第5話 公開


「さては湊君、何か隠してますね??」

おっと。


「え、な、何も隠してなんかないよ。ほら、ここの問題…。」


「もう。誤魔化しは無理ですよ。さぁ、私に言っみて。」

「あ、はい。」


あ、なんか素直になっちゃった。

ダメだ。

ここで負けるな。


「実は俺は桐谷と…」

もう、止められない。

正直、美由希にバレたからと言って周りにそれを広めるかと問われたら、そういう柄ではないだろう。


しかし、念には念を。

だから、言いたくなかった。


「その、桐谷と…」

もう一度言い直す。

そのときだった。


「友達になりたいのですね!! 分かりました。私も手伝います。湊君って桐谷さんみたいな女の子に対してコミュ障になりがちなところありますもんね。そうですか。そんなに私に対して躊躇しなくてもいいじゃないですか。 ねぇ?」


うん、まぁ。

そういう話にしておく。


約束を守るか嘘を通し抜くかだったら、後者の方が優先順位は低いと考えた。


だって、約束は約束だもん。


「まぁ、そう。美由希だから、なんか相談に乗ってくれるかなーって思ったり思わなかったり…。」


美由希の残念なところは鋭いように見えて実は鈍いところだ。


先程の数学の問題でも、解法が分かっていたとしても、計算ミスをしていた。

そんな感じで美由希は天然といえるのかもしれない。


「じゃあ、放課後少し話できる?」

「あぁ。よろしくです。」


なんか、自分が動揺して変な言葉になってしまった。


しかし、美由希の鈍さに助けられ、何とかこの話は終止符を打った。

いや、まだ終わっていないのかもしれない。


3ヶ月とかしたらこの話されそう。


時は順調に過ぎていき、気づけば帰りのホームルームの時間だった。

この前提出したノートが返却される。


どれだけタブレット教育が盛んになったとしても、ノートで課題を提出するこのシステムだけはなくなって欲しくないものだ。


ノートに文字を書くことが特別好きな訳では無いが、まとめノートとかは結構好きなタイプだ。

自分の考えと混ぜることで表現力の向上にと繋がるから、一石二鳥とも言えるだろう。


この日は国語のノートが返却された。

そして生徒の席にノートが置かれていく。

ちなみに置くのは国語係だ。


国語係とは、主に提出物の回収、返却を仕事として、教科担当の先生からの伝言等も預かることがある仕事の役割だ。


さらに言えば、ここの国語係は桐谷だった。

桐谷が教室の周りをグルグルしているのを見てなんだか、違和感を感じた。


付き合っている感覚ねぇ。

ない…。

再び彼氏らしいことをしたいと思ってしまう症候群が発症してしまったのである。


「ふぅ。」

嫌な考えが何度も頭をよぎるので俺は思わずため息をついていた。


「なんだ、ため息なんかついて。」

声を変えてくれたのは健太だった。


「よお。なんもねぇよ。頭の9割は勉強しかないからな。」

「それは無理があるだろ。」

「すまん。」

マジレスすんなよ。

そこはもっと滑らかに乗ってくれると信じていたのに…。

俺のギャグのセンスの低さには誰もが驚くことであろう。


そうこうしているうちに桐谷が俺の方へ近づいてきた。席順でノートが返却されるので徐々に近くなっていたのだ。


彼女の顔はいつも通りだった。

別に俺のことを意識してウィンクなんて尚更だろう。


バット。

俺は見ていた。


いや、キモイとか思わないで欲しい。

実際下心に関するワードは何一つ浮かんでこない。


なんであんなに可愛いのに陰キャ女子として過ごしているのだろうか。


サラッと浮かんで直ぐに消えた。

まぁ、実際人間って隠したいこといっぱいあるし。


「あっ。」

口を軽く開けたのは俺だけではなかったのかもしれない。


桐谷 楓が腕に乗せられた数多のノートが宙を舞った。


彼女も倒れそうになっていた。


脳よりも脊椎よりも早く体のどこかが足に信号を送った。


「彼女を助けろ。」と。




俺の足は最大火力の筋力で彼女の方向に飛んだ。

両腕に負荷がかかった。

お姫様抱っこだった。

いや、スライディングお姫様抱っこか。


「あ。」

もう、時すでに遅しだった。


周りの目線は俺と桐谷に集中する。

逃げることはもう出来ない。


「きゃっ。」


さすがに彼女の羞恥心を溜め込むタンクもキャパオーバーになってしまう。


彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

そして、走って教室を出ていった。


ヤバいどうしよう!!


俺も追いかけようと跪いた足を立てた。

そして走ろうとした。

そのときだった。


「湊。ちょっとぉ。」


背後から威圧を感じ取った。

凪咲だった。

逆にココで思ったことを言おうとしない方が凪咲らしくないのかもしれない。


「あんた、あんたねぇ_______________ 」

この言葉に被せるように、教室のドアが開く。


「ほら、速く席について。ホームルームの時間よ。」

教室の騒音を優しい声で吹き消したのは、担任だ。


名前は井藤 倖永さちえ

今年、新卒で高校教師になった自称頑張り屋さん。

女性らしい紺色のスーツがよく似合う女性だ。


それを可能にしているのが、細い脚、服を着ていても分かってしまうほどの縊れのあるボディ。

そしてボタンが今にもホームランを打ってしまいそうな子の胸。

読者の方もさぞかし鼻の下が伸びているだろう、手鏡必須ですね。


「えっと、今日も一日お疲れ様でした。明日も七限授業頑張ってくださいね。

先生からの連絡は…あ、夏休みの宿題についてです。」

クラスの士気が一気に暴落した気がした。

そりゃあ、宿題多いもん。

だって進学校だもん。


「主要五教科については各授業で説明されると思いますが、わたしからは作文について説明をしたいと思っています。」


「えー作文? 最悪ー。」

「絶対いらんて。」

「先生、それって本当に必要なんですか?」


多くのヤジが飛び交う中でも先生は話を続ける。


「作文は文系理系に関係なく必要です。それは入試に使うかどうとかではなく、大人になって入社した時に資料の文章が分かりにくい、誤字が多いってなったら会社でもなかなか苦労するよ。だから、今のうちに一生懸命努力していい大人になれるように頑張りましょう。先生からの連絡は以上です。今からプリントを配布するので。それ配り終わったら解散ということにします。じゃあ、室長さん、号令を。」


「起立」

「気を付け」

「ありがとうございました。」

『ありがとうございました。』


よし、今日はもう帰ろう。

何となく、今日という日をチートディにしようとした。

そうは言っても家で勉強はしてるけどね。


ブーブー。

最近、通知が来て良かった試しがない。

スマホのホーム画面から凪咲からLINEが来ていると知ったが、正直タダで済む可能性はゼロに等しいだろう。

「今からクネダに来て。話あるから。」



知ってました。

ここ最近、嫌な予感が的中してしまうのは何かの勘違いだろうか。

絶対何かとりついている…。

今度知り合いの霊媒師に見てもらおう。(そんな知り合いはいません)


俺は少し早歩きでヨネダに向かった。

ヨネダは華名高校近くの喫茶店だ。

華名高生にも人気がある。

メニューは安価でドリンクバー無料。

人気にならない理由がない。


店のドアを開けて、店員さんに待合ということを伝えて俺は周りを見渡した。

いた。


かなり真剣な表情をしていた。

それもそうか。

試合前の控室にいるボクサーのような雰囲気で脚を組んで腕を組んで…。

めっちゃ怖いて。


「お待たせ。」

「そんなに待ってないから大丈夫よ。」


……。


全く会話にならない。

てか、何を話せば良いのか分からない。


「とりあえず、何か頼もうか。」

そう言って品書きを取ろうとしたとき、凪咲の口が開いた。


「湊。」

「どうした?」


「桐谷さんと付き合ってるの?」


それは空気抵抗なしでまっすぐに飛ぶストレートな投球だった。


「うん」


「そうなのね。」



ここからどう話せば良いの………。


マジで言葉が出ない……………。







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