――――――壱――――――
「「きゃ――!!
赤レンガ造りの外装が目をひく、市内でも有数の進学校である。その敷地内の弓道場に向かう途中で、
「ちょっと、見た!? 今私に笑いかけた!」
「は? 私でしょ?!」
女子生徒たちの、不毛な争いの声が聞こえてくる。
「隣の俺はスルーかよ……全くこんなキツネ目のどこがいいんや」
清崇の隣を歩く、茶髪に垂れ目の男子生徒――
「伊東、何か言った?」
「むかつくから言わなーい」
常に微笑んでいるかのように細い、切れ長の目。その涼しげな目元には、少しウェーブのかかった
その一方で、清崇は常に周りと一定の距離を置き、特定の人間と深い関わりを持つことを避けてきた。「友人」はたくさんいても、1人でいることの多い清崇だったが、同じく弓道部である、この伊東とはよく話した。清崇を特別視せず、ずけずけと物を言う、裏表のない性格が心地よいのかもしれない。
「……悪かったな、キツネ目で」
「聞こえてんじゃねぇか」
弓道場の更衣室まで来たところで、清崇はかけていた眼鏡を無造作に外し、ブレザーの胸ポケットに入れた。その様子を見た伊東は、練習用の紺地の袴に着替えながら、聞く。
「前から不思議に思ってたけど、お前ってほんとに目悪いの?なんで
(……相変わらず変なとこに鋭いな)
「……僕は遠視なの」
「何歳だよ、お前」
袴に着替えた2人はそれぞれ、壁に立てかけられた自分の弓を取ると、一礼して
「「お疲れ様です!」」
中には既に、ほとんどの部員がそろっていた。
射場の中央の柱に、「正射必中」の筆書きが掛けられている。清崇はその下に立つと、全体を見渡して号令をかけた。
「―――はじめよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます