第7話  女って難しい

え?

姉の言葉に対してここまで衝撃を受けたのははじめてだ。とバレバレのウソを今この現状で脳内で創作できる時点でいまの俺はかなり冷静と言えるだろう。


「た、たこ焼きですか? 」

ありがたいことに姉からの撒き餌に先に食いついたのは楓だった。


「そうよ。湊と二人で食べるのは少し女気が足りないわ。」

商売上手な小売店の店長のように先に相手に選択肢をあたえるのではなく、自分の現状を話し、相手の選択の幅以上に大きなスペースを作る。それによって相手の施行時間が延び、結局その申し訳なさからYESを選ばざるおえない状況をつくってしまう。

姉は無意識でしていると思うが、楓にとっては少し荷物が増えただけでは済まない事であろう。


「え、え、えっと。」

この時俺はもう諦めていた。


男の俺から見てもこの状況は覆しがたいことであり、おそらく姉も楓がNOと言ったところでまだひっつくだろうし…。






もうお分かりかもしれない…。





これはフラグであるということを。


「き、今日は遠慮しておきます。親が家で待っているので。」


まさかの出来事であった。

それは俺にとって衝撃的であっただけなのかもしれない。



「そうなの? 楓ちゃんまた来てくれると思うから今回は返してあげる。

またいつでも来ていいからね。うちは暇人が一匹居候しているから。」


「おい、余計なことを言うんじゃねぇ。」

さすがに俺も反射的にのどが動いてしまった。


「あはは…。」

さすがに楓も苦笑いするしかない。

どうしてくれんだよ…。


「それでは失礼します。」


「湊、楓ちゃんを駅まで送って行ってやりなさいよ。」

「いえ、そんな…大丈夫です。」

俺が少しかっこつけて「当たり前だ。」「言われなくても分かってるよ。」とかの洒落おつな発言をする前に彼女は遠慮した。


「楓ちゃん、男ってのはね、使えるときに使っておくものなの。こうゆうときに男ってのはじぶんを良さとか優しさとかのグッドポンイトが引き出されるものなのよ。

ほらっ遠慮なく。」


自分の考えていたことの九割五分が姉の発言によって伝えられたことを考えてみると身の毛もよだつほど恐怖案件だろう。


「いえ、あの…お言葉はとても嬉しいのですが、今日は母が迎えに来てくれますので本当に大丈夫です。」


「あ、そうなんだ。それはそれは。お母さんとどこで待ち合わせしているの?」

「少し歩いたところに車一台が止められそうなスペースがありましたのでそこで待ってもらっています。」


「湊、そこまで楓ちゃんを送ってあげなさい。」

「言われなくても分かってるよ…。」


この言葉すこしさっきとはわけが違ったのかもしれない。

それでも少しでも楓と二人きりでいる時間を作りたかった。


ただそれだけだった。


姉はたこ焼きの準備をすると言って一階に下りて行った。

少し間をおいて俺たちも一階に行き、そして家を出た。




「今日は本当にありがとうございました。お姉さんとおしゃべりができて本当に嬉しかったし、楽しかったです。」

「面倒見だけは良いからな、あの人。」


「実は…その俺も楽しかった…。」

熱帯夜ではないもののあたたかいでは言い足りないような暑さだが、空はもう真っ暗になっていた。

急沸する恥ずかしさに耐えきれずに思わず顔を背けてしまったが、語尾にまで干渉することはなかったので、相手にはしっかりと伝わっているだろう。


「それは良かったです。」


「・・・・・・・・。」  

「・・・・・・・・。」



お互い無言というのは

かなり気まずいものだ。

自分から話しことのできる話題はいくつもあるものの、それをいつ、どのタイミングで話せばいいのか分からず、結局喉の奥で待機したまま。

補欠合格で学校から連絡が来ず、なんなら普通に不合格だった方が気持ち的には」楽だったじゃん。的な。


「黒谷君にとっての勉強する目的とは何なのでしょうか?」

「え、」


ここでまさか勉強の話題になるとは…。

いや、話題を振ってくれただけでも感謝するべきだろう。


「姉貴のため。ただそれだけだ。」



良い大学に受かるため。

こうゆう研究者になりたい。

官僚になって高収入の人間になりたい。


勉強する目的といえばこんなのしか思いつかない。

そりゃ、もっと深く掘ればもっとあるだろう。



一番悲しいことは夢に破れることではなくて、破れるような夢を持てないことだ。

これは俺の考えに過ぎない。

ほかの考えもあるかもしれない。


姉は俺と同じ高校に入学した。

成績もかなり優秀で政府が企画した理系の自由課題の研究コンテストでは最優秀賞を受賞して大学からの推薦も来ていて印鑑を押すことで大学生活が見える状態になっていた。


そんな彼女を姿をみて恨みを持たない生徒がどこにいただろうか。

彼女はいじめを受け結局、推薦権を蹴らざるおえなくなってしまった。



「そんなことがあったんですね…。」

「すまない、あまりいい気持ちになる物ではなかったが話してしまって申し訳ない。」


「そんな、湊君は悪くないです。」

彼女は立て続けにこう尋ねた。


「それでも一般入試で大学を受けられるのではないでしょうか?」


思わず体を止めてしまった。

彼女も少しして立ち止まる。


「それは…」


口を開けたその時であった。

一台の車のライトが俺の眼球を刺すようにして現れた。

そこから出てきたの女性の方だ。

黒の歩本


そんな彼女の姿の見ていると次第に彼女との距離は近くなっていく。

気づけば目の前にいた。


「バシッ」


叩かれたのは俺の頬だった。







 

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