らんわ。……カラスみたいな男の人ってこと?」
「カラス男ってね、民家の屋根に止まっていて、屋根を飛び移りながら移動するの。体が小さくて、黒い服を着た、黒髪、長髪のおっさんなの」
「知らない。気持ち悪いね、そんな人」
果歩がつぶやいた。
「目的は何?なんで屋根の上にいるの?」
凛が訊いた。
「わからない」
陽花里は首を横に振る。
「けど、たまに屋根の上で休んでいるんだ。そして、その休憩した家では次の日とかに人が亡くなったりするの」
「それって、完全に死神じゃない」
里緒菜がいった。
「死神か……確かにそうかも。でも、当時の私にはそのカラス男がぜんぜん怖くなくて、逆にお葬式ってたくさん人が集まったり、御馳走やお菓子が食べられるって、むしろ、カラス男いないかな?って、屋根をよく探していたのね」
「わかる。子供の頃って、お葬式の意味が分からなくて、ただ、親戚とか人がたくさん集まるって、テンション上がってママに怒られた覚えがある」
梨絵子がうなずく。
「お母さんにもカラス男の話をしたことがあるんだけど、全然、信じてもらえなかったんだ。
そんなある日、うちの隣の家の屋根にカラス男が止まっているのを見つけたの。……それを見たとき、私、はじめてカラス男を怖いって思ったんだ。
だって、隣の家には幼馴染の女の子と、その両親が住んでいるだけだったから。子供ながらに、お年寄りがいないうちにカラス男が止まるなんて……って、思ったのね」
「……」
「で、そのことをお母さんに言ったら、絶対にお隣さんにカラス男の話はしちゃいけないって、ものすごく怒られたのね。
私は、忠告のつもりでお母さんに言ったのに、結構きつめに言われたもんで、泣いちゃって、その後すねて、しばらく誰とも口をきかなかった覚えがある」
と陽花里は苦笑した。
「……でも、結局、幼馴染にカラス男の話をする機会はなかったの。翌日から、その一家がどこかに行ったっきり、いなくなっちゃったから。
私はお隣さんがどこへ行ったか、大人たちに聞いたけど、みんな引っ越したとしか言わなかった。それからずいぶん経ってから、私が小学生になったくらいかな。隣の一家が、引っ越したんじゃなく、無理心中していたことを知ったのは」
「……ええっ?」
「お隣さんがいなくなった後も、何度かカラス男のことを見ていたんだけど、お隣さんのことを知らなかった私はあまり気にしなくなったんだ。
そしたら、何時しかカラス男を見なくなった。
でも、お隣さんが一家心中したことを知ったときは、やっぱり、カラス男が屋根に止まると、その家の誰かが亡くなるってわかって、思わずゾ~ッってしたんだ……」
「ふーっ」
ところどころで、ため息が漏れる。
「でも、そのカラス男、うちの屋根の上にも止まっていたことがあったんだよね」
「え?」
凛が驚く。
「けど今のところ、誰も亡くなってないんだよね。だから、よくわかんない話ってわけ」
「……フーン、そっか。悲しい話だね」
いつの間にか起きていた麗良がポツリとつぶやいた。
ヤッタローマンの話につづく
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