09-C ああ筋肉よ永遠なれ
「
「グオオオオッ!」
二つの筋肉が共鳴し、オーラが増幅される。二人の周囲にはなぜかバチバチッと雷のようなものが走り、割れた地面から石が浮き上がる。実況席も興奮気味にこの様子を伝える(いったい誰に?)。
「なんということでしょう! もはやこれは腕相撲の範疇を超えているっ!
「まさに歴史に残る名勝負です。そしてこの衝撃にも耐える腕相撲台も素晴らしいですね」
――
実際に起きたコロンビアの内戦のことではなく、
民明書房刊「
ただの腕相撲なのに地獄絵図。それなのに実況と解説、そして審判の四人は全く動じず、ただただ冷静に二人の戦いを見守っていた。
「うっ!」
力を入れ続けていたマジカル・バタフライの右腕が悲鳴を上げる。
緑色のオーラで自分の力の限界を超え続けていたが、体が耐えられなかった。ぱっと彼女の右腕上腕二頭筋からオーラが消える。
「もらったぜぇ!」
その隙を逃さず、マッスルが反撃に出ようとする。そのときだった。「なんじゃこりゃあ!」マジカル・バタフライの身につけていた緑色のコンパクトから強烈な光が発生し、マッスルの動きが止まってしまった。
「おおっと、なんだこの光は!
「いけませんね、これはもしかすると反則かもしれませんよ!」
「ルール上相手を攻撃または妨害してはいけないというものがありました……審判の様子はどうでしょうか?」
主審は真剣な表情でコンパクトから発生している光とマッスルとを交互に見つめている。そして副審と目を合わせると、一度うなづき「セーフ」と両手を水平に広げた。
「おおっと、判定はセーフ! セーフです!」
「恐らく直接の攻撃などではないと判断されたのでしょう……しかしこの光でマジカル・バタフライは何をするつもりなのでしょうか」
審判と実況席が真面目なのかふざけているのかわからない中も腕相撲は続いている。マッスルの動きが止まってしまったとはいえ、バタフライが負けそうな状況には変わりない。
しかし、コンパクトから放たれるその光はマッスル★ナイトメアがまとっている黒いオーラを少しずつ剥がしていた。
「くっ! 俺様のオーラはそう簡単に剥がれない……ぞ!」
強がるマッスルだったが、確実に黒いオーラが剥がされてなくなっていく。そして少しずつバタフライの腕がマッスルを押し返していく。もはや、決着は時間の問題だった。
「まさか……お、俺様が……ま……負けるハズガァ!」
ジュッという音とともに、マッスルを包んでいた黒いオーラが全て消滅した。と同時に最後の力を振り絞ったバタフライが、マッスルの手の甲を黒いクッションに押し付けた。
即座に主審が頭上で両手を振り、試合終了の合図を行う。副審はいつの間にか持っていた白旗をマジカル・バタフライの方へと掲げた。
カンカンカンカン! 試合終了を告げるゴングの音がどこからともなく響いてきた。
「か……勝ちました!
「そうですね……私も今、興奮を隠し切れませんが……相手のオーラを剥がし切ったところが勝因だったのかもしれませんね」
実況と解説の二人は、本当は抱き合って喜びたかったが(変な意味ではなく、勝利の喜びを分かち合うために)最後まで職務を全うした。
「はぁはぁ、か……勝った
自分の拳がマッスルの手の甲を黒いクッションに押し付けていることを確認したバタフライは、力を全て使い果たして、そのまま目を閉じた。
マッスル★ナイトメアはその様子を確認すると、ふうと一つ息を吐き、「見事だったぜ……嬢ちゃん!」と、からみあったバタフライの拳をゆっくりと離して立ち上がった。
もしかしたら、腕相撲が終わって力尽きたバタフライにとどめを刺そうとしているのでは! とつい今までアナウンスごっこをしていたはずのエターナルとオーシャンがマッスルの前に立ちはだかり、いつでも攻撃できるように臨戦態勢を取る。
「おいおい、そんな野暮な真似はしねぇよ。勝負は勝負。俺様は負けたんだ」
そんな二人の魔法少女を目の前にして、マッスルは戦う意思がないことを示すようにバタフライと腕相撲台から少し後方に離れる。
そして、ムキムキっと筋肉を収縮させると、
「俺様の生涯に一片の悔いなし!」
そう言って、彼は右手を握りしめて空高く突き上げた。
緑色の体からものすごい量のエネルギー(これももちろん緑色)が放出される。それと同時にマッスルの体がだんだんと細かい緑色の粒子になって薄くなっていく。
「嬢ちゃんの強さ、確かに見届けたぜ!」
マッスルは最後にそう言い残すと、完全に消え去ってしまった。この言葉が、気を失っているバタフライに届いたのかどうかはわからない。
しかし、
マッスルが消えた場所には、緑色の宝石をあしらったペンダントが残されていた。そのペンダントはまるで意思をもつかのように勝手に空中をふわふわと漂い、マジカル・バタフライの右手の中に収まったのだった。
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