――――――参――――――
ヒュオオオオオ……
5月とはいえ夜、しかも山である。
ひんやりと冷たい風が、吹き抜けていく。
その背には、弓袋が掛けられている。
―――”
京都の術士の間で定められた、市内の巡回当番である。
月番にあたった術士はその月、定期的に見回りをし、害になりそうな
清崇は今、濃紺の和服に、
眼鏡を外した彼の目には、碁盤の目状の京都の街のシルエットに、濃淡がついて見えていた。
街の明かりは多いのにも関わらず、濃く濁って見える場所が、2箇所。
「駅前と……あれは
「はい」
「四条河原の方、原因特定できる?」
「……中級レベルの
「放っておくとまずそうだね。そっちは僕が行こう。……駅前の方はどうせ人の多さに釣られた低級の集まりだ、お前1人で事足りるはずだ。いつも通りに頼む」
「承知しました。では、先に向かいます」
つむじ風と供に、紫苑の姿が消えた。
・
・
・
四条河原町の交差点。
普段は大勢の人で賑わう、京都市内最大の繁華街の一部だが、
その大通りに面した商業ビルの屋上に、清崇はいた。
ここに来るまでに何体かの低級の
その理由が、ビルの屋上へ来てはっきりする。
( 縦に移動して、少し気配が遠のいた。ということは……)
清崇は両の指を絡めると、何やら長い呪文を唱えた。
「―――を与え給え。”
詠唱が終わった瞬間、周囲が
その光の中から、清崇を囲むようにして、金色に輝く巨大な蛇が現れる。
「ここから半径500メート内の地中を一掃して、追い出せ」
清崇がそう命じると、勾陳の体がずるりと下へ沈んでいく。
「……さて」
清崇は肩にかけていた袋から、弓と矢を取り出す。どちらも普段部活で使っているものとは別物で、矢には特殊な呪符が貼り付けられている。
そして屋上の
―――ゴオォオオッ!!!
突如、地鳴りのような低い音が響き、地中へ潜っていた
「――出たな」
全身から
地中に身を潜めていた
すると、
(!
清崇は、即座に弓を限界まで引く。矢尻が呪力を帯び、ボウッと青白く光る。
――京都の街並みは高さがない。斜線はよく通る。
矢に呪力を乗せて放った時の、最大射程距離は800メートル。
この距離なら、―――――届く。
清崇の瞳が大きく開かれる。
「逃がさへんよ」
――――パァンッ
通常の倍以上の初速で放たれた矢は、清宗の呪力でさらに加速する。
ドッッ
矢は、逃げゆく中級の背後を捉えた。
その瞬間、蜥蜴の
「お見事です、
後方からの聞きなじんだ声に、清崇は弓を下ろしながら振り向く。
「紫苑か。駅の方は?」
「片付きました」
「そうか、ありがとう。あとは細かい掃除しながら、戻ろうか」
相談者の対応。月番。見習い生の管理に、術士の会合。学生でありながら当主の仕事をこなすのは、決して楽ではない。
辺りはもう、何事もなかったかのように寝静まっている。
清崇は弓を肩にかけ直すと、更けゆく京都の街を歩き出した。
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