20-A 最後のあがき
改めてマジカル・プリンセス・ロイヤルスタイルの姿を、上から順に確認しておこう。
まず頭には宝石が埋め込まれた黄金のティアラを装備している。プリンセスの金髪とはまた違った輝きを放っているので見た目にもはっきりしているところがポイントだ。
耳にもさりげなく黄色のイヤリングが付けられている。これはエターナルが身につけていたものと同じであり、彼女の力を受け継いだ証拠でもある。
次に胸元に注目すると、大きな白いリボンの中心には青色の宝石が輝きを放っていることがわかる。これはオーシャンの魔力が込められているのだ。そして背中には真っ白く大きな天使の羽。これは当然、イノセントの魔力が影響して生み出されたものである。
さらに、両手の親指を見ると緑色の指輪が装着されていた。腕力自慢のバタフライの力が存分に生かせるよう、両手に彼女の魔力をまとっているのだ。
下半身は通常時とあまり形は変わらず、動きやすい服装の下にピンク色のスパッツとコンバットブーツ。若干キラキラ度が増しているが、最後の最後までPTA対策は万全なのであった。
「みんな、ありがとう……今助けるからね」
プリンセスは四人の思いをしっかりと受け止めると、夢喰いに向かって走り出した。
「ギャオオオオオ!」
強烈な光にたじろいでいた夢喰いだったが、過去最大級の脅威が自身に向かって迫ってくることを察知した。再び自らの体から、大量の黒い魔法の弾をプリンセスに向けて直線的に放った。
それを彼女は必要最小限の動きでかわしていく。次に夢喰いはプリンセスを取り囲むように放射状に魔法の弾を放った。それは空中で一旦静止し、四方八方から一斉にプリンセスに襲いかかった。
「無駄よ」
プリンセスは両手を軽く横に伸ばした。それだけで全ての攻撃は彼女に当たることなくその場で消滅していく。夢喰いの攻撃は全て通用せず、勝負はついたかのように思われた。
「グオオオオ!」
なんと夢喰いは自身から生えた四本の角に突き刺さったままの四人を、肉塊の中へと取り込んでしまったのだ。これも生存本能がなせる業なのだろうか。マジカル☆ドリーマーズを体内に取り込めば、きっとプリンセスは攻撃してこないと思ったのだろう。
「なんてことを……」
全く想定していなかった行動だった。夢喰いの攻撃を掻い潜って、四人を助け出すつもりだったのに……判断が遅かった。プリンセスは自分自身に対する怒りで拳を握り、肩を震わせた。
隙があると思ったのか、夢喰いが再び魔法の攻撃を仕掛けてくる。当然それはプリンセスには届かない。彼女に当たる直前に消滅してなくなる。
「絶対に……許さないわ!」
プリンセスが指先一つで、先ほど夢食いの体を貫いた技「マジカル・レインボー・コメット」よりも強力な魔法を作り出す。やはりロイヤルスタイルの力は半端ではないことが、この魔法から十分に伝わってきた。この一撃で完全に夢喰いは消滅する。それが明らかにわかる魔法の大きさと輝きだった。
「待っテ! 私に攻撃シナイデ!」
「オレタチを見捨てるノカ!」
まさか、肉塊から悠花と蝶介の姿が浮かび上がり(しかし二人の姿ではなく、肉塊が人の型を作っているだけ)、そんなセリフを吐き出したのだ。ちょっと片言な言葉に、明らかに違う姿形。
明らかに夢喰いが攻撃されないように時間稼ぎをしているだけだというのはわかっていたのだ。わかってはいるのだが、やはりためらってしまうのだ。
――取り込まれてしまった四人に攻撃をぶつけることはできないわ……。どうすれば……。
このまま魔法を放ってしまえば、夢喰いは完全に消滅させることができる。しかし、取り込まれてしまった四人はどうなるのかは分からない。
攻撃をしなければ、夢喰いはおそらく私も取り込もうとするだろう。そうすればこの世界は確実に終わりを告げてしまう。
プリンセスは何が正解なのか分からなくなった。いや、どうすることが正解なのかわかっているのだ。ただ四人を犠牲にしてしまうと思うと、どうしても攻撃に踏み切ることができない。
肉塊からさらに二つの人の形が浮かび上がる。
「僕を殺サないデェ」
「オ姉様! ダーイ好キ! ダカラ一緒に死ノウよ!」
違う違う違う! みんなはそんなこと言わない! これは夢喰いの作り出したニセモノ。
ブンブンと顔を横に振ってプリンセスは大きく息を一つ吐いた。そのときだった。聴き慣れた蝶介の低い声が夢食いの肉塊から聞こえてきたのだ。
「リーサ! 俺たちに構うな! 一気にケリをつけろ!」
その声は確かに蝶介のものだった。「お願い、このチャンスを逃してはダメよ!」悠花の声も聞こえてきた。「姫! ためらってはいけない!」「お姉様、急いで!」秀雄とマーヤの声もはっきりと聞こえた。
マジカル・プリンセスは覚悟を決めた。
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