07-B ナイトメア★四天王登場

 マジカル・バタフライたち三人と、意識を失ったマーヤを抱き抱えるリーサの視線の先、時間の止まった茶色い空に黒く大きな四つの影が現れた。



 明らかに強そうな雰囲気、そして遠く離れているのに感じる威圧感。思わぬ強敵の出現に、バタフライは自分の心臓の鼓動が聞こえていることに気がついた。



 エターナルはエターナルで、「おっ、ついに四幹部……いいえ、四天王の登場というわけね! 私の相手はだれかしら……」と魔法少女アニメの似た展開と自身を照らし合わせワクワクしていた。だって最後は私たちが勝つってわかってるんだから! と根拠のない自信をもって。



 魔法少女になったばかりで大活躍したオーシャンは、四対三での戦闘の場合、ボクがとるべき行動は……と早くも次の戦いに向けての作戦を頭の中でシミュレートしていた。



 遠くにあった四つの影が瞬時に消えた。そして瞬きする間も無くリーサたちの前にやってきた。――疾いぞ……さっきのマーヤとは比べ物にならない……。焦りを見せないように努めたバタフライだったが、汗は頬を伝い落ちる。



 魔物……とでも呼べばいいのだろうか。明らかに人間ではなさそうな四人が――しかも身長は魔法少女たちの倍くらいはありそうな――腕組みをしたり、手を腰に置いたりと各々ポーズを決めながらそこに立っていた。


「四天王よ、バタフライ。こういう強そうな四人のことをそう呼ぶのよ。」


前田、薬師寺、鬼塚、葛西みたいな感じろくでなしブルースの東京四天王ってこと……」


「え?」


「その解釈であってるバタフライアニキ



 緊張のあまり訳のわからない会話をし始めた魔法少女に対して、若干呆れ気味に四天王が話し始めた。



「ふーん……おめぇたちが夢喰い様が言っていた魔法少女か……三人もいるとは聞いていなかったが、まあいいだろ!」

「ヌハハハハ、早速始末してやろうかァ!」

「まずは自己紹介が先でしょ?」

「……そうだな」


 そして夢喰いに仕える四天王が順番に自己紹介を始めた。




 いかにも筋肉キャラといった上半身裸(だが、体の色が緑色なのでいろいろと問題は回避している)で常に胸筋をピクピクさせている男が、モストマスキュラーポーズ(腕を前に出して、マッチョな人がよく「フン!」とやるポーズ……と書けばおそらくみんなわかるはず。想像してからgoogle検索すると多分あってるよ!)をとりながら笑顔で叫んだ。

「力こそパワー! マッスル★ナイトメア!」




 続いてぱっと見た感じ「悪魔」な男が現れた。顔は白塗りで、顔の周りに赤いペイントが施されていて、どこぞの世紀末的なヘヴィメタルバンドの構成員を思わせる顔立ちをしていた。重厚な鎧(おそらくコスプレ)に身を包み、手にはなぜかエレキギター(多分レプリカ)を持っていた。

「お前も蝋人形になってみないか! センチュリー★ナイトメア!」




 次に、ピンク色の長髪をお団子ヘアにした女性が前に出る。今しがた後ろに引っ込んだ筋肉バカとコスプレ悪魔とは違い、眼鏡をかけていかにも頭が良さそうに見える彼女は、恐らく頭脳系のお姉様キャラなのだろう。女性の敵役にありそうな露出の高い衣装ではなく、上下とも黒のTシャツとチノパン、その上から研究者らしい白衣をまとっていた。彼女の口から出てくる言葉の一つ一つが知性的かつ難解で、常人には理解しがたいものなのである。

「ファルシのルシがコクーンでパージ! クリスタル★ナイトメア!」

 



 最後に現れたのは、神々しい雰囲気を持つ男だった。ウェーブのかかった黒い長髪に、痩せ細った体が一部見え隠れする(見えても安全な箇所だ。肋骨とか)破れたローブをまとっている。そして太陽があるわけでもないのに後ろから刺す後光は、まさに救世主メシアのようだった。よく見ると背中に巨大な電飾を背負っていて、そこから後光を発していたことには誰もツッコんではいけないのである。

「我はメシア、明日この世界を粛清する! ミックスアイM I X I★ナイトメア!」




 四人がそれぞれ一歩前へ出てポーズを取り、終わると一歩下がって次の四天王にバトンタッチする。全員の自己紹介が終わると、四人同時に叫んだ。


「我ら、夢喰い様に使えるナイトメア★四天王!」

 ビシッ! と気持ちいいくらいに声もポーズも揃った。思わずバタフライたちも全員「おお! かっこいい!」と拍手を送る。


 それに対して嬉しそうな反応を見せる四天王たち。「ふふふ、練習しておいてよかったな!」とお互いにたたえ合う姿がなんだか微笑ましかった。


「すごいわ! みんなギリギリを攻めてきているわ、さすが四天王ね!」

 マジカル・エターナルが四人の自己紹介を感心して見ていた。全員の元ネタを知っているのかどうかはわからないが……。




 ☆★☆




「さて、おふざけはこのくらいにして……」


 マッスル★ナイトメアが拳をカチカチと合わせながら一歩前に出てきた。緑色の上半身の筋肉がビチビチ!と音を立てて膨れ上がり、力を貯める。そして「ふん!」とパンチを放つと、その衝撃はバタフライの右横をかすめ(右に誰もいなくてよかった!)建物を十軒以上破壊してしまった。


なんですってなんじゃそりゃ!」

 そのあまりの威力に魔法少女全員が戦慄する。


「さあ、どいつから戦う? それとも三人いっぺんにかかってくるか?」

 マッスル★ナイトメアはサイドチェストのポース(わからない人は検索してみよう!)をとりながら、三人を威嚇……ではなく自分の自慢の筋肉をこれでもかと見せつけてくる。



「マッスル……」

 残りの四天王、メシアのようなミックスアイ★ナイトメアが、何度か後方から声をかける。



「ふはははは! 俺はどこぞの町長の色違いじゃねぇからなぁ! 顔と筋肉と言葉遣いが似てるとか言われるけどヨォ!」



 ミックスアイの言葉は耳に届かず、マッスルはアドミナブル・アンド・サイというポーズに移行する。もはやマッスルは魔法少女を倒すというよりも、ただ自分の筋肉を見せたいだけなのではないかと錯覚してしまうほどだ。




「マーーッスルッ!」




 突然大きな声が響き、マッスル★ナイトメアはびくっと体を震わせた。

 ――ミックスアイ★ナイトメアの一言で、こんなにも強そうなマッスルが大人しくなった……。四天王の中で一番の親玉は彼か……。オーシャンが冷静に分析をする。



「ゴフッ、ゴフッ(血)」



 なんとミックスアイ★ナイトメアは大きな声を出しすぎて、数回咳き込んで吐血した。「ちょっと、大丈夫?」と紅一点のクリスタルが近寄って、どこから取り出したのかティッシュを手渡す。


 ――もしかして彼は強いんだが体力的には弱いのかもしれない……勝機があるとすればそこかな、といまだにオーシャンの分析は続いていた。



「マッスルよ……今日は帰るぞ」



 静かに、抑えた声でミックスアイはマッスルにそう言った。「はぁ? なんでだよ! こんなやつら倒すのに1分もいらねぇだろ!」とマッスルは反発する。

「なあ、センチュリーもそう思うだろ!」とマッスルは悪の構成員に話を振った。



「フハハハハハ! 我はミックスアイに従うのみ! できれば早く帰りたいのだ、ミサライブの練習もしないといけないからな!」



 センチュリーはベロを出して人差し指と小指を立てながら意味不明なポーズを取っている。

 ――ライブ……まさか彼のあの姿は……! 何か思うところがあるようで、マジカル・エターナルがじっとセンチュリー★ナイトメアを凝視する。



「とにかく帰るのだ……もう夕方の六時だ、ママがそろそろ夕食を作り始める……そして学生は学習塾で勉強をする時間なのだ」

 ミックスアイはそう言うと、自身の背後に異空間魔法を使って黒く渦巻いたワープゲートを作り出した。


「そりゃないぜ、ミックスアイ! 学習の時間ってなんだよ! な、お前らも戦いたいよな!」

 なんとマッスル★ナイトメアは今度はマジカル・バタフライたちにも話を振ってきた。

「え……」

 バタフライをはじめ、四人が返事に困っていると、



「よい子のみんなは学業第一! 夜遅くまでバトルがあるアニメは健全ではないのだ!」


 ミックスアイ★ナイトメアが敵キャラらしからぬとってもいいことを、また吐血する。


「ゴフッ、とにかく今日は帰るのだ……みんな行くぞ」



 ミックスアイ、クリスタル、センチュリーの三人はすっとワープゲートに入っていった。そして、しぶしぶと不満そうな顔を浮かべながらも、マッスルも帰っていった。



「次は絶対戦うからな! 覚悟しておけよ!」

 という台詞を残して。

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