第02話 共同富裕は、絵に描いた餅

 熱く、全民代で中酷の夢を語った秀欣平ではあったが、順風満帆ではなかった。

 中酷には、誇れる物が何もなかった。紡いできた歴史も文化革命の名のもとに破壊した。破壊して、その尊さに気づく。その尊さの一部が日本にあった。中酷国民は、それを懐かしみ訪れる。しかし、なぜ、そうなったかは考えない、いや、考えてはならない環境下にあった。それが、今の中酷だった。

 古い物に拘っていては、新しい物は生まれない。歴史を自ら破壊した中酷は、売れればいい、儲かればいいと安価で粗悪品を量産し、経済的には豊かになった。その裏で、工夫や拘りを蔑ろにし、とにかく早く仕上げ市場に流す、物つくりに大切な「思い入れ」を忘れ去り、「信用・信頼」が欠落した国民性に成り下がった。中酷国民の多くは、自国の商品に懐疑心を持ち、食料品や電化製品、自動車など、生命に直接関わる商品を習慣的に買わなくなっていた。

 秀欣平が推し進める戦浪外交は、一時的・継続的に信頼のおける商品を手に入れがたくする現象を引き起こした。有力な購入者を無碍にするのは生産者の損で在り、必ず購買者の言いなりになると高を括っていたせいだ。実際には、オーストラリアの武漢ウィルスの起源調査要請に対抗して発動した豪州産牛肉禁輸措置や石炭の禁輸措置は、自国の食糧難や工業・産業・家庭へのエネルギー不足を生む結果となった。

 このまま戦浪外交を続ければ、経済成長に大きな陰りを落し兼ねないと懸念した秀欣平は、輸出で儲けた金で海外から物を買い成り立っている消費文化を変えざるを得ない状況に追い込まれていた。そこで、輸出主導型から国内消費主導型への経済の転換を「中酷の夢」は中酷人のみならず世界中の人々に恩恵をもたらすとも主張し、国民に自国で生産したものを買うように推奨した。

 中酷では、国の土地を貸し出すことで各省の収益を得る仕組みで在り、また、完成す前に完売し、次なる事業に移行するため、一度の躓きは、借入金の増加や関連会社への不払いを生み出し、負のスパイラルを形成していた。その実例が最大大手と言われる恒大集団が経営危機に晒される事態を招いている。収益増加を欲しさに無計画に工場の建設、不動産開発などに頼り続けることはできず、サービス業主導型の経済に転換しなければならない状態に陥っている。

 中酷強酸党は、債務の返済に関して、他の投資や中酷の評判・価値観に関わる海外の投資家を助ける努力を行うが、一般庶民への対応は見送られる傾向がみられる。庶民から資金を吸い上げ庶民の貯蓄が減る中、消費を増加するためには、将来に対する不安が減らさなければならない。国が補償する債権が信用が出来ない。その矛盾が大きな問題となっていた。

 「どうせ○○国が買うんだ、俺たちが食ったり、使ったりしないから関係ない」という農作物や製品の生産者が多いのを何より知っているのが、中酷国民だった。

 幾ら独裁国家であっても、消費できる国民の意志は変えられない。消費出来ない国民は、もともと買わない、買えない。これが秀欣平が提唱する共同富裕の正体だった。

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