第5話

 しばらくの間、特に何も起こらなかった。強いて言えば、彼女のネイビーのマグカップが行方不明になった。

 盛り塩は、ずっと行っている。

 勤務中に嫌な空気を感じることはあるが、一瞬だけ。

 彼女との関係は、良好だと思う。友人を連れてきてホームパーティーを行うこともあり、近くの部屋の住人に「よく友達を呼ぶのね」と呆れられてしまった。騒いでしまったかもしれない。

 不安なことといえば、夜勤明けのあの日に、鍵をかけて昼寝した気がしないことだ。それだけが、心に引っかかっている。



 遅番勤務を終え、夜勤の彼女に声をかけ、雑貨屋で彼女のマグカップをプレゼント用に買って帰宅。近所の人とすれ違ったときに首を傾げられたが、大した意味はないだろう。

 鍵を開けて玄関に入ると、本能が警鐘を鳴らした。

 玄関の盛り塩が、崩れている。

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