第17話 お気の毒ですが、乱入してきたようです

燃え盛る火が闇を殺し、光を生み出す。

兵士崩れたちはこの時、手を止めて二人の戦いを見守る行動に移っていた。

一騎討では、他の戦闘行動は禁じられている。

双方の合意が無い限り、滅多に行われる事の無い儀式ではあるが、今宵この時、双方の同意を以て一対一の争いが始まる。


「(先手必勝、即座に叩き込むッ)」


最初に動いたのはジャックだった。

お決まりの収束炎による推進力を得てクロムレックに前進する。


「(早い、炎の聖霊神魂か、炎を放出させる事で速度を上昇させている)」


迫るジャックに向けてクロムレックは機械で出来た義手を振り回す。

クロムレックは、大きな義手をジャックに向けてではなく、自らの後ろに体を向けて手を振り上げた。


「(背後に攻撃、何を考えているんだッ)」


ジャックの攻撃が来るまで一秒も満たない。

クロムレックがジャックの方に向いて再び攻撃するにしても、二秒以上の時間を有するだろう。

ならば、ジャックの攻撃が一足先に成立する。


「(チェンジリング)」


ジャックの攻撃が当たる寸前。

クロムレックの姿が消えた。

同時、ジャックの後ろに立つクロムレックの巨腕が彼の体を叩きつけた。


「ッがッ!」


背中を強打されて地面に叩きつけられる。


「(攻撃が背中からッ!?俺以上に速く移動出来る能力か!?)」


ジャックは背中を痛めながらも即座に態勢を整える。

クロムレックは義手の腕を軽く回しながらジャックに顔を向ける。

笑ってはいない、真剣な表情だ。彼は一手でも間違えれば自分が負けると思っている。


「(違う、何か違和感がある)」


ジャックは炎の放出を抑える。

拳に熱を宿す程度に留めて、クロムレックに向けて拳を叩きつける。


「(速度を削ぎ、威力に注いだかッ)」


クロムレックは義手を振り回してジャックが接近しないように距離を引き離そうとする。

斜め下に向けて振られるクロムレックの義手にジャックは身を屈めた状態で攻撃を回避すると、出力を増加させて左腕から炎を噴火させる。


推進力に使役していた炎をクロムレックの身を焼き焦がす為に放出。


「(チェンジリング)」


クロムレックは内心そう呟くと共に、ジャックの前から姿を消す。

そしてクロムレックは背後に立っていた。

クロムレックは今だ、ジャックが反応出来ていない事を良い事に腕を振り上げて無防備な背中に向けて義手を叩きつけようとするが。


「(収束)」


解き放った拡散する炎が一束となると、彼の体は浮いて後方へと飛んでいく。

ジャックの狙いは其処だった。攻撃に転じた火炎放射を収束させる事で、背後へと移動したクロムレックに向けて射出していった。

背中のまま体当たりを受けたクロムレックは地面に倒れる。


「(やはり位置が違う、コイツの能力は…位置替えか)」


ジャックはクロムレックの〈聖霊神魂デウスソウル〉を見抜く。


取り換え子チェンジリング』。

有する能力は対象と他対象との位置の取り換え。

この能力によってクロムレックとジャックの位置が逆になっていた。


「(ここぞと言う時に使われたら危なかった…けど、流石に一度見れば仕掛けは分かる)」


「(俺の能力に対応したか…本来なら、相手の核心となる攻撃を回避した上で反撃を行うのが有効打…しかしそれが出来なかったのは、この男の攻撃、その全てが一撃必殺に勝る…それ程に威力が絶大だ)」


互いが互いの情報を脳内で揃えながら対処策を浮かばしていく。


「(推進力は捨てる。自力で接近して相手を叩く。炎を放出する攻撃は位置替えで俺に喰らう可能性がある)」


「(手を晒した以上、最早打つ手はなし、しかし有効策があるとすれば、この義手、もう一度攻撃が入れば、相手を怯ませることは出来る、確実に戦況が変わる)」


そして、二人が脳内で戦況を思いながら拳を固めた。


「「(勝つのは、俺だ)」」


両者、その様な感情が思い浮かんだ。

そして、接近戦にもつれこもうとした最中。


「止めよ止め、なんだその争いは、見ていて全然、面白味も無いわ」


天空からその様な声が聞こえて、青白い稲光と共に、二人の間に落ちてくる落雷があった。

土埃が舞い、二人の足は一瞬止まる。


目に埃が入らぬ様に、口と目を手で覆うジャック。

何が来たのか、それを確認するよりも早く、兵士崩れの一人が恐怖に歪んだ声を漏らしだす。


「ひ、ぃいい!!で、出たッ!出たァ!!」


「雷、雷騎士…ユピテル、だッ!!」


雷騎士ユピテル』。

その名前を聞いて、ジャックは喉を鳴らした。


「まさか…いや、だったら…」


ジャックは土煙から出て来る、ボロの外套に身を覆う、白髪に紫色の布で片目を覆う老人の姿を見た。


「…師匠」


脂汗が滲み出す。

一騎討に乱入して来た老人は、老獪とは思えぬ綺麗な歯をむき出して笑うと。


「いようスルト坊や。代理戦争に出たと聞いたが、今はどうだい?なんとも、弱くなったじゃないか」


にやり、と笑みを浮かべる。

しかし、ジャックは笑えなかった。


「…貴方が此処に居ると言う事は……」


「うむ。お前さんが戦争から帰り、精神病を患ったと聞いたから…様子を見に来た。確かに…これはなんとも、見るも無惨な、いや無様なサマになったの」


ジャック・オ・グレイマン。

ジュピター・スプリーム。

彼らの仲は、師弟関係であると同時。


「敵を人と思うな、自分を人と思うな、化物を殺す化物となれ…そう教えた筈だがの…なんとも、人間らしいじゃないか…もう一度。化物にしてやろうか?」


殺し合いをする仲でもあった。


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