第6話 新たな道の代償  

「そうなのね。」

凪咲は言葉で俺を突き放した。

いや、俺がそう感じただけなのかもしれない。


「なんだよそれ。」

「何でもない。」


俺たちの会話は冷たいようで熱かった。

簡単に説明すれば、気持ち残ってないような会話をしているようで実際は強い思いが隠されていた、的な。


グラスに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと、彼女は俺にこう言い放った。


「もう、今までの湊じゃないってことね。」


そして席を立った。


俺は彼女を止めなかった。

いや、止められなかった。


俺は悔しかった。

心の中の葛藤に耐えて、また耐えて。

刻々と刻まれる傷口もいずれ深くなる。


そんな彼女の心境に今気づいた。



これは俺の失態だ。

俺の手で解決させる必要がある。

そう言って心のなかで俺の中の不純物質にさよならを告げた。





去っていく凪咲をあとに、俺は少し考えた。

まだ、注文したフライドチキンが待っている。


まず、凪咲と楓との距離をどうにかして近づける。それじゃないと話が上手く進まない。


考えろ。


頭の多くを占めたのはこの言葉だった。


「お待たせしました〜。フライドチキンです。揚げたてですのでお気を付けてください。

あ、お客様??」


俺は全く気づかなかったが、店員さんがフライドチキンを運んでくれていたらしい。




「これで良し。」

10分ほど考えた末一つの考えを導き出した。


_______________。


勿論、今はまだ制作段階。

案ができただけでまだ具象性に欠ける。

自分の意見だけで討論し、よりよくしていこうと思う。


「あっ。」


目を覚ますと目の前にフライドチキンが。

フライドチキンを頬張りながら冷静に考える。


もっともっと掘り進めろ。

自分らしさを求めて。





会計を終え、家に帰った。


「ただいま〜。」

やはり家の様子は安泰だ。

家族構成が姉と弟だけなら必然的にそうなるのかもしれない。


俺は自分の部屋に入って直ぐにベットに飛び込む。

人生これさえあれば良いってこういうことなんだな。


いやぁ、難しいな。

てか、今日オカリナ同好会に行く予定だったのを忘れていた。


※このように黒谷 湊は一つのことに集中しすぎると他のことを忘れがちである。


うわぁぁぁ。

やっちまったー。

死んだ。

詰んだ。

どしよ?


とりあえず、楓に連絡しないと。

いや、LINEで連絡するべきか否か。


こういう大事な連絡をLINEでしてしまうのは何となくだけど嫌だ。

彼女に直接言った方がいいのかもな。


よし、気持ちを切り替えて姉貴の手伝いでもするか。

切り替え、大事。


そう思っていた最中だった。


ドアから物音がした。

それもコンコンという。


「湊君、ちょっといいかな?」

楓だった。


以前来てくれた時と完全ではないものの、似た状況と言える。

しかし、俺自身はかなり冷静沈着を保っていたのではないだろうか。

自分自身で実感しているほどだからよっぽどだ。


彼女に対して「どうぞ」と返答すると彼女はそっとドアを開けた。

少し恥ずかしながらも俺の顔を見つめてくれる。

「くれる」とかいうあまりにも変態でいつ110番を押されてもおかしくない表現をしたのにはちょっとした訳がある。


はじめはお互い緊張しすぎて今までちゃんと目と目による会話のキャッチボールは俺と彼女の中で前例を見ない出来事だった。

正確ではないかもしれないが、肌がそうやって感じているのもまた事実だ。


「楓。少し話が合って……。」

歯切れの悪い会話だがまだ話さないよりかはマシと言える。


「わ、私も少しお話をしたくて……。」

お互い考えていることは違うかもしれないが、根幹は似ていた。


「じゃあ、気持ちを切り替えてお互い自己紹介出でもしよっか。」

「え、自己紹介?」

「うん、だってまだ付き合いたてほやほやじゃん。お互いの知らないことを言い合って理解し合うことがデートとかより優先されるべきかなって。」

「確かにそうですね。」


双方合意の上、自己紹介タイムに移行した。

先攻は俺からになった。

まぁ、先攻と言っても攻めるわけではないけど…。



「えっ、えっとぉ……。」

滲み出て隠しきれていない陰キャ臭。

いや、もう隠す気などなかったけど。


肺に直接酸素を入れ込むようにやさしく、そして丁寧に息を吸った。


「黒谷 湊。

16歳。好きな食べ物はうどん…かな。

部活には所属していないけど、姉の手伝いとかしているからクッキング部みたいな感じかな。好きな教科は数学。苦手な教科は国語、とくに現代文といった感じかな。」


やべぇ。ほんとに何を話せばいいのか分からん。

口先はまだ何かを話そうと、何かを伝えようとしていたが場の雰囲気を考えたのか大人しくなってしまった。


「じゃ、じゃあ。次は私の番ですね。」

彼女も俺と同様に体全体から陰キャ臭が漂っていた。

いや、普通にそんなことを考えてしまう俺が一番ゴミなのかもしれない。

でも彼女はゆっくりと上唇と下唇を離した。


「私は桐谷 楓です。

16歳で好きな食べ物は甘いもの全般です。好きな教科は英語で苦手教科は数学です。

趣味はイラストを描くことです。最近コミケに出すためのイラストを製作中です。ええと…。あまり趣味を持たない人間なのでこれくらいかと。」


いや、ごっつええ内容ジャン…。

謎に地方特有の訛りを披露してしまったが、そんな事を気にするほど俺の状態は安定していなかった。


「イイイイ、イラスト? コミケ? めっちゃすごいじゃん!!!」

「いいいい、いえ。そんな。まだまだ未熟者なんで。期待して頂けるものなんてかけないですよ。」


彼女の頬はかなり赤くなっていた。

まるで鍋からあげてすぐの茹蛸のように。


それから楓が描いたイラストを見せてもらったり、好きなケーキの話をしたりと少しぎこちなさを感じつつも盛り上がっていた。

気づけば日没も数分といったところだろう。

小学生なら親の愚痴を言ってチャリを漕ぎ出すところだろう。


そんな妄想が少し頭をよぎった。

自然に笑みもこぼれていた。


しかし安定した酸素供給をした覚えがあるのはここまでだった。


「ガチャ」と音を鳴らしたのは俺の部屋のドアだった。

入ってきたのは姉貴だった。


「今日の夕食たこ焼きだけど楓ちゃんも食べてく?」


え?







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