第2話 激白

「オカリナ同好会? 本当にそうなの?」

「はい、部員がかなり少なくて…」

「付き合うがてら同じ部活に入って欲しいと…。とりあえず状況は分かった。」

「はい…。」

正直なところ、まだ全然分かってないし、わかってないところが多すぎてもはや脳が活動停止を発表してしまいそうだ。


「で、俺のどこが好きなの?」

「そうですね、ケーキ屋さんで頑張ってるところでしょうか?」

「え、マジで?」

俺の家ってそんなに有名なの?

名前はHOPEって言うんだけど、ネットとかで調べても全然ヒットしない、無名店ですよ。

「もしかして常連さんかな?」

「そうですね、母がそこのファンだそうで、クリスマスシーズンや誕生日のお祝いはいつもHOPEでケーキを買っていますよ。」

そんな…ファンとか言われると涙で太平洋作っちゃうて。

「てか、俺がもしこの告白を断ったどうするの?」

断ったらとか仮定するとかまたクズすぎなんよ、俺。

でも、気になったもん、しょうがない。

「その時はHOPEに直接行って説得させ、オカリナ同好会に入ってもらうようにします。」

またまた、卑怯だけど、上手い考えようだ。


「ダメ、ですか?」


なんだか、断りずらくなってしまった。

本心がどうとか置いておき、とにかく…。


「分かった。俺たち付き合おう。」

「本当ですか! ありがとうございます!!」

彼女の瞳がまた一段と輝いて見えた。

何かどうあれ、彼女は悪そうな人じゃないし…多分大丈夫でしょ。


物語が分裂し始めたのもこの瞬間だったのかもしれない…。


ブーブー。

俺のスマホが振動した。

ブーブー、ブーブー。

また振動した。

どうやらLINEではなく、電話らしい。

スマホの画面をチェックする。

「げっ。」

夜桜先輩からだった。


「もしもし、黒谷です。」

「あなた、今何をしているのかしら?」

「えっと…。学校にいます。」

「理由は聞かない代わりに今から三十分以内に家に来なさい。さもなければ…。」

「わ、分かりました。行きます。行きますって!!!」

プチッと切れた電話も歯切れの悪いノコギリのようだった。

いやぁ、詰んだよ、これは。


「ごめん、ちょっと今から用事があって!」

彼女との話はもう進んでいなかったが、一言かけて、家に猛ダッシュした。


こんなにも、ダッシュしたのはいつ頃ぶりだろうか?

持久走くらい本気で走ってるぞ。

リュックの重さで少し速度が落ちたものの、その重さを馬力に変換するような爽快な走りをした。

駅までいつも歩いて十二分。

走ったら六分で着くだろう。(推測に過ぎないが)

予想とは違えど、七分で駅に着いた。

制服のポケットから定期券を取り出そうとした。

あれ、ない…。

本日最大の死を実感した。

いや、大丈夫。

俺はリュックから財布を取り出し、英世を切符売り場の機械に流し込んだ。

急いで切符を購入し、駆け込み乗車をした。


セーフ!!


冷静な判断は出来なかったけど、なんか運良く閃いた。

この閃きに感謝してもしきれないだろう。


揺れる電車の中で未だ定期券を見つけていないことが忍ばれて何となくリュックを漁る。

やっぱりない…。

どこかで落としたのだろうか?

落としたのなら洒落ごとで済む話出なくなってしまう。

姉にしこたま怒られ、機嫌を損ねる。

俺の学生人生はどれだけ姉の努力が反映されているかと聞かれれば、恐らく全てと答えるだろう。

学校での消耗品の全ては姉が働いてくれたおかげだ。

そんな姉に迷惑なんてかける訳にはいかない。


しかし 、リュックから定期券が出てくることは無かった。

姉に正直に言おう。

それか、自転車で登校しよう。

HOPEから学校までは自転車でも遠いが、決して行けない距離ではない。

自分のミスは自分で償う。

よし、明日から自転車登校だ!!


そんな決意をした直後、駅に着いた。

この失態をどう対処するかの対策を練っていただけだが、時間を忘れるほど没頭していた。


改札口を出た後も俺は猛ダッシュした。

あと十分で家に着くといったところだろうか、正直分からない。

アズ ファスト アズ ポッシブルで家まで直行した。

横断歩道の青信号が点滅していても走る。

いや、いつも守ってない。

道路を曲がるときは左右を確認するべきだが、それも無視。

これは流石にしてますね。


「着いたぁ。」

目の前にはHOPEという看板がある。

店の看板だ。

急いで裏口から家の中に入り、姉の部屋に入った。


「すみませんでしたぁぁぁぁ。」


急いで土下座するも時すでに遅し。

ニコニコした姉とは対象に研ぎ澄まされた鋭い目つきが俺の眼球を襲う。

「一体何をしていたのかしら?」

「ホントに何してたんだろうねぇー?」

女子二人に対して男子は俺一人。

負けフラグがヒラヒラと舞う。

「学校にいました。」

「ふーん、なにをしていたのかは知らないけど…。」

「けど…?」

「ケーキが美味しいから許すことにしたわ。」

罪より団子って奴か。(黒谷 湊作)

「ありがとうございます…。」


「じゃあ、私は店番戻るから。」

姉貴、そこは出ていっちゃダメーー!!

まるでこの状況を想定していたかのような計画性のあるこの行動に少しムッとしたが、ここは手を引くことにした。


「で、学校でなにしてたのかしら?」

さりげなく夜桜先輩が問う。

「いや、それ聞かないって言ってたじゃないですか…。」

「人間って気まぐれな生き物なのよ。」

そんだよ、その生物学みたいな言い訳は…。

「僕も気まぐれなので言いません。」

「それでいいの?? それで本当ににいいの??」


いつもの圧力がフライパンレベルとしたら、今は圧力鍋の最大出力といえるだろう。

まるでこの人の負のオーラを全て俺にぶっ放したような…。


「嘘です。すいません。」

「よろしい。」

何がよろしいだ、この野郎!!

全然よろしくないわ。何言ってんだお前!

自分の都合の良いことばっか言いやがってこの、この…。

あだ名が出てこなかったので俺の心はターンエンドした。


「実は…。」

言葉はできてもそれが上手く喉から出てこなかった。

「えっと…。えっとですね…。」

彼女が出来たなんて言い出したら先輩はどんな表情をするのだろうか?




自分のベストアンサー


「先輩実は彼女が出来ました!!」

「嘘ね。」

「いや、ホントですって!!」

「嘘ね。」

「いや、根拠ないでしょう。」

「あるわ。

あなたが冴えない系男子であること。

努力実らない系男子であること。

ケーキ作りが下手系男子であること。

約束守れない系男子であること。

ほら??」



ニヤッとした顔つきは元からではないだろ。

そんなドヤ顔されても気づくのは俺のガラスハートだよ。

こんな感じで信じて貰えずしたい話のレールに彼女を乗せられないパターンが有力だ。


でも、もしかして信じもらえかもしれない。

それでも結果は良い方を指さないだろう…。



カランッカランッ。

店のベルが鳴った。

誰かお客さんが来たのか。

この時間は客足が少ない。

珍しいな…。


「それで…。早く言っちゃいなさいよ。」

先輩は俺を焦らす。

俺はまだ彷徨っていた。

天使と悪魔が登場しようとしていた。

もう言うしかないか…。

「実は_______________」


「湊ー!! お客さんだよー。上がってくそうだから鍵開けてあげて。」

HOPEは防犯のために二階にも鍵が掛かっている。

俺は鍵を開けるため、部屋を飛び出た。

この空気感に耐えきれなかった弊害だろうか、少し外の空気が新鮮に感じた。

恐らく健太だろう。

今日手伝うって言ってくれていたし…。

でも、LINE来てなかったな。

まぁ、そんなこともあるか…。

俺は鍵を開けて扉を開けた。


「え。」


まさかのまさかだった。

これには驚きを隠せない。

俺の目の前にいたのは、桐谷 楓だったということ。


「定期券、落としてましたよ。」





「マジ?」

ホントにまじか。

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