第23話 お気の毒ですが、円卓に居るみたいです

皇国の騎士団の為に用意された円卓。

其処には称号騎士が多くそろっていた。

その内の一人、車いすに座る、両手両足を戦争にて失った女性、マグナ・マテルが不幸など感じさせない爽やかな笑みを浮かべて進行を始める。


「それでは、今回の議題である、ジャック・オ・グレイマンの処遇について、話を始めましょう」


円卓に座るのは十六の席の内、僅か七名だった。

序列三位・四位・七位・十一位・十二位・十四位・十五位の七名。


「現状では二点ほどの処遇があります。一つめは離脱の認可か、もう一つは復帰させるか、この二択になります」


話を始めるマグナ・マテル。

その内容に頷き、口を開くのはレグルス・レオンハートだ。


「当然、復帰だろう。今回の事件は不慮の事故から始まったものだ」


今回の様な事件は、復帰が正当だと告げる。

その内容に対して、自らの口髭をなぞりながら反論する騎士まがいの男が口を開いた。


「しかし、何故ジャック・オ・グレイマンが皇国の騎士団へと戻らないのであるか?兵士に勤めている時に解雇されたのならば、当然騎士団へと向かい、除名を改めるであるに」


序列十四位の『首騎士バンシー』コシュタ・バワーだ。

彼の言葉に対して、レグルス・レオンハートは苛立ちながらも冷静さを装って首を縦に振りながらその言葉に反論する。


「心身共に、ジャック・オ・グレイマンは疲弊しており、正常な判断が出来ていなかった。きっと今も心神喪失で戻れない状態にあるのだろう」


だから、復帰の線で話を勧めようとするが、更に其処から声を張って話に入る。


「何をバカな事を言っている…、仮にも騎士だ。誇り高き騎士は心身共に強靭でなければならない。なのにそうではないとする以上、そもそもその男には騎士の資格など無かったと言うことだ」


その男は序列十一位の『炎騎士スルツィ』ムスペルである。

白髪で若い相貌の彼は、同じ炎の伝承を持つジャックに対して敵対心を抱いており、曰く、自分は彼のせいでこの序列十一位などと言う位置に座っているのだと逆恨みしている。


「その通りである。奴の除名は必然的、それは確定しても良いのである」


同じ意見である為に、バワーは指を鳴らしてムスペルに指をさした。

その行動に対して、ムスペルは反吐が出る様な表情を浮かべる。

同じ意見であろうとも、同類とは思われたく無かったのだろう。


レグルスは歯噛みした。


「(グレイに役目を奪われた炎騎士と、楽して地位を挙げようとしている首騎士…、こいつらの意見は否定的だと言うのは知っていたが…)」


しかし流れが不穏ではあった。

このまま、ジャックの追放へと話が流れそうになっている。


「他に何か代案があるものはいますか?」


「…はい」


しかし、其処で手を挙げたのは赤髪の少女だった。

視線が一気に彼女の方に向けられる。

彼女の近くには、序列七位のエリザベート・ドラキュリアが少女の腕を掴んで枕の様にしていた。

あの狂暴なエリザベートを御する彼女こそが、序列三位・『龍騎士ドラグーン』と呼ばれたシグルズ・ドラキュリアであった。


「…復帰で良いと思う」


シグルズは簡素にそう告げた。

ムスペルは彼女を睨みつけながら聞く。


「理由は?」


「…?いるの、理由?」


「おい下位互換!お姉さまが復帰で良いって言ってんですのよ!?だったら臭い息吐く事なく賛成しろですわッ!!」


エリザベートが額に青筋を浮かべながらムスペルにかみつく。


「黙れ狂犬…お前が俺に指図をするな」


「はぁあ!?たかが十一位の癖にぃ!?序列七位に命令しますのぉ!?頭沸いてるじゃないんでしてぇ!?」


指揮棒を構えた。

二人は戦闘体勢に入りつつある。


これはいけない。

そう思い、レグルスが立ち上がった最中。


「やあ諸君、お集まりの様子だね」


円卓へとやって来る一人の男。

鮮やかな黒髪に蒼き瞳を持ち、その頭の上には小さな王冠が載せられている。

健康的な肌色を全面に押し出しているその男の体は濡れていて、そして全裸だった。


「(何故全裸)」


「(何故濡れている)」


「(何故大きい)」


三者三葉の考えが重なり合う。


「先程まで湯浴みをしていてね、会議があると聞いて急いでやって来たのさ…さて、本日の議題だけど」


「その前に服を着てくれ」


レグルスが目を細めて彼の体を見てそう言った。

彼の肉体美は女性を虜にしてしまう程に美しいが、しかしレグルスにはその魔性を秘めた肉体にはなんら心をときめく事は無かったらしい。


「そうですわっ!お姉さまに愚物を見せつけてんじゃねぇですわよ!」


中指を突き立てて男の体を睨みつける。

これは失礼と軽く笑みを浮かべながら額に手を添える。

慌てる様に、眼鏡を掛けた従者が円卓の中に入って来る。


「ロウ・ド・エンズさま、お召し物を」


「あぁ!?」


エリザベートとムスペルが眉を顰めた。

ムスペルが手を翳すと、炎が背中から噴き出て、女性に向けられて放たれる。

同時に、エリザベートが指揮棒を振ると、女性の地面から杭が現れて従者を突き刺そうとした。


「凡人が易々と入って良い場ではない」


「勝手に入って来てんじゃねぇよアバズレェ!」


そう叫び、女中に向けられた攻撃が、身を焦がし肉を貫く事は無かった。

駆ける姿すら見かけず、それでも颯爽と女中の前に現れるロウが、女中の体を抱いて扉の前に立っていた。


「やあ麗しい人。僕の為に服を持ってきてくれたのかい?いやあ嬉しいなぁ。折角なら僕の衣装着替えの手伝いをしてくれないかい?…と言いたい所だけれど、キミにも仕事があるだろう…服を置いて仕事に戻ると良い」


「あ、あの、ロウ・ド・エンズさま、ありがとうございま」


最後まで言う事無く、女中の唇に指を添える。


「お礼を言うのはこちらの方さ、さあ、キミの活躍を待っている人がいる、その人の為に尽力すると良い」


服を受け取って、女中を円卓の間から遠ざけるロウ。

女中が持ってきてくれた赤いマントを巻くと、彼は円卓の椅子に座る。


「失礼をしたね。彼女の命はどうか、僕の詫びで許してもらえないだろうか?」


笑みを浮かべるロウに、エリザベートは舌打ちしながらも指揮棒を下げる。

ムスペルも同上に炎を消した。


「さて、議題だけれど、グレイの処罰をどうするか、だよね。なら簡単さ。彼の脱退を認める。それで終わりで良いだろう」


そしてロウが勝手にそう決めて立ち上がる。


「これで議題は終わりだね、じゃあみんな。久しぶりにお茶でもどうかな?」


「待て、勝手に話を」


レグルスが割って入ろうとしたが、既に席を立っていたマーキュリーが彼女の肩を叩く。


「もう終わりですよ…議題は終わりました」


口惜しく、レグルスが歯噛みした。

ぎりぎりと音をたてながら、王冠を被るロウ・ド・エンズを睨む。

これが他の称号騎士ならば殺してでも発言を撤退させただろう。

だが、彼は他とは違う。


「(奴に口答え出来る者は数少ない…序列一位・『焉騎士ハルマゲドン』ロウ・ド・エンズ…ッ)」


皇国の騎士団で絶大な力を秘めた男。

それが、全裸である彼であった。

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