第3話 討伐
パーティーを追放されてから2年ほど経つと、手刀で木を切り倒す事ができる様になり、巨大な岩も拳で粉々に出来るまでになった。100キロを超える重い岩も軽々と持ち上げられる。
そして、身体は当時から比べ3倍近く肥大していた。
「よし。これぐらい仕上がれば良いだろう」
竜狩りの弓を手に取り弦を軽く引いてみる。
昔はあまりのかたさにびくともしなかったが、今では問題無く引けるようになっている。
「んじゃ、ちょっと試しに行ってみるか」
ロビンはキャサリンに借りていた部屋を片付けると、旅の支度を始めた。
ジムに住み込み、器具の手入れやキャサリンの身の回りの世話をする代わりに、会費等を免除してもらっていた。
「魔王の城の近くまで、10日ぐらい有れば着くだろう」
道程に必要な食料品や装備を整える。
かつてのロビンであれば、およそひと月はかかったであろう。しかし、筋トレと同時に体力も大分ついた。
更に気配を消せるスキル『しのびあし』を使えば、魔物とのエンカウント回数も減らせる。
それを考えたうえでの10日間だ。
部屋を出ると、キャサリンが何かを察したような顔つきでロビンを待っていた。
「とうとう、いくのね?」
「はい。お世話になりました」
「そう……。あまりしんみりするのは好きじゃないから、お別れは言わないわよ。行ってらっしゃい」
キャサリンはそう言うと、ロビンに背を向け部屋の奥へ引っ込んでしまった。
「行ってきます」
哀愁漂うキャサリンのたくましい背中にそう声をかけると、ロビンはジムを出た。
その後、修行中に世話になった街人に簡単に挨拶を済ませると、魔王城を目指しロビンは出発した。
魔王城から3キロほど離れた丘。
そこにロビンは立っていた。
木枯らしが枯葉を運び、ロビンの髪を揺らす。
探知スキル『千里眼』を発動し、魔王城を観察する。玉座と思しき場所に赤くハイライトされた魔王がおり、その手前に4人ほどの人間のシルエットが見える。
「あれは、勇者達か?」
勇者一行は、魔王と対峙しているがまだ戦闘は始まっていない。しかしそれは、ロビンにとっては好都合だった。
戦闘中で下手に動かれては狙いが定まらず困るからだ。
ロビンは竜狩りの弓を思いきり地面に突きさすと、槍ほどの大きさの矢をつがえた。
そして、力み過ぎず全身に力を入れると、一気に弦を引く。限界まで引き絞ると、弓がギシギシと鈍い音を立てた。
再び千里眼を発動し、魔王の位置を確かめると、照準を合わせ矢を放った。
放たれた矢は、空を切り裂くような轟音と共に魔王城へ向け一直線に飛んでいく。
そして、凄まじい速度で魔王城へ到達し、城壁を突き破りそして、魔王の身体を貫いた。
その際、一緒に勇者を貫いてしまったが、ロビンは気にしなかった。どうせクレリックが復活させるだろう。
ロビンは満足げに「ふぅ」と一息つくと、丘を後にした。
丘に突き立てられた弓は、その後誰も抜くことが出来ず、いつの間にか『ロビンの丘』と名づけられやがて観光名所となった。
そして、その弓が風化し、朽ち果てるまで、様々な出会いや別れがその丘では生まれた。
だが、その後ロビンの姿を見たものは居なかった。
後にキャサリンはこう語る。
魔王を倒したのは勇者ちゃんだって言われているけど、あたしは違うと思っているわ。玉座の後ろに大きな矢が刺さっていたって言うじゃない? あの矢を放てるのは世界中に1人しかいないもの。それに、凱旋しに来た勇者ちゃんを見たけどまだまだったわ。顔はチョット好みだったけど、あの肉体では魔王は倒せないわ。え? なんでわかるかって? そりゃあ、前に魔王を倒したのはあたしだもの。
ロビンの丘 玄門 直磨 @kuroto_naoma
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