第4話 電話ボックス
「本当に全員話すの?もういいんじゃない?」
中田ほのかが、そういいながらリビングを出ていく。
「なんか、食べたいんだけど……」
「またぁ?あんた、さっき食べたじゃない」
「確かアイスがあった。食べる?」
「いいねえ」
「次、誰がしゃべる?」
ソファーに残った
「私行こうかな?」
右斜め前の林ひかるが小さく手を挙げた。小柄だが気が強く、人一倍努力家である。それと人一倍ゲラだ。
少しして、全員が戻ってきたので、ひかるが一同を見回しいった。
「じゃあ、私が次話すね。コテコテの怪談」
「もお、いいよ」
ほのかが嫌がる。
「よく、なんで、こんなところに電話ボックスなんて、何の意味あるの?ってところに電話ボックスが置いてあるってことあるじゃない。ただでさえ、スマホとかが普及している現代に。でも、あれって、ちゃんとした理由があるんだよね。その電話ボックスも、街からずいぶん離れた山道に、ポツンとおいてあったんだけど、なんでだかわかる?」
「遭難者がよく出る山とか?」
「スマホ圏外の山とか?」
「はい。呪われた電話ボックスだから、撤去できない」
織田きいらが手を挙げた。
「みんなブー」
ひかるが顔の前でバツ印を作る。
「わかった、自殺防止のためでしょう」
「さすが蓮ちゃん、正解。……その山では毎年、数人の自殺者が出ていて、自殺の名所として知られていたの。そこで、自殺を思いとどめてもらうために、その電話ボックスを設置してあるのね。
で、その夜、ひとりの若い女性、名前はA美さんとしておくね。そのA美さんが、ギリギリのところで自殺を思いとどまって、その電話ボックスからタクシーを呼んだわけね。
そしたら、しばらくしてタクシーが来て、ドアが開いて乗り込んだ。彼女は自殺できなかったことと、これからどうしようという葛藤で頭がいっぱいになっていたんだけど、ふと気づくと、山の中をタクシーがすごいスピードで走っていることに気づいたの。
(あれ?そういえば、目的地って、言ったっけ?)
A美さんは混乱していたから、覚えてなかったのね。
ふと、運転手の方を見ると、運転手もバックミラーからこちらを気にしている様子なの。
なんだか急に怖くなって、(どうしよう?)って思っていると、不意に運転手が話しかけてきたの。
『……お客さん、あなた自殺しようとしていたでしょう?』って。
(えっ?)って思ったけど、あの電話ボックスから電話したんだし、分かって当然だと思い、『はい』って答えたのね。
そしたら運転手は続けて、『なんで、思いとどまったんですか?』って聞いてきたの。
A美は思わず理由を話したんだ。
『実は、山の中に入ったら先客がいたもんで……できなかったんです』と。
すると、運転手がバックミラー越しにA美を見て言ったの」
「……なんて?」
「運転手は、『ですよね。だって、さっきからタクシーの後ろを、男が追いかけてきてますから』って。A美が後ろを振り返ると、さっき山の中にいた自殺した男が走って追いかけてきているの」
「ヒャ~」
一斉に悲鳴が上がる。
反応を確かめてから、ひかるはつづけた。
「運転手が山道を急いでいたのは、その男の幽霊から逃れるためだったわけね」
「ヤバいやつじゃん」
「で、どうなったの、そのあと?」
「目を閉じて震えていたら、「お客さん、もう安心ですよ」と運転手の声がしたんだ。
(助かった)とA美は安堵して、ふと窓の外を見ると、タクシーは停車していて、辺りは真っ暗なのね。
『何で止まっているんですか?』
A美が尋ねるけど運転手は答えない。
A美は、改めて目的地を告げるんだけど、運転手がバックミラー越しに自分を見つめているだけなの。
(気持ち悪い運転手)と思ったそのとき、ふと思い出したんだ。
電話ボックスに入ったとき、最初に目に入ったのが、ガラスに貼ってあったタクシー会社のシールだったんで、何の疑いもなく、そこに掛けてしまったことを。
でも、よく考えたら、そのシールが本当にタクシー会社のモノとは限らないよね。
だって、その電話番号、個人の携帯番号だったんだもの。すると、運転手がバックミラー越しに言ったのね。
「お客さん、助かったと思っているでしょう?」
集合写真へつづく
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