20-B マジカル・プリンセスの選択
肉塊と化してしまった夢喰いは自身の体に四つの人間の形を浮き上がらせ「殺さないデェ」「一緒に死ノウ!」などと片言の言葉を繰り返している。(ただの肉の塊なのにどこから声を出しているのかは分からない)
マジカル・プリンセスは右手に一瞬で夢喰いを倒せるほどの強力な魔法の塊を携えたまま、覚悟を決めた。「みんな……ありがとう」そう言うと、プリンセスはその魔法を空高く放り投げて、夢喰いに向かって走り出した。
空に向かって投げられた魔法は太陽のように強い輝きを放ち、世界が一瞬真っ白になる。
その光の強さに耐えきれず「ギャアアッ!」と夢喰いは叫び声をあげて、その場から逃げようとするが動けなかった。いつの間にか目の前まで来ていたプリンセスが、しっかりと肉の塊を掴んで離さなかったのだ。そのまま、彼女は空に浮かんだ光を見つめて最後の攻撃を放つ。
「マジカル・ドリーミング・シャワー!」
夢喰いとプリンセスのちょうど真上で魔法が弾け、虹色の雨となって二人に降り注ぐ。
「ギャアアアア!」
七色に輝く雨粒が肉塊に当たるたびに、黒いオーラを出しながら浄化されていく。徐々に徐々に、肉塊はその姿を崩して、黒いオーラを出し続けながら小さくなっていく。そしてまた、肉塊を掴んだまま離さないマジカル・プリンセスも自分が放った魔法を自分自身も浴び続ける。
「これで……みんな救われるはずよ……」
マジカル・ドリーミング・シャワーを発動するためには、プリンセスの持つほぼ全ての魔力を消費しなければならない(っていう、今思いついた設定)。夢喰いの巨大な肉塊を全て浄化するために、彼女の魔力ももうすぐ限界を迎えようとしていた。
どんどん夢喰いの体が溶けて消えていく。あとはプリンセスが掴んだまま離さない部分のみとなった。雨の量もプリンセスの魔力に比例してだんだんと少なくなっていく。それでも少しずつ最後の一部分が溶けて……。
「……これ……で……」
ここでプリンセスの魔力が尽きてしまった。ふっと力が抜けた彼女は変身が解けて、その場に倒れ込んでしまった。それと同時にマジカル・ドリーミング・シャワーもピタリと止まる。夢喰いの肉塊があった場所からは未だに黒いオーラが上り続けていた。
そして、リーサの握りしめた右手の拳の中には、夢喰いの肉塊の一部が雨に濡れずにまだ残ったままだった。
☆★☆
マジカル王国は肉塊と化した夢喰いのめちゃくちゃな攻撃によってただの焼け野原のような姿になってしまっていた。お城はほとんど原型を留めておらず、美しかった自然も見る影もない。特にマジカル☆ドリーマーズたちが戦いを行なっていた場所は草木一つも残っておらず、ただ焼け焦げた地面だけが残されていた。
その中心に、リーサは仰向けに倒れていた。そして、彼女を取り囲むように八つの人影もあった。
「……お姉様!」
自分を呼ぶ声がして、リーサはゆっくりと目を開けた。すると目の前には涙を流して見つめているマーヤと、同じく心配そうな表情を浮かべている蝶介、悠花、秀雄、他四名(精霊たち)の姿があった。
「みんな……無事だったのね……よかった」
マーヤの差し出した手を、リーサは左手で掴みゆっくりと起き上がった。そのまま姉妹が深く抱き合う。
「もう、本当に無茶をなさるんですから……お姉様ったら!」
涙声で話すマーヤの頭を、リーサは左手で優しく撫でる。そんな姿を他のみんなも優しい顔をして見つめていた。
「ところで……どうして俺たちは助かったんだ? 確かに夢喰いにやられたと思ったんだが……」と蝶介が感動の場面に水を刺すように話しかけた。そうそう、と隣にいた悠花と秀雄もうなづく。
「浄化魔法を使ったのよ」とリーサ。
「浄化魔法って……僕たちが夢喰いからマーヤ殿を開放するときに使った……?」さすがの秀雄が素早く反応した。
「そう。みんなの『夢食いを倒してくれ』っていう言葉は聞こえてきたわ……でも、みんなまで一緒に倒してしまうことなんて……私にはできなかった。それに……」
リーサはそう言いながら右手をゆっくりと開いた。そこには夢食いの肉片――最後の最後までマジカル プリンセスが掴んだまま離さなかった場所――が残っていた。
「それは!」
夢喰いの肉片にいち早く気づいたのはミックスアイをはじめとする元四天王の精霊さんたちだった(蝶介たちの後ろにいたんです!)。
「早くお城の地下へ行くぞ! 再び封印するなら今しかないぜ!」とマッスルが叫ぶが、リーサは首を横に振った。
「いいえ、もう封印する必要はないわ」
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