12-A 変わり果てたマジカル王国

「ここがマジカル王国……?」


 異空間魔法を使って(ああ、もちろんリーサのペンダントの力でございますよ)マジカル王国にやってきた五人が降り立った場所は、お城の最上階 ――かつてリーサの両親が黒い影の化物と戦った場所。そして、異空間魔法でリーサが人間界に旅立った場所でもある―― だった。

 マジカル王国と聞けば魔法と夢と希望に溢れた国、のようなイメージを勝手にもってしまっていた悠花だったが、とてもその名に似つかわしくない光景に目を疑った。


「なにこれ……」


 お城の壁や窓、天井に至るまで破壊されていて、そこから外の様子もうかがえた。紫色の空にどす黒い雲が時折稲光を走らせている。なんだか悪魔が住まう地のような重々しい、暗い雰囲気があった。


「夢喰いが人々の夢を奪い尽くしてしまった結果がこれよ……」

 リーサが悠花の隣に立ち、一緒に外の様子を眺めながら言った。


「おい、これって……」

 部屋の中を歩いていた蝶介が声を上げた。

 彼の視線の先には戦いに敗れ、動かなくなってしまった国王と王妃の姿があった。リーサとマーヤの両親である。


「お父様! お母様!」

 マーヤがかけより、涙を流しながら二人を交互に抱きしめる。

 そして両手を広げ回復魔法のようなものを二人にかけてみるが、当然両親は反応を返すことはない。夢喰いに奪われた夢を取り戻さない限り、再び元に戻ることはないのだ。


「ごめんなさい、私が……私があんなことをしたばかりに……」


 そんなマーヤにリーサが厳しい声をかける。

「マーヤ、今は泣いている場合ではないわ。泣いたってお父様とお母様は戻ってこないのよ。私たちにできることはマジカル☆ドリーマーズを見つけて、夢喰いを倒すこと。さあ、お城の地下に急ぐのよ!」

 そういう彼女もぎゅっと拳を握りしめて、泣きたいのを堪えているようだった。姉として妹に情けない姿を見せないよう、強がっているのが近くで見ていた悠花にも伝わってきた。

 

 マーヤは涙を拭いて、「その通りですね、お姉様」と再び表情を引き締めた。一行はお城の地下、夢喰いが封印されていた部屋を目指す。

 


 ☆★☆



 地下に向かう間に、以前城を襲った黒い影の魔物がいるのではないかとリーサは心配していたが、全て杞憂に終わった。魔物たちはどうやらお城の中にいる全員の夢を奪ってしまい、ここは用済みと判断し引き上げたようだった。おかげで何事もなく、お城の地下――夢喰いが封印されていた部屋の扉の前へと辿り着いた。


「さ、ここが夢食いを封印していた場所……ちょっと待ってね」

 そう言うと、リーサは両手を広げて何やら魔法を唱え始めた。リーサの掌にぽおっと淡い光が発生し、しばらくすると消えた。


「うん、部屋の中に脅威はないわ。大丈夫だと思うけど、心して入るわよ!」

 リーサが扉を開けて、五人が部屋に入る。中は薄暗くて何があるのかよく分からなかったが、再びリーサが両手を広げると、部屋の中がパッと明るくなった。


「おお!」と蝶介、秀雄、悠花の三人が声を上げる。

「……どうしたの?」とリーサが不思議そうな顔をする。


「あ、いや……リーサは本当に魔法が使えたんだなって。俺たちの世界では魔法を使うところ、見たことがなかったからさ」


 むっ、と頬を膨らませ眉を少し下げて何か言いたそうなリーサを遮り、マーヤが横から口を挟む。

「何を言ってるんですか蝶介! リーサお姉様はマジカル王国でも一二を争う優秀な魔法使いなのですよ! その、私の憧れ……でもあります……から……」最後に何故か急に照れながら、顔を押さえてマーヤはリーサ の後ろに隠れた。


「でも魔法の才能はマーヤのほうが上なのよ、私も嫉妬してしまうほどにね」リーサが背中に隠れたマーヤの頭を撫でながら言った。「さて、マーヤ。ペンダントはこの部屋のどこにあったのかしら?」



 部屋の中は五人が入っても十分な広さがあり、その中央に大きな台座が一つ。そこには色をなくしたラウンドブリリアントカット要するにダイヤモンドみたいな形の大きな宝石が置かれていた。そして、それを囲むようにして四つの小さな台座があり、そこにも同じように色をなくした宝珠が置かれていた。


「この四つの宝珠の中ですわ、お姉様。今は色をなくしておりますが、宝珠の中にペンダントが入っていたときは、緑、黄色、青、白の光を放っておりましたの」


 その言葉を聞いて、ふうんと秀雄が何気なく近くにあった宝珠を触ってみた。すると、秀雄が首から下げていたペンダントが青い光を放ち、自然と首から離れて宝珠の中に吸い込まれていった。それに反応するかのように宝珠がペンダントと同じ青色に輝き出した。びっくりして秀雄は数歩後ずさる。


「!」


 全員が驚いた顔をして青く輝く宝珠を見つめる。蝶介と悠花は二人で顔を見合わせてうん、とうなづくと、お互い別々の宝珠の元へと急ぎ、秀雄と同じように宝珠に手を置いた。


「まあ!」

「これは……」


 リーサとマーヤも思わず声を出してしまった。蝶介と悠花が宝珠に触れた瞬間にそれぞれが下げていたペンダントが光り輝いて宝珠の中へと吸い込まれていき、緑と黄色に光り輝いたのだ。四つの宝珠のうち三つに色が戻り、それだけでも部屋の中が十分すぎるほどにさらに明るくなった。


 ――さあ、いったい何が起こるというのかしら! 

 

 リーサは興奮と期待に満ちた目で宝珠の輝きを見つめていた。しかし、彼女は何やら様子がおかしいことに気づいて目をしかめる。宝珠の光とともに、それぞれの台座に何者かが現れたのだ。



「おおっ、やっと俺様の力が戻ってきたゼェ!」

「ヌハハハハ! 我輩もである!」

「ふふっ、あんたたちいつもの調子を取り戻したようね! 私もよ!」



 部屋中に蝶介たち三人にとって聴き慣れた声が響いた。

――まさか、まさか……奴らが復活したというのか? 蝶介は思わずズボンのポケットに入っているコンパクトに手を伸ばしていた。


 悠花も秀雄も同じようにコンパクトを手にして構えていた。

――このジェーモン大暮のような笑い方は……あの人しかいない……でも、消えたはずなのに……。

――だって、この声は……この間しりとりで戦った……あの! 


 なんと、光り輝く宝珠の上に、ナイトメア★四天王の三人――マッスル、センチュリー、クリスタル――が姿を表したのであった。

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