15-A なぜ魔法にかからないのだ!

「待ちなさい! これ以上お姉様にでこぴんは許しません!」

 

 真弥は机にぶつからないようにしながら二人のもとへと走り、ミックスアイを押しのけるようにして二人の間に割って入った。

 またまた現れた女子高生に彼は驚きつつもじっとその顔を見つめた。真弥はミックスアイと目を合わさないように気をつけながら、しっかりと目を見開いていた。


「お前は……マーヤではないか! ふはははは、飛んで火に入る夏の虫とはこのことよ! お前を始末するように夢喰い様に言われておったのを思い出したわ!」


 ミックスアイは目の前にいる女子高生を倒すべき敵だと認識し、気分が高揚した。体の周りに黒いオーラが現れ、空気が震える。

 窓ガラスは割れ、床や壁には亀裂が入り、天井からはコンクリート片がボロボロと落ちてきて、今にも校舎が崩れそうな勢いだった。


「きゃあっ!」「地震だ!」とお客さんやクラスメイトが叫び声を出して机の下に隠れ始めた。中には大慌てで校舎から出ようと走り去るものも多かった。



「まずはうるさい人間どもを黙らせるとしようか」



 ミックスアイがそっと両手を空に向かって伸ばすと、近くにいた人全ての夢が奪われ、みんなその場にばたりと倒れてしまった。

 ペンダントを身につけている李紗と、彼女の近くにいた真弥は白い光に守られて無事だった。そして意識を失って直立不動で立っているマジカル☆ドリーマーズの三人も、コンパクトのおかげで夢を奪われることはなかった。

 

 奪われた人々の夢はそれぞれの体から小さな光となって浮かび上がり、いずれもミックスアイの体の中に吸収されていった。


「っはぁ、やはり人の夢はいい! 力がみなぎってくる!」彼は満足そうに握った拳を振り上げる。

 その動きだけで、彼の真上にある校舎が全て吹き飛んでしまった。そしてそこに差し込む日の光が、いかにもミックスアイを照らす後光のように見えたのであった。


「マーヤ、気をつけて!」真弥の後方で腰を下ろし、目を閉じたままの李紗が赤く腫れたおでこをさすりながら言った。


「もちろんですわ、お姉様!」


 真弥は目を開けたままミックスアイをじっと睨み付ける。

 しめた! こいつは私の魔法の発動条件に気付いていないのか! と彼はニヤリと笑みを浮かべ、真弥の瞳を見つめて洗脳魔法を発動させる。



 そのときだった。さっと真弥は後ろ手に隠し持っていた手鏡を自身の顔の前に置いた。



「なにっ!」


 真弥の持つ鏡に自分の顔が映し出され、ミックスアイは鏡の中の自分と目が合ってしまった。そう、彼は発動させた魔法をそのまま自分で浴びる羽目になってしまったのだ。


「うおおおおおっ! なぜだ! なぜ私の魔法が発動しなかった!」


 そう言いながら両手で目を押さえ、しばらくバタバタと悶えたのち、ミックスアイは直立不動のまま動かなくなってしまった。


「お姉さま、もう大丈夫ですわ!」


 真弥が後方にいた李紗をそう言って抱き起こす。ゆっくりと目を開けた李紗は周囲を見渡し、動かなくなったミックスアイを確認するとほっと一息ついてから真弥に尋ねた。



「どうやって倒したっていうの? ミックスアイは魔法が発動しなかったって言ってたけど……」

「ふふふ、お姉さまも気付きませんか?」



 そう言って真弥は自分の目元を覆っていたアイマスクを外すと、にこっと李紗に笑いかけた。


「うわ、そんなアイマスクどこで手に入れたのよ。ぱっと見、つけていることすらわからなかったわ!」

「ふふっ、先日お姉様と一緒に買い物に行ったときに買ったものが、こんなときに役に立つなんて!」


 李紗は真弥のつけていたアイマスクを手に取ると、物珍しそうにまじまじと見つめた。なるほど、これでミックスアイは李紗が目を開けていると勘違いしたわけか……我が妹ながらなかなかの策士ね……と感心したときだった。



ゴゴゴゴゴ……。



「!」

 ミックスアイから恐ろしい殺気を感じて李紗と真弥が振り返ると、彼は直立不動のまま、しかし身体中から物凄い量の黒いオーラを放っていた。


「まさか……自分にかかった魔法を解こうとしているの?」


 ゴゴゴゴゴゴゴ……と音がだんだんと大きくなってきて、再び地面が震え始めた。

「いけない! 蝶介たちが!」李紗がミックスアイと同様に動かない蝶介たち三人のことを気にして彼らのもとへ走り出す。それを見て真弥も慌てて彼らのもとへと向かう。



「お前らぁ! よくもやってくれたなぁ!」



 なんと、ミックスアイが自分で自分にかかった魔法を破り、黒いオーラを撒き散らしながら大きな声を出して再び動き出した。その衝撃で校舎が音を立てて崩れ始めた。


「お姉様!」


 動けない三人を助けようとした李紗の足元にある床が抜け、階下へと落ちる。そこへ自身の危険も顧みず、真弥が飛び込んで手を伸ばした。そして、二人の手が触れた瞬間、李紗のペンダントが光り輝き、白いコンパクトが現れたのである。

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