正義の味方

 威張りちらしたりしない、おもしろくて生徒と仲がいい先生。


 そんな先生が僕の学校にもいたし、それは担任の先生だった。


 でも、僕にとっては少し話が違っていた。


 他の生徒を笑わせるネタにされて、おもしろいわけがない。


 同じ扱いをしてもらえなくて、心を開けるわけがない。


 多くの生徒から嫌われている先生のほうが、よほど気にかけてくれた。


 クラスも、僕にとっては似たようなものだ。


 どんなに仲良しクラスだろうと、僕にとっては関係ない。


 最初から仲間はずれだし、いじめられっ子は輪に入れてもらえない。


 むしろ、輪に入れられても苦痛なだけだ。


 見下されて馬鹿にされて、それでも道化を演じなきゃいけない。


 心を無にして自分を消して、いじめられっ子という役に徹しなきゃいけない。


「あいつらに荷物持たされてるんだろ。代わりに何か言ってきてやろうか?」


 唐突な、正義の味方への立候補。


 心配そうな声と表情だったなら、僕も素直にうなずいていたかもしれない。


 しかし、何かのついでのように笑いながら言われては無理だった。


 そこにあるのは親切心でも正義感でもなく、

 

 ちょっとしたいたずら心のようなもの。


 悪意があるわけではなかったとしても、頼ることなんてできやしない。


 そもそもいじめっ子たちだって、明確な悪意をもっているわけではないだろう。


 本人たちにしてみれば、いたずらを楽しんでいる程度なはず。


 結局、そこには互いの立場を分ける大きな壁がある。


 何かを変えてくれようとしているのなら、いちいち僕になんか聞かないだろう。


 もし、お願いだなんて言ったらどうなるか。

 

 その結果は、考えるまでもなくわかる。


 いやになるほどネタにされ、うんざりするほどいじられるだけだ。


 正義の味方なんて、どこにもいない。


 先生の言うことを聞いて、いい子になろうとした僕が馬鹿だった。

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