07-A 夢を包む魔法の海 マジカル・オーシャン
ついに、海原秀雄はかわいらしい魔法少女マジカル・オーシャンに変身したのだ。
肩ほどまであるゆるふわウェーブの青い髪に、耳元に光る水玉のイヤリング。全身にフリルの着いた青い衣装は波を表しているようだった。
確認するまでもないが、青い手袋に青いスパッツと極力肌の露出は抑えられていて青色の編み込みのロングブーツがおしゃれだった。(しかも変身のときしか履くことのない編み込みのロングブーツなので、脱いだり履いたりといった手間は何も考えなくてもよいのだ。だって変身だから)
「うわぁ、これがボク?」
変身した自分の姿を眺めながら、海原がいや、マジカル・オーシャンが感動する。リーサも三人目のマジカル☆ドリーマーズの誕生に思わず見とれてしまっていた。
「グアアアッ!」
光がおさまったことで、マーヤが再び二人に対して攻撃を仕掛ける。一直線に飛び込んできて思いっきりマジカル・オーシャンに殴りかかった。
そこに、オーシャンが「止まれ」と言わんばかりに、すっと手を開いてマーヤの方へ向ける。すると目の前に薄い水の壁が現れて、マーヤの攻撃を弾き返した。「ナニッ!」再びオーシャンとマーヤの間に距離ができる。
「
オーシャンがリーサに向かって軽く指で円を描くような動きをすると、水でできたバリアが彼女を包み込んだ。「これで攻撃は全て防げるから
マーヤにやられてしまった魔法少女二人は、瓦礫の上に並んで倒れていた。コスチュームだけでなく顔や肌まで傷ついている(子供が怖がらないレベルの傷で、日曜の朝の番組なので血は流れ出ていないから安心してね!)ことから、戦いの壮絶さが窺い知れた。オーシャンはそんな二人に両手を差し出して魔法をかけた。
「オーシャン・ヒーリングシャワー!」
なんとみるみるうちに傷が癒え、コスチュームの傷や破れさえも元に戻った。
「ん……?」とバタフライとエターナルが目を開く。
「あれ……傷が……治ってる!」
エターナルが立ちあがり、自分の体の状態を確かめる。「……
「二人とも大丈夫?」
二人は目の前に現れた新たな魔法少女に一瞬驚くも、時が止まってしまっている今、変身できる人物が海原秀雄しかいないということはなんとなくわかったのだった。
「ボクが二人をサポートするよ!」
――あれ、台詞が魔法少女っぽくないぞ。俺みたいに言葉が自動変換されないのか?
バタフライがマジカル・オーシャンの言動を見て、真っ先に思ったのがそれだった。
「
――あ、やっぱり言葉が変換されている。海原は絶対「アニキ、アネゴ」と呼びかけたはずだから、とバタフライはオーシャンの姿を眺めながらそう思った。しかし、あのいかにもガリ勉の秀雄がこんな可愛い魔法少女に変身するんだもんなぁ、面影なんて全くないなぁ……って自分もそうか、といろいろ考えていた。
――ぶっ、マジカル・オーシャンはボクっ娘属性なのね! 尊い、尊いわぁ!
エターナルは思わぬご褒美に興奮し、鼻血を吹き出してしまうがなんとかバレないように手で押さえていた。
そんな感じで魔法少女三人が瓦礫の上でわちゃわちゃしていると、化物に変貌したマーヤがドン! と空から降ってきた。
オーシャンが作ったバリアの中にいるリーサへの攻撃が全く通じなかったことに腹を立て、三人のところまでジャンプしてやってきたのだ。
「ガルルルル……」
もはやマーヤの面影はほとんど感じられなかった。逆立った黒い髪、黒い皮膚に赤い目。マーヤは完全に夢喰いの魔力に侵食されてしまっていた。
「来る
バタフライがそう言い終える前に、マーヤが突進してきた。「さっきよりも疾い!」攻撃を避けることもできず、バタフライの腹部に強烈なパンチが炸裂した。
パシャン!
「!?」
いつの間にかバタフライの目の前に水の壁が発生して、マーヤの攻撃を寸前で防いでくれた。手応えを感じず不思議に思ったマーヤは、今度はエターナルに向かって瞬時に火の玉を作り、投げつけた。しかしそれも命中する前に水の壁に阻まれて消滅してしまった。
「マーヤの攻撃はボクが防ぐ! 二人はなんとか彼女の動きを止めて!」
マジカル・オーシャンが後方で両手を前に出して魔法を使っていた。
「カスケード・ウォール!」(解説:任意の場所に水の壁を作り出して敵の攻撃を防ぐことができる。強度はオーシャンの残り魔力に依存する)
「
これにはバタフライもびっくりした。攻撃することしか能のない蝶介=マジカル・バタフライとは違い、オーシャンは完全に戦闘補助役に徹している。まさに天才的頭脳を持つ秀雄にぴったりの役柄だった。
さらに「リヴァイア・エンハンス!」(解説:味方の攻撃力を大きく上昇させる。これもオーシャンの残り魔力に依存する)という魔法で、二人の体に力がみなぎる。
「すごいわ、力が湧き上がってくるみたい!」
エターナルがマーヤに向かってパンチを繰り出す。するとこれまで以上に勢いがつき、両手を交差させガードしているマーヤをそのまま吹き飛ばした。
これで形成は一気に逆転した。何せ、バタフライとエターナルはただひたすらに攻撃をしていればいいのだから。敵の攻撃は全てオーシャンが作り出す水の壁が防いでくれるのだ。(一見無敵に思えるが、オーシャンの魔力依存なのでそうではないのだ。こういう設定にしないと一部からチートだ! と言われかねないのである)
だんだんとマーヤの動きが止まり始めた。はあはあと肩で息をして、だんだんと言葉も発しなくなってきた。
そんな中、エターナルは戦いながらも一抹の不安を覚えていた。このままマーヤを倒していいのかしら? そんなことになったらリーサが悲しむのではないのかしら。なんとか、なんとかマーヤを救う方法はないの?
すると、彼女の心中を察するかのように、「そろそろ
「三人でマーヤの中にいる夢喰い(の魔力)を追い出す
そこから、無意識のうちに体が動いていた。バタフライ・エターナル・オーシャンの三人が横一線に並び、それぞれ右手を開いて前に突き出す。(当然こんな技があるなんて三人は知らないし、練習すらしていないのだが、無意識だからできるのである。なぜなのかはよくわからないが、とにかくできるのだ)
「マジカル・ドリーム・フラーッシュ!」
緑、黄、青の三つの光が合わさってマーヤの体を包み込み、空高く浮かび上がる。
「グワアアア!」
強力な光によって、マーヤの体から黒いオーラが剥がされていく。その度に、だんだんとマーヤが元の姿へと戻っていく。リーサもバリアの中から、その様子を涙ながらに見つめていた。
「ウワアあああっ!」
マーヤにまとわりついていた黒いオーラが三色の光によって全て剥がされて、消滅した。その後、彼女はふっと意識を失い、もとのTシャツとジーンズ姿でゆっくりと地面に落ちてきた。
「
この時だけ、バタフライの言葉が天空の城専用の言葉に自動変換されてしまったが気にしないでいただきたい。もちろんマーヤは飛行石など身につけてはいない。
リーサを包んでいたバリアが解除され、空からゆっくりと落ちてくるマーヤを両手でしっかりと受け止めた。意識はなかったが、心臓は確かに動いている……リーサは涙を流して喜んだ。
マジカル・オーシャンの言葉通り、マーヤから夢喰いの魔力だけを追い出すことに成功したのだった。
「やったぁ!」
「
「よかった……うまくいったみたいだね!」
三人の魔法少女もその光景を見て、にこりと笑顔を浮かべた。
その時だった。
「おいおい……リーサを始末するどころか、逆にやられちまってるじゃねぇか!」
世界はまだ茶色い。時が止まったままだというのに、どこからともなくそんな声が聞こえてきた。
「
バタフライが空を指差す。そこには大きな黒い影が四つ……夢喰いに使える四天王が異空間魔法を使ってやってきたのだった。
不穏な音楽と、ゴゴゴゴゴという効果音を残してCMに入る。。
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