第8話 バックパッカーの話
「そのあと、どうなったの?」
代表で、林ひかるが聞いた。
「ん?何が?」
「お父さん。海坊主でもいいけど……どうなった?」
「そう、海坊主ね。おっさんが消えたら、同じようにいつの間にか消えてしまったんだって。怖いよね」
「ふーん」
「現実に体験したら、すごく怖いよ。たぶん……」
「でしょ」
果歩がにっこりと微笑んだ。
「じゃあ、次は私ね」
「これは海外を低予算で旅してまわるバックパッカーの話……」
蓮花の落ち着いた声に、一瞬にして話に引き込まれる一同。
「今から二十年位前の話なんだけど、一人の日本人男性A君が、東南アジアから中東へ向かって旅をしていたのね。
その過程で、同じくらいの年の若い男の人、B君と知り合ったんだ。ずっと以前から知っているような親近感で、すぐに意気投合してしばらく行動を共にしたの。
遠い異国の地で、年齢も近いこともあったけど、それ以上にすごく共通するところもあって、短い期間で、無二の親友っていうくらいまでなったのね。
でも、しばらくすると目的地の違いから、別々の方向へ行くことになったの。
お別れの晩、二人はお酒を飲んで別れを惜しんだんだけど、酔った勢いでB君が、首から下げているお守りをA君にあげると言いだしたの。
『いや、いいよ』
A君は断るんだけど、B君はそうとう酔っているもんだから、しつこく勧めてくるの。
『このお守りは、ずっと俺のことを見守ってくれていた、本当に御利益があるお守りだ。お前の旅の無事を願っているから、どうしても受け取ってほしい』って、真剣に言うのね。
『そんな大切なものなら、なおさら受け取れない』とA君も突っぱねる。
するとB君、『大丈夫。お守りはもう一つあるから、遠慮なく受け取ってほしい』とB君は首から、同じ形のお守りを見せたの。
しつこいし、断る理由もなくなったと、A君はそのお守りを受け取ってたのね。
そして、二人は連絡先を交換して、日本での再会を約束して別れた。
それから、A君は中東からヨーロッパを回って、数か月かけて日本へ帰ってきたの」
「いいな、海外旅行……私も行きたない」
織田きいらがポツリとつぶやく。
「話の角度をずらすな」
「それで?」
「日本に帰ってきたA君は、交換した連絡先に早速電話をしたのね。でも、何度かけても電話は繋がらなかった。
向こうにも、いろいろと忙しいんだろうと諦めたんだけど、何か月か経ったある日、突然、B君から電話があったの。
『どうしたんだよ、何度も電話したが繋がらなかったぞ』って、A君が言うと、
『悪い、悪い。ちょっと、問題があってな。大したことじゃない。それより、これから会えないか?』って、言葉を濁した。
A君もそのつもりだったんで、二つ返事でOKしたんだけど、それにしても気になるのは、B君の電話の声の調子。なんか、海外の時とは違ってたの。
それでも、まあ、疲れているんだろう、というくらいにしか思ってなくて、約束した日時に約束した場所に行ったのね。でも、B君は来なかった。
いくら待っても来ないんで、さすがにA君も怒って帰ることにしたんだけど、その帰り道、街頭のテレビで、指名手配の殺人犯逮捕っていうニュースが流れていたの」
「……」
「もう、わかったよね。その画面に映っていたのがB君で、どこかで会ったことあるような感覚は、指名手配のB君の写真を見たからだったの。
映像で、逮捕されて警察に連行されていくB君の姿は、ぼさぼさの髪にみすぼらしい服を着て、真っ黒に日焼けした顔だったけど、B君に間違いなかった。
それでもA君は、旅で一緒だったB君が殺人犯だとどうしても信じられず、報道を何度も見てB君の犯行を知っていった。で、ようやく信じるようになるの」
「……」
「Bが殺害したのは、元恋人とその家族の三人。
とくに元恋人への執着が異常で、ストーカーして何度も警察が介入しんだけど、結局、効果がなかったのね。
で、B君、なんとその恋人を殺害して、両眼をくり抜いて持ち去っていたんだって。その後、Bは海外へ逃亡して、数年間、まるで消息が掴めなかったんだけど、なぜか日本に帰ってきたところを逮捕されてしまったのね……逮捕されたときに、Bは恋人の片目を所持していて、取り調べでどんなに問いただされても、もう片方の目の行方は喋らなかった。
Bの逮捕の報道を聞いたとき、A君は、Bからお守りをもらった時のことを思い出したんだ。
その時いった言葉、『このお守りは、ずっと俺のことを見守ってくれていた、本当に御利益があるお守りだ。お前の旅の無事を願っているから、どうしても受け取ってほしい』
『大丈夫だ。お守りはもう一つあるから、遠慮なく受け取ってくれ』
そう言っていたんことを思い出して、中身を開いてみたたんだ」
「入っていたの?」
「さて、ここで問題です。このあとA君はそのお守りをどうしたでしょうか?」
「えっ?いきなりクイズ?」
驚く
1・一般人の務め、警察に届けた。
2・すべてに関わりたくないので、土の中に埋めて封印した。
3・友情の証と、今も肌身離さず持っている。
4・警察は嫌だし、やはり、家族に返すのがいいと被害者家族に送った。
5・その他。
「そりゃあ、常識的に考えたら、1の警察に届けるんじゃない?そうすれば、家族のもとへ戻るだろうし」
「私は3の、B君との友情を尊重して今も持っている」
「……私なら、気持ち悪くて持ってられない、土に埋めるだわ」
と唯衣が顔をしかめた。
「4番の被害者の家族に返すとか」
近藤陽花里がいった。
「いや、蓮ちゃんの話だから、もっと奇抜なんじゃない?」
きいらが蓮花の目の中を覗き込むようにいうと、蓮花は意味深に微笑んだ。
「うん、うん。で?」
面白そうに正面のきいらを大きな瞳で見つめ返した。
「答えは5番。A君は蓮ちゃんのお父さんで、お守りは蓮ちゃんに受け継がれた。犯人はお前だ」
きいらが蓮花を指さす
「まさかぁ」
ひかるが目を丸くする。
「スゴイ、きらちゃん」
蓮花は手を叩き驚き、Tシャツ首元に手を入れると、そこから古いお守りを取り出した。
「また、悪い冗談を」
凛が苦笑いをする。
「これにはちゃんとした理由がるの。A君ね、旅の途中でお金が無くなったもんで、ふとカジノに立ち寄ったの。そしたら、そこで信じられないくらい大金を手にしてしまったの」
そう言いながら、お守りの口の紐を解く。
「そのあとも守りを手にしてから、ずっと幸運つづきだから、ついに手放せなくなっちゃったのね。そして、ついこないだ。今の話とともに、このお守りを私が受け継いだの」
袋を下にして、中身を自分の手のひらに載せると、手を広げて、みんなの前に晒した。
「ヤッ……」
手で目を覆う中田ほのか。
他のメンバーも手のひらの上のモノを恐る恐る見た。
「……」
そこには、丸いチョコレートが乗っていた。
「ウッソぉ」
蓮花がニコリと微笑んだ。
塾の子へつづく
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