第03話 独裁者は、格好の標的

 米国のドナルド・カードは、政治家としてはずぶの素人だった。強い意志と支援者・投資家がいればなれるのが自由の国、米国だ。

 カードは、描いていた政治との違いに戸惑っていた。中酷やロシアのように権力を持って、自由に考えを実現できると考えていたが、そこには多くの障壁があり、知らなかった真実に右往左往するばかりだった。そんなカードは、狂人呼ばわれされ、敵対視する者を増産する負の袋小路に嵌っていた。そこへ手を差し伸べたのが日本の安倍川晋造総理大臣だった。

 安倍川は、孤立し、困惑するカード側に立ち、親身になって政治とは、外交とはを解いて見せた。カードにとっては、初めて自分を認めてくれた者。それは、傍に付きそうファーストレディであるラニア夫人の判断でもあった。

 カードと安倍川との関係は、蜜月を迎えることになる。何もかもが上手くいくわけではない。独創的で結果を追い求めるカードは、根回しより、まず実行で在り、実業家でもある彼は、自分の才覚を信じ、アメリカファーストを打ち出し、日本との関係に影を落とすこともあった。それを駆け引きと見るか、思い付きと見るかを判断するには、まだ関係密度が様子見は否めなかった。

 カードが気にしていたのは、輸入額と輸出額の差、貿易赤字だった。


 「我が国は、他国を肥やすためにあるのか?こんなにも依存しているのか?これでは国内の産業は衰退し続ける。この状況を改善することが責務だ」


 カードにとって日本は、米国国内の自動車産業を衰退させた元凶だと考え、関税を掛けようとした。しかし、現実には、日本の自動車産業は米国に拠点を移し、労働者を多く雇用し、損失だけでなく、有意義な点もあることに気づかされる。反面、中酷は米国の利益を毟り取り、国内産業の競争力を削ぎ衰退させているだけだと気づく。調べれば調べる程、その悪意は、カードに中酷への不信感を抱かせた。さらに調べを進めると機密技術や特許などが流出していることに気づかされる。産業スパイのような留学生を容易に受け入れている危機感を募らせる。企業と言えば、資金提供で圧力を掛けられ、その経営陣は、カードからすれば、自らの利益のために米国を衰退させている売国奴と知り、愕然とさせられる。

 カードは、強いアメリカを取り戻すために、中酷が介入する事業・企業体に目を光らせた。民間企業は、その仮面を剥せば、中酷国家が管理するフロント企業である事に失望する。

 カードは思い付きで動き、処理は後回し。良くも悪くも、動きは早く、世界への発信力もあった。


 「アメリカに中酷企業は要らない。国家が介入している以上、改善など見込めない。何としても追い出してやる」


と、語気を強めた。


 米国の富裕層の中には中酷企業への投資で至福を肥やす者も少なくなかった。金の亡者にとってカードの存在は、金のなる木に枯葉剤を掛ける邪魔な存在でしかなくなった。その中でも、明確にカード批判を行ったのがビッグテックでもあるGAFAM呼ばれる、IT企業のGuugle、Amezin、Facedook、Aqqle、Mikosoftだった。特に、Finedookのマイク・ハンバーグ最高経営責任者(CEO)は、Aqqleがスマートフォンでプライバシー保護策を強めたことで、選択肢の乏しさと高い手数料が技術革新を阻害している、と懸念を示し、個人情報を収益化している企業体質や管理体制への批判の高まりから目を反らせようと躍起になっていたが、市場は甘くなく、株価・収益は激減の一途を辿っていた。そこで以前から新たな顧客抱え込みに狙いを定めていたのが中酷市場だった。

 ハンバーグは、好条件を提示し、中酷の市場開放を打診するが内部の情報が外部に漏れる事、何より外部情報が国内に入る事を最も嫌う中酷が興味を示すわけもなく、苦戦を余儀なくされていた。彼は、ゲリラ的に中酷を訪れ、大気汚染で国民が苦しむ中、マスクもせず爽やかにサイクリングし、快適な国だ、と中酷を賛美する太鼓持ちのLive配信を行った。

 マスゴミは、資金提供してくれる中酷を敵対視するようになったカードを苦々しく思っていた。それは、ビッグテックも同じだった。カードへの批判は積極的に配信するが、成果は一切報じない。カードの意見・考えは、Witterを通じて世界に配信されていた。良くも悪くも分かり易く、注目度の高いカードの発言は影響力を日々増大させていた。発言力が増大化すると同時に、Witteからのカードの発言に対する検閲が激しくなり、自由な国にあるまじき行為とカードは怒りを顕にした。発信源の阻害は大統領二期目を狙うカードにとっては、死活問題だった。業を煮やしたカードは、通信品位法230条の見直しを打ち出した。SNSが幅広い範囲の免責を容認されていた、この法的効果によって、SNSは訴えを起こされないで済んでいた。それを検討する、いや、検閲範囲を法的に明確にするカードの大統領令は、SNSが保持していた情報統制に大きな影を落とすものだった。

 FinedookのCEOハンバーグは、WitterのCEO・ジャック・ドンキーに連絡を取り、強く我々の危機だと訴え、ドンキーにカードのアカウントの停止を要請した。それまで、カードはWitter社に取ればいい広告塔となっていたためカードの発言に静観していたが230条の見直しを打ち出されては、対岸の火事と性感で着なくなり、ハンバーグの申し出を受け、カードのアカウントを民衆を惑わす発言を行う有害な人物としてWitterの追放を打ち出す。

 これには、世界のユーザーから大量殺人を謳う人物がアカウントを停止されていないのに比較して、実効要請もない発言を取りざたする行為は、言論の自由を大きく阻害している非難を受ける。ユーザーからはFinedookもWitterも時代遅れだ、と新たなSNSを求める声が上がり始めた。ユーザー場慣れが加速する中、WitterのCEO・ドンキーは、私の役目は終わった、笑顔で後任のアン・グラにCEOを託した。

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