04-C 久しぶりにシリアスな展開はいかが
「ぎょええええぇぇぇぇぇ!?」
悠花が椅子から飛び上がって「シェー」(イヤミでおなじみ。知ってるザンスか?)のポーズをとって驚いた。
「ば、ば、ば、番所くんがマジカル・バタフライですってぇぇ!?」
「ええ、そうよ。蝶介が変身するのよ」
蝶介は何も言わず、顔を赤くして下を向いていた。リーサは「別に何を驚く必要があるのかしら?」といった様子で、いまだにシェーのポーズを崩さない悠花を物珍しそうに見つめている。
「え、妹さんが変身しているんじゃなくて?」
「そもそも蝶介に妹なんているのかしら?」
リーサが蝶介の方を向くと、下を向いたまま蝶介は首を横に振った。
「そ……そうだったのね……」
――ってことは、ってことはよぉ! 大好き=魔法少女=憧れの存在=マジカル・バタフライ=番所くん……ってことは、大好き=番所くんってことになるわよね? え? え? 私、番所くんのこと好きってこと?
悠花はチラリと蝶介の顔を見る。
――こんなに強面の番所くんを……私が……好き? 嘘! そんなこと考えたこともなかったわ!
悠花は頭の中で変な等式を作り上げ、今度は勝手に顔を赤くして恥ずかしそうに椅子に座り込んでしまった。
両手で顔を隠しつつも、中指と人差し指の間を開けて、そこから蝶介の顔をまたチラリと覗き見して「うそぉ!」と言ってまた下を向く。そしてそんな悠花を見て、蝶介もなぜか顔を赤くしてそっぽを向く。
「で、そろそろ真面目な話をしてもいいかしら?」
ごほんとわざとらしく咳払いをしてリーサが真面目な顔になった。
悠花も雰囲気を感じ取って、いつもの超優等生モードに切り替える。(こういうときは、彼女は切り替えは早いのだ。頭の中で何を考えているかは別として)
蝶介もゆっくりと顔を上げていつもの鬼の形相(本人はただ真面目な顔をしているだけ)でリーサを見つめる。
「蝶介にもちゃんと話していなくてごめんなさいね、この世界では夢野李紗という名前を使っているけど、本当の名前はリーサ=アレクサンドラ=マジカル。マジカル王国の第一王女なの」
やっぱりこの超整った顔立ちと言い、何か上品な雰囲気といい、お姫様だったからと聞けば納得だわ、と悠花は思った。
「……マジカル王国? 聞いたことない国名だけど」
冷静に蝶介が尋ねる。
「ええ、この世界には存在しない別の次元にある国よ。私はそこから異空間魔法を使ってこの世界にやってきたの……『夢喰い』からマジカル王国を取り戻すために」
「夢……喰い?」
今度は悠花が口を開いた。
「マジカル王国の人々の夢を奪い、壊滅させた張本人よ。マジカル王国を足がかりにして、全ての世界の人々の夢を奪おうとしているの」
「さっき戦いのときにいたマーヤという敵は? あの子は『夢喰い』ではないの?」
さらなる悠花の問いに、一瞬李紗の顔が曇る。しかし、覚悟を決めた顔で再び彼女が話を続けた。
「あのマーヤは、私の……妹なの。どうしてなのかわからないけど、あの子が『夢喰い』の封印を解いてしまった……。そしてその手先となって私を始末しに、あの子も人間界に来てしまったというわけ」
――(一応今はシリアスな場面なのに私ったら何を考えているのかしら)ああ、姉妹で敵味方に分かれて戦ってしまう展開……これまでのアニメにはない斬新な設定じゃない!
鼻血を出すまいと堪えている悠花を横目に、蝶介が疑問を投げかける。
「さっき出てきたデカイ化け物……ドリームイーターとかいった……あれは『夢喰い』じゃないのか?」
リーサは首を横に振って、
「あれは、人間の夢が具現化したもの……マーヤが『夢喰い』の力を使って具現化させているから化け物のようになっているけど、本当は純粋な夢の力なの」と答えた。
なんとなく、わかったようなわからなかったような。結局はこういうことなんだよな、と蝶介が再び問いかける。
「その『夢喰い』ってやつを、俺たち二人で倒せばいいってことか?」
「いいえ、言い伝えには『五人のマジカル☆ドリーマーズ』が『夢喰い』を封印した、と書かれているわ。だから私が探しているマジカル☆ドリーマーズは五人。蝶介と城ヶ崎さんを除いて、あと三人見つけるつもりよ」
突然、リーサが立ち上がり二人に向かって頭を下げた。それに蝶介も(もう鼻血は出そうになかった)悠花もなぜか同じようにいけないような気がして立ち上がる。
「今さらなんだけど、マジカル王国を救うためどうか私に力を貸してください。……今日みたいに危ない目に遭うことも、もちろんあると思うわ。でも、頼めるのはあなたたちしかいないの」
深々と頭を下げるリーサに悠花が言った。
「わたしこそ、小さい頃からの夢を叶えさせてもらってありがとう。まだちょっと夢を見てるみたいだけど、わたし協力するわ。だってこういうのは必ず魔法少女が勝つって決まっているんだから! 番所くんも、もちろんいいよね?」
ああ、と蝶介もうなづいた。そんな大事な話、四話目に入ってするのかよと思ったがこれは口に出してはいけないセリフだと悟り、絶対に言わないと心に決めた。
リーサは目に光るものを浮かべながら「ありがとう、蝶介、城ヶ崎さん」と近づいてきて二人の手を握り、そのまま抱きついた。
――ああ! いい匂い! お姫様ってこんなにいい匂いがするのぉぉ!
――近い近い! 李紗とも委員長とも近い! 顔も近いしいろいろ近い!
困惑する蝶介や恍惚に浸る悠花の気持ちなど把握するはずもなく、リーサはただただ喜んでいた。
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