第6話

 目を疑った。

 盛り塩が、崩れている。

 彼女が丁寧に設置し、気にしていた、盛り塩。彼女自身が崩すはずがない。崩れていたことに気づかないとは考えられない。

 一層嫌な予感がした。ここにいてはいけない、と思ってはいる。だが、確かめないわけにはゆかない。

 俺は自分に発破をかけるように、よし、と大きく頷き、玄関から先に進んだ。

 端から見れば、俺は滑稽かもしれない。嗤われても、いい。自宅が何者かに侵されているのだ。状況を把握しないわけにはゆかない。

 脱衣場。俺の電気カミソリとシェイビングクリームが無い。

 風呂場。俺のシャンプーが無い。

 キッチン。彼女用のペットボトルのブラックコーヒーがない。

 俺の部屋。嵐のように荒らされている。

 そして何より、全ての床に灰のような足跡がある。

 あ、これ、駄目だ。

 俺の中で、何かが折れた。

 すぐにスマートフォンを出し、震える手で番号を押す。

 110番。

 発信した直後、突然息ができなくなった。目の前には何もいないのに、正面から首を絞められている感じがする。

 目の前が、ちかちかする。

 俺は彼女を守れない。ボディガード失格だ。

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