第7話

 気がつくと、俺は勤務先の病院のベッドにいた。

 110番通報をしたにも拘わらず、一言も話さないことを不審に思った警察官が駆けつけてくれて、意識不明の俺を救急搬送してくれたらしい。

 俺は3日間眠り続けていたそうだ。御医者様ドクターは首を傾げていた。意識が落ちた原因は、不明。首を絞められたらしいことは主張したが、絞められた痕跡はなかった。警察が指紋を採ろうとしたが、首の皮膚からは何も検出されなかった。

 検出、といえば。

 俺が眠っている間に、が逮捕された。空き巣の常習犯で、裸足で住宅に侵入する癖がある男だった。灰のような足跡に交じって、足の指紋が検出されたことで、スピード逮捕につながった。

 犯人は、以前この病院の清掃員をしており、俺の彼女のことを一方的に知り好意を抱いていた。

 彼女が俺と同棲することを知った犯人は、住居を特定し、空き巣のスキルを駆使して管理人室から鍵を盗み合鍵をつくり、それを使って部屋に侵入していた。俺が夜勤明けでシャワーを浴びていたときに鏡越しに見た影は、犯人だったのだ。このときすでに合鍵は持っており、俺が施錠を忘れたことは原因ではなかった。

 彼女とつき合っている俺が気に入らない犯人は、俺の私物を盗んでいたそうだ。今のところ、私物で済んでいて、良かった。彼女のネイビーのマグカップやブラックコーヒーが盗まれたのは、俺の私物だと犯人が勘違いしたからだ。

 俺が早番から帰るときに近所の人が不審がったのは、俺の部屋から出てくる犯人を見て、友人にしてはタイミングがおかしいと思ったらしい。

「俺は彼女のボディガードだ。あんな男から彼女を守っていたんだ」

 犯人は、そう主張したそうだ。

 盛り塩を崩したのも、犯人。俺が彼女に嫌がらせするためにやったのだと、犯人が思い込んだのだとか。

 ただ、疑問も残る。

 灰のような足跡からは、証拠らしきものが何も出てこなかった。指紋もなく、ごく普通の灰だった。

 犯人が言うには、そんな足跡はなかった、と。

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