【外伝】Antinomy―五芒星の彼方―
赤蜻蛉
――――――零――――――
小さい頃から、ふつうの人には見えないモノが見えた。
世間一般に、霊とか物の怪とか言われるものだ。
そういう人ならざる者を総じて、
彼らはどこにでもいた。
ちょっとした物陰。庭の茂み。時には人に紛れて。
まるで風景の一部のように、日常の中に溶け込んでいた。
彼らは時に、人に害を為すことがある。
そういう悪しき物を祓い、人々を悩ませる怪異を解決する―――それが、僕の仕事だ。
僕の祖先は誰もが知る、あの有名な陰陽師だ。
名前くらいは聞いたことあるだろう。呪術全盛の平安時代に、国からもその実力を認められて、”最強”の名を欲しいままにした希代の陰陽師。
母親が狐の妖怪だとか、呪力で人を殺せたとか―――
真偽はともかく、伝説的な
光栄なことに、僕はその安倍清明の直系らしい。
晴明のように、一族の中でも頭一つ抜けた、崇高な人物に。
そんな願いを込めて、僕に「
―――呪いだ。
安倍家の当主はここ何代か、不自然に短命だった。5
歴代の当主が受けた遅効性の呪いなのか、長年
『私の代で呪いを解いてやりたかったが……すまんな』
いつも必要最低限のことしか言わない
父の葬儀には、分家の
形ばかりの挨拶と、思ってもいない同情の言葉を聞き飽きてきた頃。
顔にアザのある、僕より少し年下くらいの子どもが目に入った。
訳も分からず連れてこられて、いい迷惑だって顔をしていた。
――ええなぁ、同じ陰陽師の家系でも、
そんなことを思ったっけ。
そうして僕は、安倍家の当主になった。呪われた、この地位に就いた。
死ぬこと自体は怖くない。明日死ぬかもしれないのは、みんな一緒だ。
ただ、自分じゃない何かに命運を握られてることに腹が立つ。
安倍家の当主になったら長く生きられない?
なんだよそれ。じゃあ当主になる以外に道がない僕は?
理不尽もいいとこだ。
幸か不幸か僕には、あの清明に匹敵する―――いや、下手したらそれ以上の素質があるらしい。
清明が使役していた式神、
だから僕は、恵まれたこの力を最大限に使って抗うことに決めた。
この身にかかった呪いを解くためなら、何だってする。
――そう、何だってね。
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