20-C 王女の決意

「封印しないとまた夢喰いが復活してしまうわ!」


 封印しないというリーサの言葉に、元四天王の頭脳役・クリスタルが驚く。しかしリーサは冷静に言葉を紡ぎ出す。



「ここで封印したとしても、前回と同じ道を歩むだけだわ。またいつか、夢喰いが負の魔力を溜め込んで誰かを誘惑する。そしてまた同じようなことが起きてしまう……」



「いや、しかし……我らがこれまで以上に強力に……」というミックスアイの台詞を遮って、リーサがさらに続ける。


「あなたたちのことを信頼していないとか、そういうことじゃないの。夢喰いも……かつては夢を追い続けた魔法使いだったのよ。だったらもう一回夢を追いかけるチャンスをあげたいの」


 リーサは右の掌の上に乗っている肉の塊に対して、左手で軽く魔法をかける。するとその肉塊から黒いオーラが抜けていって、小さな胎児のような姿になった。


「!」


 これには見ていたみんながびっくりした。「これが夢喰いの浄化された姿……」蝶介が呟いた。


「そう、夢喰いはもう一度生まれ変わって、今度こそ夢を持つことの素晴らしさに気づくの。私とマーヤと、そしてと、一緒に育てて行きたいと思っているのよ」


 リーサはあなたたち、と元四天王の精霊たちを見て言った。「わ、吾輩たちもでござるか?」いつの間にか忍者キャラになってしまったセンチュリーの言葉に、一同笑いが起こる。


「なるほど……前回封印したことで今回のような悲劇が起こってしまったから、違う方法で共存を図るということね……リーサらしいわ」


 悠花も納得といった表情だった。仲間を犠牲にすることなく、そして敵でさえも救う道を選んだリーサを彼女は心から尊敬していた。それはマーヤも同じだった。


「お姉様、とてもいい考えだと思いますわ……精霊さんたちもよろしいですね?」

 マーヤの言葉に、マッスル、センチュリー、クリスタル、ミックスアイの四人も「ああ」とうなづいた。そんな姿にリーサも笑顔になって、「ありがとう、みんな」と頭を下げた。



「で、でも姫。もしも……もしも夢喰いが成長してみんなを襲うようなことがあったら……」

 秀雄が万が一の可能性を考えて尋ねた。


「そうならないようにみんなで見守っていくつもりよ……でも、もしそんなことになったら、今度は私が責任を持って夢喰いを消滅させるわ」


 そう言うリーサの目は強く、十分な決意が伝わってきた。秀雄も彼女の顔を見て、それ以上は何も言わなかった。



 ☆★☆



「しかし、マジカル王国はどう立て直せばいいんだ? もう何もかも残っていないぜ」

 蝶介が辺りを見回しながらそう言った。


 お城はほぼ全てが崩壊し「何か大きな建物がここにあったのだろう」ぐらいしか分からない。……ということは、最上階で意識を失ったままだった王様と王妃(リーサとマーヤの両親)も……と想像して、悠花が手で口を塞ぐ。


「さすがにこの規模を修復するのは我々の魔力でも難しい……」とミックスアイが困った顔をする。するとリーサが神妙な顔つきをして言った。



「方法はないわけではないの」



 彼女は首にかかったペンダントを外し、続けてスカートのポケットから虹色に輝くコンパクトを取り出すと、二つまとめて両手の上に置いた。(夢喰いの胎児は魔法をかけて宙に浮いているのでつぶされることはないのだ!)


「このペンダントとコンパクトに込められた魔力を全て使えば、元のマジカル王国の姿に戻すことができる……はずなの。もちろん夢喰いに夢を奪われた人たちもみんな」


 夢喰いを浄化したときに、夢を奪われていたすべての人々は元どおりになるはずだった。

 しかし夢喰いがマジカル王国を破壊し尽くしている状況で人々が元に戻ったとしても命を落とすだけだと判断したプリンセスは、マジカル・ドリーム・シャワーで夢喰いを浄化はしたものの、人々が元に戻らないようにしていたのだった。だから膨大な魔力を使ったのだ(超後付け設定)



「なら早くそうしようぜ!」

 

 蝶介がリーサに対してマジカル王国を元どおりにするよう急かすが、なぜかリーサは魔法を発動しようとしなかった。何か言いたそうだったが、言えない。そんな感じが見て取れた。


 そんな姉を見て、妹のマーヤが声を震わせながら代わりに言った。


「その魔法を使うと、コンパクトからも魔力が失われてしまいます……つまり、もうマジカル☆ドリーマーズに変身することも、人間界と魔法界を行き来することもできなくなってしまうということです」

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